入れ替わりの意味は何だったのだろうか?これは在り方に迷う「俺たち」の、とても歪な心の話。
人にはなぜ心という厄介なものがあるのか?
人の心の在り方はどのような形が相応しいのか?
お互いを理解するのはどういう姿が適しているのか?
どれも明確な答えはありませんが、作中で登場人物達が見つけた回答は示されていました。
主人公たちはこの、問い掛けにどのような答えを出したのか。
凛ルートでは、日常からの逃避を入れ替わりに求めました。
自分の記憶を改ざんして、理想的な姿を共有して自分を守ろうとしました。でもそれは所詮、噓でしかなかった。
だから主人公は、作っていない本当の自分の言葉で凛を突き放して、そして告白をしました。
柴森ルートではコミュニケーションの難解さを説いていました。
人は愛情よりも、憎しみをぶつける方が楽であるということ。そしてそれは百合川のルートにも続く言葉。
「ちゃんと言葉にして俺たちに言えよ!」「俺たちは神様じゃねぇ!」
ここでも主人公は、自殺しようとした凛にまっすぐな言葉でぶつかって止めました。
この2つの話と後述のノーマルルートで主人公たちは、
元の自分たちで自分たちのまま、変わっていこうという結論を出しました。
「いつもの毎日」でも、自分や周りの在り方を変えるだけで捨てたもんじゃない毎日になるということ。
凛と柴森。どちらのルートに言えることは、自分に正直であれということ。
歪なコミュニケーションの仕方は不自然なのだと、否定をします。
扱い方を見る限り、これが作中での主人公たちの正解回答なのでしょう。
それに対して、越中・百合川のルートはイレギュラーな回答です。
そもそもこのルートにおける入れ替わりは、主人公たちがしてきた入れ替わりとは質が違っている。
1つの肉体に均一化されていない状態での2つの魂の存在。完全な意味での入れ替わりを目指したもの。
心の話であるけれども、生死観の話とも言えるのかもしれない。ルート途中での越中の死。再会。そして訪れる、2度目の別れ。
どちらのルートでも結局は、死んだ人間は戻っては来なかった。けれど、誰かの心に何かを残すことはできた。
そして姿も形も変わっても、本質的なところは変わらないということ。
神様であっても本当の意味での入れ替わりなんて出来ない。許されもしなかった。それはやはり不自然なのだから。
どのヒロインより不利であって、誰よりも深くてまっすぐな感情をぶつけた越中というキャラ、私は好きです。
入れ替わるまで自覚はなかったのですが、彼は性同一性障害だった訳で。美少女ゲームとしての題材としては少し珍しいですが、「心」「入れ替わり」のテーマからは外れていないんですよね。てっきり「神様の奇跡」で終わらせる話なのかと思ったら、ここでも主人公たちは最後は現実を受け入れて前に進んでいる。
そしてもう1人。若田部先生は魂の均一化こそが理想的な心の在り方であると結論付けました。
お互いの心を共有して、均一化して。違う存在でありながら、同じであることを選択して。
死に際の3人仲間の魂を、等しく同じ存在として自分の魂と融合します。そうして彼女は1人でありながら、4人になりました。
お互いの全部を分かり合える。それは確かに、究極のコミュニケーションの形とも言えるのでしょう。
しかし、「自分たち」はこの結論に後悔していないがやめた方がいい。とも付け加えて。
仮説だとしながらも、あの部室は人の心を試すところだ。とも先生は言いました。
あそこは望んだ人間だけの心を試して、理想的な心の在り方を見つけるいわば実験室。「神の実験室」で「魂の交差点」。
人にはなぜ心があるのか。本当に正しい答えなんか誰も知りません。
唯一の正しい答えを知っているとするならば、それは心を作った誰か。そんなものを作れるのは、それは神様のような存在。
なるほど。だから、神という言葉がすんなり出てきたのではないだろうか。
何より彼女は、長期間に渡る入れ替わり、そして魂・共有と融合といった神様の仕業とも言える体験をした人間なのだから。
……と、いうことなのだと思っていました。全部プレイが終わるまでは。
いざ全ルート終わらせて私が思ったのは、若田部先生は神に近しい存在だったのではないか?ということ。
主人公が入れ替わりの輪から外れたルート(便宜的にノーマルルートと呼んでおく)において
彼女は自分の過去を話す際に、主人公たちの入れ替わりの危険性をも指摘しました。
「個人の抱える問題によって、予想もつかないほどの危険を伴うこともあるって、お前たちを見ていて分かった」と。
そして「越中は特殊」とも。まるで凛や柴森の感情のふり幅。そして越中の事情をも見ていたかのように。何をも見透かすような百合川との関わり方も不思議でした。越中の魂が入った百合川との話も、まるで全て状況のが分かっているようで。
彼女は自分のことを観察者だと言いました。それはまるでこの作品を監視している、神様のような視点に思えて仕方なかった。
そしてもう1つ。主人公たちは違った回答を出してもいます。ノーマルルートで、1人で悩んだ結末での回答。
そこで最後に百合川が「あなたは誰?」と問いかけてくる。これに答えを返したのは一体誰だったのか。
私はこのシーンは、画面の向こう側のプレイヤーへの問いかけのように感じました。
登場人物達の答えを見て、プレイヤーがどう感じたのか。
このシーンで百合川と会話したのは、あなたは誰だと思いましたか?
総評
悪い所
・カタカナの乱用+漢字の合わせ技で妙に読みづらいテキスト
・ある程度古いゲームとはいえセーブ・ロード画面でテキストの編集や画面表示がない
・エロCGでメッセージウインドにヒロインの顔がかかっているものがあった
・入れ替わりモノなのにエッチシーンでそれを利用したシーンが越中くらいしかない
・明らかにシナリオの補完が足りていない部分(友人とその親の話とか、百合川関連とか)がある
と、先に悪い点を挙げておきましたが、短いなりに読み応えありました。
話の中核となる入れ替わりは声優さんの演技が光っています。すごい。
特に主人公(中身は凛)の女子っぽい喋り方にはいちいちニヨニヨさせられた。
異性間入れ替わりでの身体、トイレ、着替え、風呂に戸惑う、いわゆるお約束的な展開の描写は丁寧。
そこに、友人達の前で見せる一面や家での一面との違いだったり、家庭環境だったりでキャラの掘り下げが入る。
友達も知らない本当の自分ってあるよね。
家での自分と友達の前での自分って、そりゃ違うよね。
学校の中でも人によってはキャラを使い分けたり、対応が違ったりもするよね。
そういう意味で、それぞれのキャラの問題提起はとても自然な形だったように思う。入れ替わりも1日交代だったので、ちょっとずつ登場キャラの内情が分かっていくようで面白かった。入れ替わりが「どうして起こるのか?」という理論的な部分ではスッキリできませんが、入れ替わりに「どういう意味があるのか?」という部分は深い。非常に考えさせらる作品でした。
私は好きだなぁ、この話。