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MGNさんのすいっチ!! ~ボクがナツに想うこと~の長文感想

ユーザー
MGN
ゲーム
すいっチ!! ~ボクがナツに想うこと~
ブランド
:co/on
得点
70
参照数
194

一言コメント

発売当時に酷評・地雷認定されていた様子なので「どのくらいクソゲーなのかを体験したい」という怖いもの見たさ的な気持ちでプレイしたが、地雷どころか意外に面白い作品であり逆にがっかりしてしまった。確かに、共通部分が無駄に長い、世界観がわかりにくい、CGに当たりはずれがある、タイトルからしてギャグ物なのに必ずしもそうではないストーリー展開、回収したとは言えない伏線がある、など不備は多数見受けられるが、この辺は他作品でも良くあることであり、せいぜい「タイトルにだまされた」「自分が思っていたような作品ではなかった」という程度のものではないのかと思えた。良作多数な2008年当時の時代背景を考えれば酷評の対象となるのは致し方ないのかもしれないが、2017年の今プレイしてみるとそこまで地雷や駄作とは思えなかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

システムの不備以外で酷評・地雷認定されている作品のようなので、「どのくらいダメなのかを知りたい」+「声優補正」にてプレイしてみた。
ところが、過去のデータやコメントが示すほど地雷やクソゲーとは思えず、むしろ面白い作品に思えたため、空振りをしてしまった気分になった。やはり、データはデータとして、自分の目で確かめてみなければわからないものである。
エロゲ全盛期の2008年当時は良作も多数あったことであり、本作でも地雷認定されてしまう時代背景みたいなものを改めて感じた気分になった。
特に主題歌が良く、エンディング曲も佳曲に思えた。主題歌は何人か攻略した後で聞くと歌詞がプレイ前とは違って聞こえるところも良かった。
ほぼ評価されていないが、BGM含めて音楽面はさりげなく充実していると思えた。









【以下、ネタバレのため閲覧はご注意願います】






本作がなぜ酷評・地雷認定されているのかを考えてみた。

1.共通部分が無駄に長い
当初は、作品世界の全貌が見えるわけではなく、どこまでが共通部分なのかということを意識してプレイしているわけでもないため、冒頭のダラダラ感は確かにあった。アイキャッチが多数入る割りに、主人公が朝起きて学校に行って何がしかのイベントがあって夜寝て、という日常パートの繰り返しが退屈ではあった。OPが流れて、ああやっとここで共通部分が終わるのか、と思えた段階で投げ出してしまう気持ちは少しわかった。

2.世界観がわかりにくい
OP前の世界で主人公がプレイしているゲーム(学園物ラブコメADVと思える)の世界観を意識して覚えていないと、OP後の世界観が登場人物からしてなぜ違うのかがわかりにくく、その点に置いてけぼり感を覚えてしまうことはあるだろうな、と思えた。自分としては、OP前に登場した翠(すい)や恵理がOP後の世界で再び登場した場面で『エロゲ内エロゲ』のように思えて、この辺から作品が面白くなって来たのだった。

3.CGに当たりはずれがある
複数原画のため当然なのかもしれないが、立ち絵からして絵柄の違いがはっきりし過ぎており、これがCGになった段階でさらに崩れたようには思えた。絵柄が統一されていない点には同意である。HなCGでも表示されるテキストと場面が必ずしも合っていない箇所があったり、そもそもHなCGなのにいやらしくないものがあったりと、キャラによっても違いははっきりしていた。このあたりが許容範囲かどうかであり、自分は、翠・摩耶・恵理はセーフだったが、理沙・佳乃・小夜はアウトだった。

4.タイトル詐欺的な部分がある
「すいっチ!! ~ボクがナツに想うこと~」というタイトルであり、ジャケット・OPフィルム・公式HP(まだ残っている)から判断すると、青春ラブコメ学園物のようなお気楽な内容であると誤解されて当然だろうと思う。自分もプレイしてみて途中まではそう思っていた。ところが、佳乃に『私のナイトになってよ』みたいに言われたあたりから雲行きが怪しくなってくるのである。『この作品て凌辱・NTR展開があるのか?』みたいに思えてくるのである。ところがそんななまやさしいものではなく、実在しない人物が居る・ファンタジー展開あり・転生モノ・ゆるやかなループ物、などにストーリーが分散して来るのである。ギャグどころか鬱要素があるシリアス展開となるのである。

5.回収したとは言えない伏線がある
翠が摩耶と別れるシーンで登場した「日記」の正体についてはっきり言及した部分が無い、アザミ(もうひとりの達也)が言った『自分に残した種』を裏付ける場面や説明が無い、主人公の名前の表記が達也・辰也・タツヤと3種類あることに対する説明が無くどう違うのか自体がわかりにくい、翠のルート終盤のセリフ『本当のたっくん』の意味が謎の少女ルートをプレイしても今ひとつわかりにくい、など多数ある。何となく雰囲気で理解したつもりになるしかないのである。


こうして列挙してみると、人によっては立派なマイナスポイントであることは理解出来る。


一方、私が本作を面白いと思えたのは下記の点による。

1.世界観の転換
OP前に居たヒロインたちが居なくなるだけでなく、OP後の登場人物が主人公含めて総入れ替えされて再スタートされるところ、そしてOP前に登場した翠(すい)や恵理がOP後の世界で再び登場する場面から『エロゲ内エロゲ』であること、そして、どちらが現実なのか、主人公が見る夢の中の出来事は何を意味するのか、を考えながらプレイするという『謎解き』感が出て来たあたりで世界が一気に広くなるのである。それに伴い、ギャグテイストが薄まってシリアス寄りとなって来るのである。

2.散りばめられる伏線(回収されていないものも含めて)
恵理よりも年上の妹(理沙)とは何なのか、夢の中に登場する『スイッチ』の意味するものは何か、カラスは誰なのか、OP前に登場した佳乃がなかなか登場しなかった理由は何か、翠が摩耶と別れるシーンで登場した「日記」とは何か、翠のルート終盤のセリフ『本当のたっくん』は何を意味するのか、謎の少女は誰なのか。

3.世界を造り上げたのは誰なのか?
1周目のエンディングテロップの声優部分に『偽主人公:原田友貴』と堂々と表示されてしまうネタバレ部分に苦笑してしまったことはさて置き、私は主人公自体が実は幽霊だったり実在しなかったりするオチを考えてしまった。また、現実のキャラは結局のところ誰なのかも含めて。それほど本作の登場人物は謎が多い上に存在自体が都合が良いのである。このご都合主義にはきっと何らかの裏付けがある、そもそも世界を造り上げたのは誰なのか?である。最終ルートと言える謎の少女のルートで大半は明かされるのだが、ここまでたどり着くのが結構大変だった。

4.良い意味での「タイトル詐欺」
上記の酷評・地雷認定されていたであろう点と表裏一体であるが、ギャグ物のふりをして実はそうでないどころか鬱要素まであるシリアス作品なところに驚かされた。これはプレイした人間にしかわからない部分である。ただ、作品の発表の仕方としては上手ではないと思えた(酷評・地雷認定されても仕方が無い)。


2017年の今、本作をわざわざプレイする自分のような変わり者もそう居ないと思うが、本作は実は面白い作品であることを自分の目で確かめることが出来て本当に良かった。
本作はもっと評価されるべきではないかと思う。
中央値・平均点が低い作品は他にも積んでいるため、改めて「どのくらいクソゲーなのかを体験したい」という怖いもの見たさ探しに行こうと思う。



・立ち絵+CG    10点/20点
・設定(作品世界観) 15点/20点
・シナリオ      14点/20点
・音楽        14点/20点
・声優        17点/20点
●合計70点


CGモード × 99個
回想モード × 31個
BGM × 20曲(主題歌・ED曲のショートVer.含む)