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MGNさんのシロガネオトメの長文感想

ユーザー
MGN
ゲーム
シロガネオトメ
ブランド
MANATSU_8
得点
85
参照数
1268

一言コメント

TS属性ありのためプレイ。結果、当たりだった。特に、主人公・夕希が最高。内面が男である女性主人公という設定がうまく作られていた。そして、挿入歌まで歌ってしまう桃井いちごという声優の良さを初めて認識した。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

現在、TS(性転換)ゲーの良さにはまっていくつかの作品を選んでプレイしているが、本作は少々特異だった。
作品自体に「性転換」の属性ありとなっているが、主役のふたりは「性転換してから約10年以上は経っている」ベテランだったからである。
ベテランというのは変な言い方だが、ほかに表現を思いつかなかった。
しかも、男→女だけでなく、女→男もいる。
つまり、何かの拍子に急に性転換してしまったという戸惑うシーンが描かれているわけでもなく、元の性別に戻りたいと強く願っている描写もそれほどなく、しかし心の内面の性別だけは強く持ち続けているふたりが主役であり、しかも片方は男の娘である。
一方の女性主人公・夕希は「女の子が好き」という気持ちはそのまま持ち続けていて、女子校が舞台のため百合展開が多数。
そこに更紗というオカルト巫女が登場。退魔師として人間にとりついた「魔」を成敗することがやって来た目的だが、性的な経験がないためにその汚れ役を夕希に外注。
「魔」にとりつかれた女の子3人は除魔後にそのまま夕希の愛人に。
そして、夕希たちの育ての親とも言える「お姉ちゃん」と上級退魔師の「更紗の姉」及びラスボスとも言える生徒会長とその取り巻きもまじえての、夕希の大争奪戦とも言える展開となるとは予想外だった。
さらに、カトリックの学園祭なのに主役ふたり+愛人3人でパジャマ姿のバンドで挿入歌まで歌ってしまうのである。
このアイドル映画のような展開に、してやられた。
しかも、まともな男性キャラが出て来やしねえ。男の娘ひとりしかいねえ。この男の娘・翼が本作のHシーンをひとりで背負っているようにしか見えなかった。
TS風味+萌え+オカルト+伝奇+男の娘の、見事な百合ゲーだった。
夕希に萌えることが出来た者の勝ちだ。

この作品は共通シーンをはじめとする日常シーンが長い上に、会話のダラダラ感が非常に強く、特に「魔」が迫って来ている緊張感のかけらもない。
また、シーン転換時に急にBGMが途切れる不快な仕様(あれは演出とは思えない)があるなど、システム上の不備が気になった。
何でもありのストーリーは詰め込み感が強く、レベル高いアニメーションまで挿入しながらも、何を描きたかったのかを作り手自身が見失ってしまったように見えた。
あんまり売れなかったのか、発売後4ヶ月以上経ってもサントラ盤は出ず(ラフ原画集でなくサントラを初回特典にして欲しかった)、中古屋では悲しい価格で流通している有様である。

それでも私はこの作品が好きだ。かなり好きだ。
神谷ともえの原画が横顔を除いてとても綺麗だったこと、挿入歌をはじめとするBGMがちゃんと作られていたこと、シーン転換時のBGMぶった切り以外の演出は良かったこと、実は更紗のキャラが立っていないことや一部のパロディーが寒いことを差し置いてもちゃんとストーリーのつじつまが合っていたことも含めて、それほど主人公・夕希は魅力的だった。桃井いちごの声や歌の力も大きい。

TSゲーだと思ってプレイしたら、萌えオカルト百合ゲーだった。
というところか。