重苦しい人間模様とミステリー要素を織り交ぜた女性向けのノベルゲー。特にシナリオとテキストの質が高く、読み進めるのが辛いのに読まされてしまう牽引力を持っています。女性キャラはほとんど登場せず美少女ゲームを好まれる方には不向きかもしれませんが、上質なシナリオ系ノベルゲーをお求めの方はぜひ。同系統の一流エロゲに勝るとも劣らないクオリティです。
名門学校で寮暮らしをしている5人組が、死んだ親友の兄貴を寮内に監禁するシーンで
開幕。新任の若教師を巻き込んで監禁を続けて話は転がるのですが、のっけからヤバい
匂いしかしません。先生は同僚や生徒にいびられ、兄貴は説明もなく監禁され続け、
5人組は常に何かを企んでる風。情緒不安定な人物の多さも手伝い、とにかく重苦しい
空気で進みます。
しかし理由は一切説明されません。監禁する事情。生死があやふやな親友。先生が
同僚にまで疎まれるわけ。ただひたすらに謎だけが蓄積していきます。特に序盤は
文字通り説明がないので、イライラしたり重さに耐えられず止めてしまう方も少なく
ないでしょう。
それだけに解明シーンのカタルシスは膨大です。各エンディングに至るまでの過程に
バランスよく事実が散りばめられていて、中盤以降は一切中だるみを感じさせません。
加えて事実に登場人物の想いを絡めてくるため、当事者たちのキャラクターに深みも
与えてくれます。ほぼ例外なく重いので知るのもまた辛いのですが、でも先が気に
なるから読まされてしまう。実に巧妙な「惹き」を持った文章と物語です。
ですがハイレベルなシナリオとテキストに他要素が追いつけていない点は気に
なりました。それでも音楽やグラフィックスはそれぞれに物語やキャラクターを盛り
立てていましたし、見せ方もノベルゲー特有の手法を用いており、メディアの利点を
引き出せていたと思います。
問題は演出関連。立絵は切り替わるのみですし、動きのあるシーンでも文章だけで
説明されていて勿体ない気がしました。元より静的な作品なので過剰に動かすのも問題
ですが、それでも行間の「溜め」や音を切るタイミングや処理はあってもよかった
かなと。また慟哭するシーンの大半が同じ文章で処理されていて、淡々と進みすぎ
じゃない?と思った箇所がちらほらと。ノベルゲーの演出を重視される方はプレイ前に
留意しておくことを推奨します。
ということで文章で物語を読ませる作品が好きな方にオススメです。鬱々しい空気に
好き嫌いはあると思いますが、面白い物語をお探しであれば手に取って損はしないかと。
20時間越えと決して短くはありませんが、ひとたびハマればあっという間に終わり
ますし、実際それだけの牽引力を持った物語です。
以下ネタバレ所感や気になった点などを。プレイ前に読むと間違いなく面白さを
損ねますのでご注意ください。
◆和泉ルートについて
圧巻でしたねー・・・見事に不意打ちをくらいました。
和泉ルートは他キャラに比べてかなり地味というか、彼自身の問題が比較的軽いんです
よね。一方で並行して語られる物語の謎は重要で、どうしたって後者に目を向けてしまう
というものです。そこへ落とされる、和泉のアイデンティティをぶち壊す一撃。
いやー画面前で5分は固まりましたねw
騙された―!という一握りの悔しさと多大な爽快感、久々に堪能させてもらいました。
点数も和泉ルートの存在だけで+5点しています。
◆大人と子供
本作のテーマですが、明確な線は引かれていません。子供から脱却できない大人も
いれば、学生が大人の分別を見せることもある。ただ学生たちは子供の部分が顕著で、
槙原や賢太郎は子供な一部を抱えながらも大人であろうと努力精進しているだけです。
当たり前の話ですが。自分の弱い部分を受け入れて、自分の発言や行動を相手のせいに
しない、責任を持てるように成長すること。色々激しいですがごく普通の成長物語です。
その上で興味深かったのが槙原と神波の類似性です。正反対な性質の二人ですが「人を
言葉で自分へ依存させる」という点では全く同じ「子供」を抱えています。口八丁で
誑かそうとするのは槙原も一緒ってことですね。神波が瞠と共依存関係にある点も同じ。
ですが師匠からイネーブラーの指摘を受け自他に責任を求める槙原と、そそのかすだけ
で責任は相手にブン投げる神波は、最もわかりやすく大人と子供を表現していたように
思います。本作は幽霊棟の6人を大人へ導く物語。では大人と子供の違いとは?類似の
欠点と正反対な向き合い方をする2人が、一つの基準となっていたように受け取れました。