決して質の良い物語が用意されているわけではないし、ヒロインの魅力を引き出すようなエピソードが盛り込まれているわけでもない。それでもやる価値はあったと声を張り上げたい。それほどまでに「彼」の存在は私にとって大きなものだった。
lightの10周年記念に作られた作品で、原画はイミラバや潮風で有名な泉まひるさんが担当している。泉まひるさんの絵は個人的にかなり好きで、愛らしさ美しさエロさの三拍子が揃っていると心の底から思う。そういった意味でも本作をプレイするのがとても楽しみだった。
で、本題のやってみての感想だが、めちゃめちゃ面白い作品...ではなかった。マイナスポイントを二つ挙げると、まず共通パートのボリュームである。初めてルート分岐した際は、面白くはないがヒロイン達のことを多少は理解できたし悪くないなくらいの感想を抱いたが、二周目以降はその大して面白味のない戦闘と無駄に長い尺に中々苦しめられた。意外に個別分岐の条件がシビアで、ヒロインによっては序盤から共通パートを読み直す必要がある点も追い打ちになっていた。甘い判断で読み進めていくたびに未明ちゃんとのデートが始まってしまい天を仰いだ。
次にヒロインの個別ルートの出来があまりよくない。振り返ってみると作品の都合上、仕方のないことではあるのだが、それにしても中身がなかった。例によってヒロインと結ばれ、そこから核となるシナリオが展開されていくわけだが、それがかなり薄い。ゼノビア、オフィーリアについては結構重要なポジションなのでそれなりに読み応えがあるし、大事な要素が詰め込まれているのだが、他四人は内容のわりに尺があったので少々困惑した。あれくらいの内容であれば、恋愛要素を強めてサクッと終わらせた方が綺麗だと思う。
といった具合でこれもう無理じゃないかと六人目のヒロインの話を読み終えた時点では思ったのだが...グランドルートはかなり良かった。何が良かったかって、それはもう「相馬 菊哉が最高」に尽きる。あまりテンションを上げてしまうと菊哉コールで終わってしまうので、まず他で良かった部分について触れておくと、終の司が生まれた経緯が凄く良く出来ていた。
まさかここにきてバッドエンドの存在を生かしてくるとは思わなんだ。もっと無意識集合体のようなものがラスボスとして立ちはだかるものだとばかり思っていたので、彼の台詞の全てが驚きだったし、これ以上に納得できることもないと。展開だけ見れば結構見る展開なのだが、きちんとした準備してきてくれたのが効いたなと。アドベンチャーゲームをやっている感があるというか、久方振りにこういった種類の興奮を覚えた。その後の総力戦の構図も眺めていて気分が良かったし、ゼノビアとフィー先輩が「某姉妹」といじられているのも面白かった。
で、総力戦の途中でお待ちかねのアイツがやってくるわけだ。そう、菊哉の出番さ。
「おいおい。まだ寝るのは早いんじゃないか?」
「ああ、お前の愛しい親友だ」
「ちょいと遅れちまったが、助けに来たぜ。安心しな。今度はオレも力になる」
ヒロインルートで残滓として登場したので来てくれるかなと思いつつも、そんなメインヒロインみたいなタイミングで来ないかと諦めながら読み進めていたら、しっかり助けに来たので思わず椅子から立ち上がってしまった。...本当にメインヒロインになってしまったではないか。達観したような台詞の節々に愛が籠っており、彼というキャラクターのことを今まで以上に好きになった。当時、人気投票があったのかどうか知らないが、あったら間違いないく一位は彼だったろう。
嬉しいのが終の司も菊哉のことを大好きな点で、菊哉の力がとどめの一撃になったにもかかわらず、どこか嬉しそうに笑っていた。「菊哉ぐらいくれないか?」というのはきっと本心だったのだろう。私が彼でも同じ台詞を吐くと思う。彼も外の世界に弾き出される前は"司"であったわけなので、彼の心情を思うと菊哉が敵として向かってくるのは悲しくもあり、嬉しかったんだろうなぁと。逆にヒロイン達とは結ばれる前なので、菊哉ほどの思い入れはないのかもしれない。鳴なんかは幼なじみ故に思うところもあるかもしれないが。
エピローグでもしっかり菊哉の良いところを出してきて、菊哉ファンとしては大満足の締めになっていた。本当になんでこんなホモホモしてるんだよ最高かよと叫びたくなるような読後感で、それまでのマイナス要素を加味しても自分好みの作品として胸に残った。二十時間くらい悶々としていても、最後の一時間で花が咲いたような表情を浮かべてしまえるのだからエロゲは凄い。
やる価値のある作品でした。良き親友との出逢いに感謝。