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MGNさんのカミツレ ~7の二乗不思議~の長文感想

ユーザー
MGN
ゲーム
カミツレ ~7の二乗不思議~
ブランド
りぷる
得点
80
参照数
1713

一言コメント

百合ゲながら女性主人公にTS属性ありという変わった作品のため、プレイ。一応、攻略順あり。修正ファイルを当てないでプレイしたらセリフとテロップが合わなかったり、男性スタッフ?の指示音声が入っていたりと、夜にひとりで起きてプレイしていて怖い思いをしたのも良い思い出である。シナリオが全般的に良く、特に狛江と七海のストーリーが素晴らしい。それなのに演出(特にBGMの選曲やタイミング)がダメダメでとてももったいない作品でもある。また、ある種のOP詐欺でもあるが、学校の怪談をファンタジー領域にまで広げている怖い作品でもある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売から4ヶ月以上経つのにErogameScapeでのデータ数が極端に少ないので、何かあると思っていたら、初期状態でのバグがひどいのと、「せつない系百合ラブストーリー」と公式HPに標榜しているのに主人公にTS属性あり(女性主人公の中にもうひとりの男性人格がある)だったりするなど、百合ファンからあまり支持されていないと思われる点が問題だったのではないかと分析している。

自分は百合ゲーはプレイ経験が少なく、TS属性ありというマイナーな部分に興味を持ったのでプレイした少数派である。
今からプレイを検討している人が居るなら、公式HPに上がっている修正ファイルは適用したほうがいい。初期状態でプレイすると、セリフとテロップが合わない箇所が多数あったり、音声抜けや誤字脱字が気になったり、男性スタッフの指示音声がそのまま入っていたりとバグだらけだった。
特に、真夜中にひとりで起きてプレイしているところに『ブランクデータです』という男性の声が突然登場して怖い思いをした。時期的に納涼ではあったけれど、ストーリー自体が意外と怖いのでダブルで怖かった。

まず、本作はOP詐欺と言える作品である。
OPの出来はなかなかである。
ところが、本編では演出が今ひとつで、特にBGMの選曲が良くない。BGM数は少なくないのに同じ曲ばかり使用している印象がある。また、場面転換シーンが唐突で、文章だけで日々の経過を記しているため、メリハリが無い。こういう作品にこそアイキャッチを入れるべきなのに、それが無い。ゆえに眠くなり、飽きてきてしまう。これが最大のマイナス点である。

対して、シナリオは実はなかなかうまく構成されている。
全編プレイした結果、狛江と七海のルートが素晴らしいと感じた。また攻略順としては、七海を最後にプレイするとちゃんとつじつまが合うようになっている。七海は最初には攻略出来ないようなので、あおい・晶・薫子・狛江→七海となるかと思う。
狛江ルートはHシーンもCGも他キャラよりも多く優遇されている上にシナリオの出来も良い。公式HPのバレンタインデーネタのキャラとしても使われているので、人気投票があったら上位になっていたと思われる。
七海ルートは主人公の双子の妹であり、初回には攻略出来ないなどそもそも特別扱いされている。他のキャラのルートでフラグだけ立てられている部分を回収しているようなストーリー展開でもあるため、七海を最後に攻略するとすっきり終えられる。

原画・キャラクターデザインのあかつきまおという方は、その昔「わんことくらそう」の原画を描いていた方という印象しかなかったが、本作は個人的に好きな絵柄であり、昔よりも今の絵柄のほうが良いと思えた。
本編の立ち絵やCGでは、風呂に入っているのにリボンや髪止めをしたままなど不自然な箇所が気になった。また、学校内ではともかく、寄宿舎内でも学校制服で居るところに違和感を持った。寝る時はパジャマだが、ほかのシーンでほぼ学校制服なのが面白くなかった(例外はイベントシーンのメイド服やサンタ服程度)。体操服はかろうじて登場するが、スクール水着は登場しない。屋内プールに入るシーンが七海にあるが、裸で泳ぐのはいったいなんなのか不明だった。

本作では、最初から存在自体が怪しい(何か隠している)と思われるキャラが居る。
それがサブキャラの藤堂先輩、ゆうりである。鈴子先輩も実は怪しいが、藤堂先輩&鈴子先輩の過去ストーリーが本作には登場しないため、少し弱い。おまけシナリオなどで補完して欲しかったのだが、残念。これはゆうりも同様である。
それから、怪しいと言えば、女性主人公・睦月(むつき)のもうひとりの男性人格である。ちゃんと立ち絵も男性声優も居るが、演出上、百合作品に必要だったかと考えると疑問である。男性人格と攻略ヒロインとの(男と女の)Hシーンが無かったのがせめてもの救いかもしれない。
自分はこの男性人格の存在(TS属性)目当てでプレイしていながら、途中から『こいつやっぱりいらないんじゃないか?』と思ってしまった。睦月のCVの八尋まみの一人二役で良かったのではないかとも思った。
それでも、攻略順の最後を推奨している七海ルートでは、男性人格の存在意義がちゃんと描かれているところがシナリオの秀逸な点でもある。これは結構、意表を突かれた感があった。

声優は、最近の新人と言うのか、ベテランの春日アン以外は同人作品で見かけるような方々ばかりである。
主人公の睦月が「女子便くん」の八尋まみだったのには笑ってしまったが、全体を通してプレイしてみて、非常にうまく演じていたと思えた。こういう低めの声の方も良いものである。
七海役の八ツ橋きなこはワード数が多いにもかかわらず、やや棒気味で残念。
対して、非常に印象的だったのは狛江役の君島りさという方。初めてこの方の声を意識して聞いたが、こういう真面目なキャラの役が実に良く合っていた。

前述の通り、自分は百合作品を何本もプレイしていないので、百合ゲーとはこういうものである的なお約束やセオリーと言ったものがわからないままでこの長文感想を書いた。
個人的には、当たりだった部類に入る作品である。