天狗の存在する世界における青春物語の3作目。専用のグラやBGMが前作までより多く仕込まれており、ノベルゲーとしてのクオリティは向上しています。ですが1作品としても連作としても、残念なところが見受けられたノベルゲーでもありました。
1作目が女の子同士の物語、2作目が男の子同士の物語でそれぞれ青春物語が
書かれていました。そして本作は人間の男子と天狗の女子の物語。男女で恋愛要素が
書かれないわけがなく、かつ前作までの世界観や展開を考えれば、最後は種族間問題を
男側が乗り越える話立てになるのは必定。晩秋あたりで先のオチが読めてしまいました。
加えてラストはどうにも影を落とす内容。連作ながら1つの作品として綺麗に読みきれた
過去の2作とは異なり、後の作品へと繋げる伏線としての役割を本作は多く持たされて
いたように思います。結果、覚悟を背負ったハルタ君の近い未来を考えると、どうしても
前向きな気持ちにはなれませんでした。
パーツごとを見れば楽しめたシーンは多数存在します。ハルタと義継の論戦は文京区の
〇大生&OBであることを実証するかの如く知性的で読みごたえがあり、それでいて相手を
思いやり冷静であったのがとてもカッコ良かった。平行線にしかならないことを理解した上で、
議論を進めてお互いに歩み寄ろうとする男達の描写は素晴らしいものがありました。
そして何より猪飼ですね。胡散臭い登場の仕方からどの立場になるか予想もつかなかった
彼がここまで魅力的になるとは。優しく不器用な彼が主役となる冬の物語がこの作品で
一番印象に残っています。ハルタとの関係が実に気持ちが良かったです。
とまぁ楽しめたシーンは多数あって、それは当シリーズだから味わえる要素でした。
ですがそうして積み重ねられたシーンから最後が語られて気持ちよく読み終えることの
出来た過去2作に対し、本作は伏線にネガティブ要素が多すぎて読後に物足りなさが
残ってしまった。以降のシリーズに大事なことなのでしょうが、単体の作品として見て
しまうとシリーズの中では見劣りしてしまうように感じました。
あと気になったのが、悪役が天狗でも人間でもなく、そのコロニーの執政者に問題の
全てを投げている点です。人間も天狗も同じような思考・執政をしていて、そのどちらもが
人間世界で描かれがちな悪役ムーブそのもの。種族間問題をテーマとしているのに
問題を政だけに言及し、ましてや人間と文化の異なる天狗達を人間と同じような思考思想で
悪役としていることに少々残念な気持ちになりました。種族問題じゃなくて政治の問題を
テーマにしているように見えてしまう。
この後は賢狼ハルカの過ごした明治・大正時代が舞台となるようですが、個人的には
問題の火種を過去に人間が犯した失敗と同じものとせず天狗という存在、天狗社会
だからこそ発生した、あるいは人間と衝突した問題をテーマとして扱ってほしいですね。
以上、これまでのシリーズと同じように楽しめましたが、1作品としてのクオリティと
舞台設定に残念な部分が散見されてしまったのが本作でした。どのような形でも
良いので、次回以降で改善されていることを願います。