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OYOYOさんのSuGirly Wishの長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
SuGirly Wish
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
68
参照数
999

一言コメント

随所に「純愛の伝道師HOOKSOFT」らしい配慮と工夫が見られるものの、やや物足りない。

長文感想

「純愛の伝道師HOOKSOFT」は、オフィシャルホームページからの引用だが、キャッチフレーズから思い出すのは2008年の映画『愛の伝道師』。ゴールデンラズベリー賞で7分野からノミネートされ、最低作品賞・最低脚本賞・最低男優賞の3つの受賞を果たしたシュールなコメディ映画を意識して名乗ったのなら大したユーモアセンスだが、いささか自虐が過ぎるのではないかという気もする。

さて、本作はHOOKSOFTらしい、落ち着いた日常系恋愛ゲームである。グラフィックから操作性まで丁寧に作り込んであるし、単なる作業ゲーに終わらないよう、毎度色々な工夫を加えてくるユーザーへの配慮も健在で、安心してプレイできる。声優陣も豪華で、青葉りんご、青山ゆかり、有栖川みや美、かわしまりの、五行なずな、桜川未央、民安ともえ、夏野こおり、真中海(敬称略)。改めて書き出すとすごいラインアップだ。これでまきいづみ、一色ヒカル、北都南あたりも入っていたら個人的には言うこと無しだったのだが、点数が低いのは別に、そういう事情からではない。

前提として、本作は物語の起伏でプレイヤーを惹きつける類の作品ではない。それは、ヒロインとつきあうまでよりもつきあってからの描写や、ヒロインたちの内面の掘り下げに注力していることからも明らかである。つまりキャラクターの魅力で牽引するタイプなのだが、その割りに魅力の押し出しが弱い。

たとえば主人公・純平は、「学力や体力は人並みでごく普通の男子だけれど、正義感が強くて面倒見がよく、人の気持ちがわかる、なかなかいいやつ」ということになっている。しかし、冒頭の、寮長となった純平が男子の女子寮移動を認めるエピソードからは、「正義感の強さ」や「人の気持ちがわかる」というより、浅慮で流されやすい性格という印象を受けた。結果オーライで男女交流が活発になり、主人公の先見の明は認められるのだが、重要なのは「女子寮に入ることを認めた」という結果よりも、なぜそうするに至ったかという過程である。キャラクターの性格全般にも同じことが言え、「元気」「ツンデレ」「不思議ちゃん」のような結果が先行しすぎて、そう思わせるに足る描写に欠けている。あらかじめキャラのテンプレが頭に入っている人には良いが、そうでないなら、やや不親切に感じるレベルだろう。演出にとって肝心なのは、何でも意地を張ってツンデレをアピールすることではなく、どんな場面でどういう意地の張り方をするかによって、どんなツンデレかを伝えることだ。

ロマンティックレシピやトーキングシステムにしても同様で、あるキャラのその場その場での「想い」は分かるものの、キャラがその「想い」を抱くに至る背景が分からない。つまり、好きな相手の「一部」はよく見えるのに、「全部」はいつまで経っても見えてこない。公式HPに書かれたキャラ紹介に上乗せして新たな魅力を発見することはできるが、その娘の心の底に、想いがとどいたという感じがしない。この辺りも妄想で補完しない限り、もどかしさ、物足りなさがつきまとう。

「純愛の伝道師」は伊達ではなく、世界は甘い幻想に満ちている。けれど、幻想だからこそ引き込むのに周到な根回しが必要なのではないだろうか。そういう幻想に、あるいはHOOKの世界観に、慣れ親しんだ人であれば良いが、そうでないならちょっと辛い。その意味で上級者向けの作品である。