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amaginoboruさんのScarlett ~日常の境界線~の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
Scarlett ~日常の境界線~
ブランド
角川書店
得点
70
参照数
305

一言コメント

HシーンやおまけFD部分はカットされていますが、新エピソードの追加により群像劇チックな作風が更に色濃くなり、結果として登場人物の魅力を原作以上に引き出されています。加えてバランスの悪かった作品全体の構成に芯が通り、エンタメとして様々な面白さを持った良作へと昇華されています。本編を堪能するのであれば、PC版よりPS2版の方がオススメです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

PC版から追加されたエピソードは4種類。

 1.明人訓練時代
  旧1~2章の間の話。九郎やしずか、アメリアと過ごす休暇を描いたインターミッション。
  しずか無双です。

 2.ミリオントロイオンス
  旧2~3章の間に挿入されたメインエピソード。ノリは最も軽くギャグテイストですが
  後半はばっちりスカーレット節が炸裂しています。高級諜報家の荒唐無稽な作戦も健在です。

 3.隣人
  旧3~4章の間に挿入された、やや短めのメインエピソード。ナセルの過去と嫁さんの話です。

 4.美月アフターストーリー
  ねこねこ恒例の後日談。ギリセーフさん無双です。

 5.削除要素
  Hシーンと、おまけFDが全カット。





PC版のプレイ時は、諜報家エピソードの少なさに物足りなさを感じましたが
ミリオントロイオンスが挿し込まれた事で程よい長さとなり、作品全体のバランスが
良くなっています。独特の雰囲気を持つ旧3章も、旧2章→ミリオン~とクッションを
挟んだ事で、性急さを感じることなく楽しむ事ができました。

逆に隣人は、作品のテンポを若干崩してしまった感があります。旧3章から旧4章への流れは
PC版のままでよかったかもしれません。とはいえ他に挟みこめる場所といえば、ミリオン~の
直後か、クリア後ぐらいしかないわけで、何とも難しいところではありますが。

両シナリオともPC版スカーレットの雰囲気を崩すことなく、作品に溶け込んでいますが
PC版だけでも完結している作品なので、人によっては蛇足と感じるかもしれません。ただ原作に
バランスの悪さやチグハグな印象を受けた私には、新エピソードの程よい長さとクオリティが
作品全体のバランスを上手く整えたように感じられました。
Hシーン必須の物語ではありませんし、今からプレイするなら、PC版よりPS2版をオススメします。





新エピソードの中で印象的だったのは、やはりミリオントロイオンスですね。中でも
九郎と美月でオーストラリアへ向かうシーンが特にお気に入り。
旧PC版では恋仲の雰囲気を作りつつも、高級諜報家としての制約ゆえ、諦めている感のあった
二人ですが、CS版はこのシーンで九郎がけじめをつけているのが好印象です。
連れて行く際に「お前でないとダメだ」といい、実母であるアリシア・スカーレットに
「俺の嫁」といいきるあたりに、世界のルールを敵に回してでも、美月と共にする決意が
見て取れます。

また会談でのやりとりからして、アリシアに支援を要求するには、婚約相手をお披露目する
必要がありました。美月を交渉のカードとしてのみ使うのは、色々な意味で抵抗があったはず。
そんな複数の思惑が絡み合った結果、関係をきっちり清算するいい機会と判断したのでしょう。
九郎の複雑な心境が垣間見られる、スカーレットの隠れた名シーンだと思います。

その決意が美月アフターシナリオにも現れているのもグッド。一見PC版エピソードのみでも
話が繋がるように見えますが、夕方二人が語らうシーンだけは豪州会談の流れがあってこそです。
明人としずかにのみスポットがあたり、九郎と美月の関係が半端な形で終わってしまったPC版ですが
新エピソードを用いて見事に補完したCS版は、名移植と呼ぶに十分値する出来かと思われます。



蛇足1
唯一残念なのが「ミリオントロイオンス→intermission ルール」と話が流れる事。
八朗とアリシアのエピソードを知らないと、九郎とアリシアのやりとりに妙技を
見出す事は難しいような気がします。PC版プレイ済みだからこその感想かもしれませんが。


蛇足2
明人君は相変わらず脇役でした(笑
ただナセルのエピソード追加や、美月へ更にスポットが当たった事で、群像劇としての
雰囲気が更に強くなり、加えて泣き・笑い・シリアスと全体のバランスが良くなったことで
明人の影の薄さが作品に上手く馴染んだ気がします。その辺もCS版は魅力的です。