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MGNさんの家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)の長文感想

ユーザー
MGN
ゲーム
家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
95
参照数
414

一言コメント

今までプレイした中で、一番笑った作品。 この作品についてなら、ひと晩中語り明かせる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

プレイしてから何年も経つけれど、この作品以上に笑えた作品には出会っていません。
元が2001年作品ですから、世界観もギャグも絵柄や雰囲気なども、今見れば全部「古い」のひとことで片付けられてしまうかもしれません。
しかし、自分が歳を食っているからなのか、テレビが娯楽として成立した時代の『かつて同じ番組を見た』という感覚の共有が上手に共感につなげられている、あのシナリオからはそんな同じ時代に生きていたからこそ伝わって来る奇妙な連帯感みたいなものが見えて来るのです。
特に、ひとりではどうしても行動に限界があるので誰かと組んで行動してみる、複数人で行動することの楽しさ(そしてその裏にある苦しさも含めて)を経験したことがあるかどうかで評価が分かれるかもしれません。

歳食った人間が昔を懐かしんで高評価している作品、と言われればそれは否定しません。
古いギャグは元ネタを知らなければ何なのか理解出来ないし、黒電話や木造住宅などの死語ならぬ『死風景』みたいなものも現代では違和感しかないことでしょう。
それでも、住むところも仕事もなくした人間にとっては、エアコンの付いた良質の住宅にも入れず携帯もスマホを持てず日々の食糧にも困り人間関係を持続するだけの能力も枯渇し、生きることで精いっぱいとなることでしょう。その感覚は当時も今もそれほど変わらないように思えるのです。
金が無いということはどういうことなのか? 金が無い心細さやむなしさを経験した人でなければ理解できない感情です。
これは、貧乏やどん底や理不尽な差別などを経験していない裕福な人には理解しにくい感情でしょう。
つまり、「家族計画」は裕福な人には理解しづらく、不遇な時期を経験したことのある何らかの感情の欠如がある人には共感しやすい作品ではないのかと思うのです。

私は涙よりも笑いが最終的に上回りました。
あの、登場人物たちの心のよりどころでもある「家」という重要な拠点が燃やされてしまう、そして家の中には青葉と司が残っているシーン。私は直感的に「死」を感じました。死んじゃうラストもあり得るんじゃないか・・・?
そう思えた瞬間の感情の高ぶり、寛が助けに来るシーンでかまされる「全員集合」のギャグ、そして炎で崩れて来る家屋。
『寛、何やってんだ!早く助けろ!炎で熱くて動けないんだよ!ギャグはいいから早く助けろ!』
PCモニターに向かってそう叫びながら、Enterキーをひたすら連打したことも良い思い出です。

結局、どのヒロインとの結末でも、手放しで喜べるほどのハッピーエンドはなく、生きるということはそれだけで大変なことなんだ、とでも思わなければやってられないストーリー展開でした。
これはもう、美少女ゲーを通り越してドラマや映画の世界観にさえ近いと思えました。
山田一(田中ロミオ)というシナリオライターがどれほどすごい人なのかが私には想像も出来ませんが、ドラマや映画だったら再放送や再上映の機会があればつい見てしまうものです。
それほどの作品を残したシナリオライターはすごいと素直に思えるし、またきっと再プレイしたくなる時期がやって来るだろうと思っています。

「家族計画 Re:紡ぐ糸」なるリメイク版が10月25日に発売されるという記事を見かけました。
PC版なので、プレイしてもいいかなと思っています。
絵柄も声優もずいぶん変わり、ストーリー設定なども現代風に変わる様子ですが、初代とどんな風に違って作られているのかには興味があります。
10年という時間差をどうやって埋めようとしているのか、新たに付け足されるものは何か、削られてしまう部分はどこか。
私は、いまだに「家族計画」から離れられないでいます。