ErogameScape -エロゲー批評空間-

a103netさんのSuGirly Wishの長文感想

ユーザー
a103net
ゲーム
SuGirly Wish
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
74
参照数
1161

一言コメント

まったりとした、安定感のある、より一層予定調和な『良い話』。展開を気にするわけでもなく、先行きに不安に感じることもなく、ただ、今の場面の微笑ましさを楽しんでいければ、十分に楽しめると思います。そんな中、「屋根裏に住む不思議少女」月ヶ瀬杏奈は、見慣れないタイプ。もっと、何者であるかが判明していく展開であれば、一層魅力的になったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

公式で「ポイント」とされている、「ガーリートーキング」と「ロマンティックレシピ」。
体験版+説明書の範囲では、イマイチ弱い気がしていました。

まずは、「ガーリートーキング」。

主人公がいない場面でのヒロイン達の会話を見せるという手法については、
近頃、見かける割合が上がってきている印象があったので、
そもそも「ウリ」になるのか、という思いもありました。

公式の触れ込みは、
「本来なら絶対秘密の女の子の”かわいらしい妄想”を直に感じることができるのです!」
というもので、
そのとおりと思える場面と、その場面を見せたらシナリオ上面白くないだろうという場面の両方がありました。

前者は、ヒロインが、主人公を相手としたやりとりを妄想していたり、
恋人関係の進展があった日にその日のことを振り返ったりして、
一人で萌え転がっているところが見所でした。
また、周囲に報告して冷やかされている場面や、
共通部分序盤にあった、女子寮内での日常のおしゃべりもよかったです。

後者は、ヒロインが駆け引きをしているとき(本心を隠して、主人公が動くように仕掛けているとき)に、
本心をヒロイン視点で全部バラしながら進んでしまっているような場面です。

ただ、これも、
 【その場面がなくても、ヒロインの態度が「駆け引き」であることくらい、
  プレイヤーは推測可能なのだから、そういう場面がある分だけ萌えられて良い】
という見方であれば、触れ込みどおりなのかもしれません。


次は、「ロマンティックレシピ」。

「各ヒロインが密かに願っている"あこがれのシチュエーション"」
という公式の触れ込みなのですが、第一印象としては、それがあるだけなら、
ヒロインの個性が出ているレベルの作品ならまああるものでは、といったところでした。

また、「主人公は当初その内容を知りませんが、プレイヤーとしてはそれを踏まえつつゲームを進めることで…」
とあったことから、個別ルートの重要なところで選択肢があるなど、
プレイヤーが主人公を導くことにより、ハッピーエンドを迎えるという意味かと期待していました。

実際には、そんなことはなく、
一方で、山場(殆どはラストイベント)を予想することがかなり容易になってしまい、
個別ルート後半のいくつかの場面で、
「ああ、これをあのロマンティックレシピにつなげていくのね」
と先が読めてしまうことになりました。

後述のとおり、マイナス点ばかりではありませんが、
「ポイント」として特だしされているので、ちょっと期待外れの感がありました。


これらの「ポイント」も踏まえた、本作の印象は、
まったりとした、安定感のある、より一層予定調和な『良い話』。
(まったり度は、このメーカーの中では、真ん中より少し上くらいでしょうか。)

安定感というのは、主人公達が何をしても周囲から受け入れられる、雰囲気が悪くならない、
といった点から見てです。(褒め言葉。これが一番の長所だと思う。)
また、予定調和と感じるのは、頭の中にあるテンプレどおりの展開だからというだけではなく、
「ガーリートーキング」で次の章の展開が読めたり
「ロマンティックレシピ」で山場が予想できるたりするからです。

展開を気にするわけでもなく、先行きに不安に感じることもなく、
ただ、今の場面の微笑ましさを楽しんでいければいいのではないでしょうか。
女の子の"あこがれのシチュエーション"による、幸せな場面はやがてやってくるのですから。
(「よくこの少ないネタで個別3時間も」という、話の進行速度ではありますが。)


ここからは、お気に入りのヒロイン、月ヶ瀬 杏奈について。
序盤からとても気になっていました。

それは、5人の中で一番(唯一?)「恋愛したらどうなるんだろう?」と思わせてくれるから。
また、もし、これで本性が平凡だったら、
ルート有りにする意味がない(他ルートや共通での魅力が曇る)と思うので、
何年も前に純愛を完成させたHOOKがそんなことはしないだろう、と思ったからです。

ミステリアスな子、というのは、やはりいいなと。
1作品に複数出しにくいし、設定が比較的多く必要だし、明かされた本性が平凡だと評価暴落するけれども、
「他のヒロインが普通にする反応」がちょっとあるだけで、
「おっ」とさせるアドバンテージは大きいと思うのです。

彼女のルートは、各所でそういった「意外な可愛らしさ」が堪能できるものでした。

それでも、もっと伸びしろがあるように感じられました。
それは、エピローグでの
 「いーよー。あたし、純平がいるだけでいーし」
 「じんせって、ほんとにたーのしーにゃ~」
というセリフで、より強い思いになりました。

「とても頭のいい人物」として描かれる彼女は、何を求めていたのか。
彼女にとって、幸せとは、楽しいこととは、何なのか。
もちろん、主人公と結ばれてからは「一緒にいること」でしょうが、
それまでは、本当にそれだけだったのか。すごく気になりました。

彼女が、屋根裏部屋に住むのはなぜなのか。
爆発事故などを起こしていたのは、何がしたかったのか。
少食になっていったのは、あの理由だけなのか。(ラストイベントへのつなぎ以上の伏線だと思っていました。)
陽に当たりたくないといったのは、体質の理由だけなのか。(そうならば、やや無意味な設定のような気がします。)
彼女が不登校までして留年したのは、なぜなのか。(本当に、語られた理由だけなのか。)

そういったことへの答えが、語られずに終わってしまい、
彼女が何者なのかがわからずじまいだったのが、残念でなりません。
(読み飛ばしもあったのかもしれませんし、
 プレイヤーの想像にまかせると言えば、そうなのかもしれませんが。)

ミステリアスな振る舞いの裏で考えていたことがわかれば、
もっともっと魅力的になったのではと思っています。
---------
プレイ時間 18時間(共通2、愛4、他3×4人)
お気に入り
 ヒロイン:月ヶ瀬 杏奈
 シナリオ:なし
 CG:遊佐 胡桃の正面を向いた笑顔のCG