ダンジョンに潜って、戦って、お宝を見つけて、強くなる。その単純で当たり前なルーチンを普段以上に楽しめたのは、お宝が本当にお宝だったから。RPGと文字だけのテキスト、一件相性の悪そうな要素で素晴らしいシナジーを生み出した作品でした。字を読むのが好きな方でないと楽しさ半減かも。
純粋なハックアンドスラッシュ型RPGとしても十二分に名作ではあります。戦闘の
バランスは良好。登場人物たちはいずれも魅力的。システム周りのストレスも軽めで
ほとんど不満は出ないと思います。
しかしRPGとしてのプラスαが一見存在しません。潜って戦ってアイテム見つけて
強くなっての、いわゆるハクスラのテンプレート。キャラが良いとはいえどもそれも
ゲーム主体のRPGとしての範疇。後期作『ざくざくアクターズ』程の爆発力はない
ですし、それ目的だけでプレイしたのなら、オールクリア前に飽きが来る可能性も
少なくありません。
よくできているけど途中で飽きる。その評は正鵠を射たものですし、私も納得では
なく理解に及びます。おっしゃるとおりです。
しかしそのような作品に対し、私は「ノベルゲームと比較して」最高に近い得点を
つけました。RPGとしてノベルゲームと比較し、高評価した理由。それは本作が、
テキストの魅力を存分に生かした作品だからです。
本作はアイテム欄でヘルプを表示させることができます。装備可能者や属性が記載
されており、攻略に必須のコマンドなのですが、その下に100~200字ほどの、
アイテムに関する様々が書かれています。主人公のアナンタが、ダンジョンで発見した
道具を持ち帰り、調べて記した代物とのことです。
こう書くと十把の収拾ゲーにありがちな図鑑モノなのですけどね。内容の一つ一つが
実に情感溢れているのですよ。ゲーム序盤こそシンプルでゲームを覚える邪魔にならない
よう脇役しているのですが、中盤4人PTになったあたりからが本命ですね。とにかく
表現が多彩で飽きがこない。
その中身はまさに玉石混交。ですが石でも本当にしょーもなくて脱力してしまうものも
あれば、はっちゃけた上にプレイヤーへ煽りをかます腹立たしいもの、見た目普通の
石なのにとんでもない劇物だったりと、石の一つ一つに味がある。無駄なテキストが
まったくないんです。本当に無駄なのもあるけど、無駄であることが意味だったりして。
もちろん玉の方も悲喜こもごもなエピソードばかり。お正月に世界を渡り歩き、玩具を
配って回る女神様の話。魔王を倒した後、妬み嫉みから魔物へと変じられてしまった
少女の話。早世した、とある登場人物の妹の話。無敵の防御力を持つが一切の攻撃
手段も持たない魔王の話。
いずれもが時には真に迫る、時には優しく穏やかな、時にはやるせない気持ちを与えて
くれる。そんな文章に溢れているのです。......と思えば焼き魚が蘇生アイテムで
地対空装備化して戻ってくるから始末に終えない。しかも単体2連撃で妙に使いやすい
のがまた腹立つw
アイテムの一つ一つに笑いや涙があって、その一期一会が本当に楽しい作品なんです。
新しいアイテムを発見したら、まず装備欄でエピソードを確認する。んで属性やパラを
見て、説明に相応しい装備だったり名前負けしてたり、ギャグ説明なのに超有用
だったりで一喜一憂できる。ゲーム部分が面白いだけではないのです。
そんなアイテムを徐々に徐々に集めることで『らんだむダンジョン』の世界は構築
されていきます。様々なエピソードにしょーもないギャグ落ち、時には登場人物の
エピソードなんかも補完されて、ゲーム本編だけでは見えてこない世界がどんどん
開けていく。
その間にゲーム本編もまた進行していきます。裏とは名ばかりの本編はそれこそ怒涛の
連続で、キャラを取り巻く世界に興味が湧き出すのもこの頃。キャラをユニットとして
動かすことで愛着を持ち、シナリオでキャラや世界に入れ込んで、アイテムで魅力を
更に増幅補完する。それが本作が持ちうる真の魅力です。
だからお宝が本当にお宝なんですよ。名前とか強さとかじゃなくて、冒険を繰り返す
ことで新たな世界が見えるわけですから。もちろんいつもアタリを引けるわけでは
なくて「くっだらねぇ...w」とガッカリもしますし、とんでもない禍物を掘り当てて
やべえよやべえよってなったりね。その一喜一憂が最後の最後まで楽しいんです。
ゲーム進行にも上手く合わせてあったりしますしね。後半で「カルマバランサー」と
いう雑魚が登場するのですが、こいつがもうクッソ強いんですよ。初遭遇したときは
ほぼ全滅しますし、以後も会ったら成仏を覚悟するレベル。コイツだけのために特化の
装備を組み立てるぐらい厄介で、プレイヤーなら特に印象に残る雑魚なんです。
とはいえ徐々にこちらも強くなり、対処法も覚えて攻略できるようになるんですが、
登場時期が終わるか終わらないかのあたりで、カルマバランサーのエピソードが記された
アイテムが登場します。その内容を見て「もう嫌だ二度と会いたくないわアイツ」って
感情がガラっと変わるんですよ。もうほんとテノヒラクルーで。「あぁ、あの強さはそういう
ことか」ってなる。軽く凹むぐらいに変わるんですよね。切なくなる。
逆のパターンだと魔剣を持ったあのキャラが、魔剣を手に入れた理由とか。渡した
人物はゲーム最終盤で登場するんですが、その理由を記載していたのはなんと中盤
ややすぎた頃のアイテム。しかも理由がほんっとうにしょうもねぇ...!w
もうね、クライマックスで見せたカッコ良さが一気に崩れましたわ。いやまぁ実際は
そんなカッコ良くないけど、その上でイメージが地に落ちたw
そんなサプライズも用意されているから、新しいアイテムの一つ一つが楽しみなんです。
アイテムを集めるのが目的だからではなく、テキストを読みたいからアイテムを集めに
潜る。目的が作中の目標ではなく、いつのまにかプレイヤーの欲求にすり替わっているの
です。これを達成できたRPG、果たしてどれだけ存在したでしょうか。
製作者さんもその辺を理解した上で最後まで製作されているのですよね。その最たるが
「無理ゲータワー」と名づけられた本作最後のイベント。本編を軽く上回るボスが
用意されたエンドコンテンツで、作中でも「無理せず本編戻ってね」的なアナウンスが
されますし、ブログでも「無理ゲーは無理せずに...」とおっしゃられるほどです。
実際けっこう歯応えのあるバトルが待ち構えています。
クリアしても経験値とお金、あとは装備アイテムが1体1つずつ。もちろんアイテム
なので中のエピソードは楽しめるけど、それだけなら無理して攻略する程のものでは
ありません。(各ボスのエピソードが垣間見えて、私的にはこれだけでも攻略したかい
ありましたけどね。)
でも本当のご褒美は、最後の1戦の前に何気なく置いてあるあの言葉。アイテム欄を
追い続けた人だけが意味を理解できる、驚愕の真実が書かれているんですよ。いや
こう書くと「いや盛りすぎだろお前」思うでしょうけど、いやいやアレはビックリする
でしょ。「は?......はぁ!?」ってなりましたもん。リアルで声でましたしw
アイテム説明を含めて、攻略wikiを見ればその内容は全部載ってはいます。けど
情報の重さもさることながら、自分が能動的に見つけたその事実が楽しいんです。
ダンジョンに潜って、見たことのないアイテムや生物、情報を見つけてお宝として
堪能する。自分でやったという事実が大事なんです。
だから「無理ゲータワー」なんつー名前だけで腰が引けるコンテンツに、惰性でなく
世界を楽しんできた人で、かつ挑戦して努力して勝利した人だけが掴める情報として、
世界一二を争う秘密が置いてあるんです。未知の世界に挑戦した人だけが味わえる
感動。そんな「冒険」の最たる醍醐味が、挑んだ人だけに用意してあるゲームなのです。
繰り返しますが、攻略wikiを見ればアイテムの説明は全て読めますし、最後の謎も
ちゃんと書いてあります。けれどあの情報を何気なく見たときの背筋がゾワゾワっと
なる瞬間。それは自力で見つけたプレイヤーだけが味わえる体験です。だから本作の
ジャンルは「お宝ざくざくダンジョン」。文字通り、お宝をザクザク探せるRPG
なのでしょう。
それを楽しめたのは、RPGとしての一級品のバランス。魅力に溢れたキャラ個性。
そして世界を想像させて創造させるテキスト。様々な要素が一体となったからこそ。
戦闘が楽しいからついでにアイテムを見つける。テキストが楽しいからシナリオを
進めて新ダンジョンを出す。お話の続きが見たいから戦闘で強敵を倒す。長所同士が
シナジーを生み出して、1つのゲームを完成させているからです。
以上、「RPGとテキストを融合させた、本当にお宝探しのできるRPG」。
それが本作『らんだむダンジョン』の評です。大変素晴らしい作品でした。