「電波が人口鳩に食われて無くなってしまった未来世界で主人公はラジオ放送を始める」という設定が気に入ったので予約購入。ようやくこのほどクリアした。Laplacian自体まったく初めてのブランドだったが、謎解きSFモノが好きだった自分には小躍りしたくなるような世界観であり、美しい絵、声優・小倉結衣、音楽にカネがかかっているところが素晴らしかった。昨晩ドライブし、カーステでサントラ盤をフルで聞いたが、BGMを聞いて場面が浮かぶところが実に良かった。
ここに書く文章には未プレイの人は読まないほうが良いレベルのネタバレが多数登場します。
ご注意をお願いします。
プレイを始めて思ったのは、主人公がラジオ放送を始める、という設定がかつての「CROSS†CHANNEL」を思い出させたところだった。
どうやら放送ネタに自分は弱いらしい。ただ本作は学校内での放送ではなく、あくまでラジオ放送というもっと広域の世界観を持っていたところが違うのだった。
時は2061年。
千葉県の国際空港に航空機8機が墜落して大惨事となった2046年の15年後の世界。
本作では具体的な西暦が多数登場し、今プレイしている我々が生きる世界をすべて過去にして語っている。
人口鳩が広域電波網となり、電線を使用した有線の通信ネットワークが廃止となり、すべての新聞も廃刊になった世界。
2009年発表の「&LOVE」(Comet)という、やはり未来世界を描いた作品がある。
それほど話題にもならずにブランド自体すでに解散しているが、自分にとっては絶対に忘れられない思い出の作品である。メインヒロインがアンドロイドであり、CVも今はもういない春乃伊吹だったことも忘れられない理由のひとつである。
「未来ラジオと人工鳩」をプレイして、私が思い出したのはこの「&LOVE」だった。
舞台が未来世界であり、大学生である主人公はロボット工学を学んでいる技術者の卵である。
登場人物はメインヒロインがアンドロイドであるほか、他のヒロインも必ずしも人間であるという設定が無い。
この世界ではもう新聞配達員が各家庭に配達をしておらず、新聞は新聞販売店から貸し出されたプリンターで各家庭が自分たちで印刷出力して毎日読んでいるのである。
また、すでに郵便は事業として終了しており、かつて存在した通信事業という概念となっている。
現代に生きる我々から見ると、かつて主流だったがもう使命を終えて終息に向かっている通信事業がすでに無くなってしまった未来の世界を描いており、登場人物たちが過去を振り返る(現代に生きる我々のほうを見る)ような設定となっている。
そのノスタルジアの描き方が秀逸という点で「未来ラジオと人工鳩」の設定に少しだけ似たものを感じることが出来たのが、個人的にうれしかった。
話を「未来ラジオと人工鳩」に戻す。
主人公がわずか4人のリスナーを相手にラジオ放送をスタートした翌日、主人公は秋奈(CV小倉結衣)に『あの2回目の放送(の下ネタ全盛のはっちゃけぶり)はなんだったのか?』と言われるくだりには鳥肌が立った。
自分ひとりで放送しているのに、秋奈が聞いた放送には女の子が出演しているのである。
誰かが勝手に機材を使用して放送したのではなく、未来の放送を受信したというところが痛快だった。
さらに、自分(主人公)が死亡者として報じられるニュースを秋奈が放送している(それを秋奈自身が聞いて驚いてしまう)という展開も謎であり、このあたりの演出は実に良かった。
登場人物が少ない作品であり、自分が最も好きだったのは秋奈(CV小倉結衣)だった。
秋奈のルートではもちろん秋奈がメインで話が進むが、教授などの他のヒロインのルートでは秋奈は地方にアルバイトに行ってしまうなど一定期間完全に居なくなってしまうところが、悲しかったけれど妥当に思えた。
自分は、水雪→秋奈→教授→かぐやの順にプレイしたが、伏線の回収という点では順番は合っていると思っている。
それでも、実は回収されていない伏線がいくつかあるところが気にはなったが、かぐやのトゥルールートまで全クリアしてしまった今となっては、もういいかなとも思っている。
ErogameScape -エロゲー批評空間-では『短い』にチェックを入れている人が複数居る様子だが、早すぎるだろうと自分は思っている。時間が無い中でのプレイだったため結構こま切れにプレイしており、意外と時間がかかった印象となっている。
今となってはかぐやのトゥルールートは一気にプレイしたほうが良かったのではないかと思っている。
それにしても、かぐやのメガネ姿が最初の強制ルートである共通ルートでしか登場しないとは思わなかった。
義妹の水雪の扱いが雑だったというご意見はもっともだとも思うが、そもそも水雪は登場当初から「童貞」「童貞」とやかましかったので自分としては妥当に思えた。
教授ルートははりめぐらされた伏線の回収に躍起になっているフシがあるが、かぐやのトゥルールートで『私と恋仲になる未来があったのか?』と一笑に付すところは、なんかリアルすぎて笑えなかった。
やはり、教授ルートで『50年待たせてやればいい』と言ってしまう展開が痛快で良かったと思っている。
本作では、正義の味方はひとりも登場しないのである。
昨晩、ひとりでドライブをし、カーステでサントラ盤をフルで聞いた。BGMを聞いた瞬間にその場面が浮かぶところが良かった。
主人公の友人であるミュージシャンのイシマルが作ったラジオ放送のジングルや、未来の放送を受信した時の不穏な雰囲気のBGM、各キャラごとの特徴あるED曲など、音楽的なレベルの高さに感心した。
プレイ終了後にサントラ盤をフルで聞いた瞬間に、ようやく本当の意味で全クリア出来たように思えたのだった。
本作をプレイ出来て本当に良かったと思っている。
・立ち絵+CG 17点/20点
・設定(システム、作品世界観) 17点/20点
・シナリオ 18点/20点
・音楽 18点/20点
・声優 16点/20点
●合計86点