ErogameScape -エロゲー批評空間-

MGNさんのできない私が、くり返す。の長文感想

ユーザー
MGN
ゲーム
できない私が、くり返す。
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
86
参照数
481

一言コメント

訳あって中断していたが、約3年半ぶりに再開。時計がキーワードとなるジャンルの傑作だった。身内や周囲に死にそうな人や入院している人が居る人はプレイしないほうがいい。今、ようやく全クリア出来て感慨無量。メインルート以外にはあるハッピーエンドが胸に来る。本作をすすめてくれた、今はもう居ない友人を思い出した。霜月はるかのOP曲「Re:Call」は今聞いても素晴らしい一曲である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売当時に一旦プレイしていたが、当時身内が入院したために精神的に続けていられなくなって、以来、中断していた。
このほど再びプレイしてみようという気になったため、3年半ぶりにクリアした。

本作は、詩乃(冒頭でリンゴを落とした黒髪ロングの子)のメインルートへの一本道を目指す作品だが、その詩乃ルートにたどりつくまでに詩乃の知り合いである他のヒロインたちを攻略しなければならない仕様となっている。
しかし、驚くのは、そのヒロインたちを攻略する最中に詩乃がもれなく死んでしまうところである。詩乃が死んでからその攻略ヒロインへのルートが始まると言っても良い。毎回、詩乃が死ぬのである。詩乃が死んだことを藍里(青髪の子)が主人公に知らせに来るシーンを何回も見ると暗い気持ちにさせられるところには参った。
プレイ前は、登場人物の苗字がみんな宮城県の地名であるところに何か笑い要素があるのではないかと軽く考えていたが、そこには深い意味は無かった様子であり、鬱々とした気持ちでプレイし続けなければならないのである。

カレー屋の子(オレンジ髪の未喜)や藍里(青髪の子)のストーリーはまあまあ面白かったが、本作のテーマとなる『時を巻き戻す時計を主人公が持っている』というメインの流れからはやや離れた展開であった。意外と長いストーリーだったが、平凡と言ってしまっても良い程度に。
少し違うなと思ったのはゆめ(薄い金髪のオタクの子)のストーリーだった。何と、ゆめは主人公の持つ時を巻き戻す時計のことを知っていたからである。ゆめの身内がかつてその時計を所持しており、その時計は病院で若い女の子にあげた、というくだりにはゾクゾクするものがあった。その若い女の子とは、主人公が時計をもらった漣(入院しているピンク髪の子)なのである。だんだん核心に近づいて来たなと思いつつも、ゆめのストーリーにはヤンデレレズのパンク少女(美羽)が登場してまたしても時計からは話が離れてしまうのだった。
このあたりの、物語の核心に触れられないどころかサイドストーリーばかりの展開には少し飽きるものがあった。

3人クリアして、改めて詩乃のストーリーをスタートしたが、詩乃がだんだん弱って来て入院して・・・の展開にはイヤな汗しか流れなかった。
正直言ってつらい展開である。
何しろ、詩乃ルートが一本道かのように見せながら実は複数ルートあるなど、シナリオライターの意地が悪いのか見せ方が変則的すぎるのかと思えてしまった。
そして、しばらく使っていなかった時計を使って、再び漣が居るころの病院に戻ったり、入院している小学生の奈月ちゃんが登場するあたりの展開にはさらに鬱になってしまった。
結局、メインである詩乃ルートにはハッピーエンドは無い訳であるが、教訓的なものは得ることが出来たのかもしれない。
ラストシーンで主人公は時計を置いて旅立ってしまうが、その後この時計を誰かが拾って別の作品が発表されるんじゃないかという期待を少しだけ持たせているところが、個人的に面白いと思えた。
後は、漣の正体が謎すぎるので(本編では死んだかどうかにも明らかにしていない)、実は終盤で登場するのではないかとちょっと思ったがやはり登場せず。
漣のことはもう少し描いて欲しかった、と今となっては思う。

生き返って欲しかった気もするし、人の「死」という自然な成り行きを受け入れて成長することに意義がある、とも思えた。
安易な展開に走らずに、プレイヤー自身が考えさせられる作品であって良かったのだと思っている。
とは言え、プレイ後2~3日は余韻を引っ張ってしまい、他のエロゲをプレイする気にならなかった。こういう作品は久しぶりだった。