歳食ってからエロゲを始めて、抜きゲばかりでなく「萌えゲ」というものをプレイしたいと思う人はこういう作品をプレイしたほうがいい。そこには「古くさい」と言うよりも「古き良き」時代の断片(かけら)とも言える空気感が散りばめられているのである。不思議世界モノの傑作であり、名作になり損ねた、抜きゲブランドが作った最後の記念すべき「萌えゲ」だった。当時のロックンバナナによる声優陣も素晴らしく、『ブルーゲイル』の黒歴史と片付けてしまうにはあまりにも惜しい作品だった。個人的に、本作をを今の時代にプレイ出来て本当に良かったと思えた。
2009年作品だが、2017年の今、本作品をクリアしてみてつくづくそのすごさを思い知った気分になっている。
もはや2017年の今の感覚では考えられないほど充実した世界観やCGの枚数がある大作だった。
以下、多大なるネタバレの記載があり。
ネタバレがイヤな人、積んでるなどの理由で今はネタバレを見たくない人はくれぐれもご注意願いたい。
本作はループ物である。
ところが、作品の筋道としてループするのではなく、登場人物の都合でループする(世界を繰り返す)作品である。
プロローグ。
主人公と誰か(女の子)のやり取りから、いきなり戦闘機に乗って何かの目的でどこかへ向かうシーンが登場。
女の子のCVが芹園みやのため、この人がどのキャラのCVなのかを知っていると、このシーンが本編のクライマックスシーンなのではないかなどと様々な推測をしてしまうのである。
やがて、本編開始。
主人公・太一には金髪ツインテールの妹・なずな(CV桜川未央)が居る。
このふたりで白桃学園に転入するところから物語は始まる。
しかし、校内に入った途端に太一が始めた妙な演説のおかげで太一は入学早々「シスコンの痛いヤツ」認定をされてしまうのである。
かなりおバカな妹だが、この妹は攻略出来るのかな、などとゲスなことを考えつつ、進む。
クラスにはメガネの委員長キャラ・和葉(CVかわしまりの)と隣席の真面目そうなクラスメート・翔太(CVなし)が居る。
このいかにもなテンプレ感、そして太一の言動があまりにも軽薄なため、痛い主人公としてのデジャビュ感で満載である。
昼休みに購買部へ行くと孤軍奮闘するアルバイトの子・鈴果(すずか、CV成瀬未亜)が居る。
鈴果にナンパまがいの行動を取ったものの結果的に鈴果を助けることとなり、太一は好印象を残す。
わずか3分でパンを食べ終えた太一が校内をうろつくと、古めかしい旧校舎前で沙希(CVまきいづみ)に声をかけられる。
太一が落とした生徒手帳を拾ってくれたのがきっかけだが、ひょんなことからふたりは意気投合、巨乳でセクシーながら人当たりの良い沙希と主人公は面識を持つ。
放課後に太一が再び旧校舎前に行くと、今度は黒髪ロングの結里(ゆいり、CV風音)に声をかけられる。結里は自分が会長をしている江戸風俗研究会に太一を勧誘する。「実の妹に手を出す腐れ外道はそういない。実に素晴らしい。ここはあなたのような変態にふさわしいサークルである」と。
旧校舎内の部室について行くと、散らかった室内にはエロ出版社の資料と思えるような刺激的なエロ雑誌やアダルトグッズが置いてあった。
ところが、迎え入れてくれた部員ふたりは、鈴果と沙希だったのである。
後日、自習の時間に太一が保健室にサボりに行くと、病弱でどこか変わった雰囲気を持つ流花(るか、CV芹園みや)に会う。
流花はボクっ子であり、病弱な自分に学友として普通に接してくれる変わり者の太一に好感を持つのだった。
その後、太一が学内の寮に帰宅するとなぜか妹のなずなが居る。女子フロアでなく太一と同じ部屋に住むと布団持参であった。
これで登場人物は揃い、次の展開へ。
昼食用に購買で鈴果から大量のパンを買った太一は流花の居る保健室へ行った。一緒に食べるためである。
これが習慣化したある日、太一と流花はふとしたはずみでHな雰囲気となってしまい、流花は太一に「君は初めて会った時からぼくの胸に注目している」「ぼくのこと、女として好きかい?」「ねえ、どうかぼくのこと、求めてくれないかな?」と誘惑するのである。
恐らくは共通ルートの途中であり、強制イベントとしての最初のHシーンの相手が流花だったのには驚いた。
ダテにプロローグに登場していないな、実は真ヒロインだったりして、と思うのだった。
ところが、この間からこの後にかけて選択肢が複数登場するが、選択可能なキャラは、結里・鈴果・沙希の3人だけである。
流花の選択肢が無い、妹は別ルートか、和葉は選択対象外か、という疑問がわくのだった。
和葉は生徒会からの指示により、江戸風俗研究会がいかがわしい行動を取らないように監視するために部室に常駐するようになった。
翔太は女子更衣室に誤って入ってしまった結果、のぞき疑惑をかけられて突如としてクラスで孤立してしまう。その翔太の姿を見かねた太一は、学内での居場所として江戸風俗研究会を紹介するのだった。
実は太一は、翔太が和葉を好きなことに気付いており、和葉も翔太に対して好意を持っていたのだった。
生徒会指示による監視をする和葉を丸め込む意図もあった太一の策略でもある。
なお、このあたりで、太一がサークルに入会して帰宅が遅くなったことを気にした妹のなずなが自分も入会すると言い出して、サークルのメンバーに加入するのである。
そして、謎の存在でもあった流花も入会を希望して来たため、江戸風俗研究会は会員数7人+1人となった。
その後、学校内に居た夜8時頃に突然ピンク色の霧が出現し、その時にそばに居た結里と太一はお互いに性的感情が急上昇し、なし崩しにHシーンとなってしまった。
翌日、江戸風俗研究会の部室にて、会長の結里が皆に尋ねる。「ゆうべの8時頃、何をやっていた?」と。
鈴果やなずなは「覚えていない」と言い、和葉と翔太は赤面しながら適当な回答をし、沙希はニコニコしながら「いわゆるひとつのひとりエッチを」と答えるのであった。
窓を閉めていてもピンク色の霧は出現した様子であり、エロミストと名づけた結里は「このエロミストの正体を探ることが次の江戸風俗研究会の活動である」と言い出すのだった。
後日、江戸風俗研究会+和葉の8人はエロミストの謎を探すべく街に繰り出したが、特にこれと言って宛てもなく行動していた皆に、流花がこう言うのである。
「この街のはずれ。時計塔のある方向にね、戦時中に使われた防空壕があるらしいよ」と。
そして、その防空壕の奥には、(予想通り)ゼロ戦らしき戦闘機が隠してあったのだった。
選択肢は複数存在したものの、ここまでが実質的な共通ルートと言える。
冒頭に登場した戦闘機がようやくここへ来て姿を現し(自分はすっかり忘れていた)、タイトル画面に登場する時計塔の存在も明らかになった。
登場人物たちは最終的に皆江戸風俗研究会にかかわるようになるのである。
しかし、エロミストの正体は何か、謎の存在である流花の立ち位置は、どこか古めかしい街や学校から漂う異様な雰囲気は何なのか、などの疑問を残したままストーリーは進むのである。
そして、エロミストが3~4回発生した頃。ある日突然、登場人物の皆が太一のことを忘れ始めるのである。「あなたはどなたですか?」と・・・。
以下、自分の攻略順によるエンディングの説明である。
【エンディング#2 新たなる旅立ち】
沙希の選択肢ばかりをたどっていると沙希のルートに入るが、全くハッピーエンドを迎える雰囲気が無い。
それもそのはず、今のこのおかしな世界の正体を沙希は知っており、知っているどころか暴走するこの世界を変えるために未来世界から過去のこの時代に派遣されて来たエリートだったのである。沙希の異様なテンションの高さに妙な違和感があったが、こういうことなのかと納得してしまった。まきいづみの演技自体が、2009年なのにひとりだけバイノーラル録音してるんじゃないかと思えるくらい色っぽかったのである。
沙希の正体と世界観はわかったものの、沙希が太一を好きになってしまったために時間を元に戻すべく、この世界を閉じることになったのである。
まったく見事なバッドエンドであり、泣いた。沙希は選択肢に登場しながらもハッピーエンドが存在しないのである。
物語の核心が明かされないままにもう1周やり直すことになる、20世紀末のエロゲを思い出してしまった。
【エンディング#1 動き出した世界】
結里を攻略すると、このルートに入る。
ただし、夜中に突然妹のなずなが起こしに来るシーンがあり、ここで『起きる/意地でも寝る』という選択肢が登場する。
ああここがなずなルートとの分岐点なんだなと思いつつ、後者を選択して進む。
やがて太一は皆に忘れられて行ってしまうが、流花だけが太一を認識しており、その存在の謎が明らかになって来るのであった。
プロローグで流花と思われる女の子が太一に「あの子に渡してくれ」と小石を渡すシーンがあるが、その小石がここで登場。
このあたりからもう鳥肌ものである。
流花の正体、時計塔の謎を探りながら、太一と結里は狂った世界の元凶をぶっ壊すのであった。
エンディング#2を先にプレイしているので沙希が未来世界から来た『全体を把握している人』ということはわかっていたが、驚いたのは登場人物の半数以上が未来からやって来ていたという事実だった。
この種明かしとでも言うべきシーンが沙希による言葉の説明だけで進んでしまうのはどうなのかとも思ったが、それまでに散りばめられていた様々な伏線が明かされていく様は圧巻だった。
最後は結里との結婚式のシーンであり、素晴らしいハッピーエンドである。
【エンディング#4 終わらない学園祭】
エンディング#1の選択肢『起きる/意地でも寝る』の前者を選択すると、一気に妹のなずなルートとなる。
それまでに結里の攻略で積み上げたフラグはどうなるんだよと思いつつなずなとエッチをすると、なずながこう言うのである。
「私ね、この街に来てからずっと思ってたんだ。今みたいな時間が永遠に続けばいいのにって」と。
エンディング#1の結末を知っていると、なずなルート自体がバッドエンドなのだということを改めて認識するのである。
個人的に、金髪でツインテールの妹というだけで好きなのに、非常に残念である。
【エンディング#3 再会】
鈴果を攻略するとこのルートに入るが、他のルートと違うのは、皆に忘れられるのは太一だけでなく鈴果も一緒というところである。
それどころか鈴果の両親が居なくなるほか太一自体が鈴果を忘れるシーンもあり、せつなくなってくる。
鈴果を忘れるということは鈴果のバイト先である購買部も存在意義を失うということでもあり、案の定取り壊されて学食にする工事のシーンがあった。こういう、時間管理に連動する部分まで描いているところが見事である。
エンディング#1を先にプレイしていると、このルートでは誰が嘘を付いているのか、未来世界から来たのは誰かなどがプレイしながらわかってしまうために、逆に鳥肌ものだった。こういう見方を今までした経験がなかったため、これはこれで良いと思えた。
このルートでは流花が案内人として登場し、存在を忘れられた鈴果と太一にはこの世界に居場所はなく、ただしひとりだけならば元の世界に戻せると言うのである。
当然、太一が鈴果を送り出すのだが、このシーンを見て私は「CROSS†CHANNEL」を思い出してしまった。
「太一」という主人公の名前からしてそうなのだが、その軽薄で熱い言動にしろ、田中ロミオへのオマージュかよと思えたのだった。
鈴果とは未来世界で無事に再会。#1よりは弱いが、もうひとつのハッピーエンドである。
【エンディング#5 アナザーストーリー】
エンディング#1を終了するとタイトル画面からアナザーストーリーが選択出来るようになる。
エンディング#1で明かされる予想外の展開を補助説明するすることを兼ねた短いストーリーである。
このストーリーのヒロインは和葉である。
和葉にもちゃんとHシーンが用意してあったのである。
アナザーストーリーの#5は別として、#1を最後にプレイすると大団円要素満載で一番良くまとまると思えた。
そういう意味ではおすすめの攻略順がある作品と言える。
ところで、本作では、流花ルートが存在しない。
ところが、プロローグで戦闘機を操縦しているのは流花であるのに対して、戦闘機が登場するエンディング#1で操縦しているのは結里である。
ということは、流花が戦闘機を操縦するシーンが本当はあった(=流花ルートが本当は存在した)と解釈出来る。プロローグのシーンの存在だけが本作では浮いてしまっているのである。
なんらかの大人の事情で泣く泣く削除されてしまったのかもしれない。
しかし、実はプロローグは、何回も16日間をループしている流花が過去に経験したシーンのひとつだった、とやや強引ながら好意的に解釈することも出来るのである。
要するに、流花は「ひぐらしのなく頃に」の梨花ちゃんということなのか。
奇しくも名前が似ている上に、両方ともボクっ子である。
また、上記に少し書いたが、私は本作をプレイして「CROSS†CHANNEL」を思い出してしまった。
どおりで本作が自分の中にスッと入って来るのかわかってしまった気がする。
これは偶然の一致かもしれないが、個人的に、この作品を今プレイ出来て本当に良かったと思えた、