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HARIBOさんの冬のポラリスの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
冬のポラリス
ブランド
ステージ☆なな
得点
83
参照数
89

一言コメント

片岡氏の手掛けた作品の中では珍しくいい意味で「面白い」と評価できる作品。短めなボリュームの中に凝縮された構成要素はエンタメ性に寄与している。過去作の影響こそあれど直接的なものでは無く単体の作品として独立しているのでねこねこソフト、ステージなな未プレイの方にプレイしてもらいたい作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作風としては「朱」、「新White」の系譜に位置するのかなという感じ。どちらかというとシリアス寄りで非日常的な展開からスタートする形も似通っています。
ファンタジー要素が多分に含まれていますので「ナルキッソス」のような地に足ついた作風とは異なりますがこれはこれで「片岡とも」らしい作品であることは確かでしょう。

この作品が特異なのは「面白い」ところ。
誤解を生みそうですが、ねこねこやステージなな作品の多くは淡々とした、ある種冗長的な描写が多く、「面白いッ」となるようなものはあまり無いと感じています。それは悪いことでは無いのですけどね。
本作はほどほどな伏線回収に別離、再会などエモーショナルな展開を盛り込まれており先が気になると思わせてくれます。本編の短さと相まって小さくまとまりすぎているかなという印象こそ拭えませんが、ぎゅっと凝縮された要素は確かに「面白さ」を感じさせてくれましたから評価できるところでしょう。

誤字などが多く見受けられるのはもう少しデバッグを頑張ってほしいところ。
グラフィックは立ち絵こそありませんが一枚絵や演出で十分に補っているので問題はない、というかこのスタイルでこそ良さが出る作品だと思います。

BGMや曲は良曲揃い…と言いたいですがねこねこやなな作品から流用してきたものが大部分を占めるので単純にヨシとは言い難い。どうしても過去作品のキャラなどを思い描いてしまいますのでね、これは背景にも言えるものですが。
もちろん過去作品をプレイしていなければ関係ないお話なのです。そういう意味で、ねこねこ、ステージなな作品に触れていない人に強くお勧めできる作品ともいえるでしょう。
同人作品とは思えないほどのクオリティの素材は作品の質を確かに高めており、文句の付けようが無いのですから。
作品の内容自体も過去作の影響こそあれど直接的なものでは無く、単体の作品として独立しており、かつ先述した通り「面白い」と評価できるものであることもその一因です。



内容について少し。


不死者というものが設定の根幹ではありますがずいぶんと残酷な存在だと思います。一種超越者のような位置づけでありながらも精神面は一般的な人間と大差ありませんから、連綿と続く生に耐えられないのでしょう。飛びぬけたアドバンテージが反面短所になってしまっているのです。

死ねば新たな記憶をスタートして「生まれ変わる」ことは僅かな救いですが、幾度かの死の末にメインの記憶がよみがえってしまうことがその救いを妨げています。

メインの記憶自体がOSの様にベースとしてあり、新たに刻む記憶はVMのようなものかもしれません。漫画喫茶のPCのほうがイメージしやすいかもしれませんね、作成したデータ=記憶は再起動すれば失われてしまいますから、USBメモリ等にバックアップしておかなければなりません。これが「星の間」のようなものです。

そもそも、そこまでして記憶を保持し続ける理由も突き詰めて見れば疑問なのです。なにか成し遂げたい大義があるならまだしも、多くはそうではなく惰性に過ぎません。保険というパートナーは確かに理由になるのかもしれませんが、それは共依存という呪いでありいずれ腐り堕ちるものだと思います。人はそこまで強くないのですから。

最終的に不死者たちは記憶を引き継がず、自然なリセットに委ね、彼らのアドバンテージを捨て去ります。
所謂普通の人間のような生き方を選択したというのは教訓めいていて童話にありそうな展開でした。「非日常」を捨てて「日常」を選択したということなのかもしれませんね。


Sweeper Swimmer編はライターが違うようですが、特別読みにくいということは無かったです。

悲壮感が無く牧歌的な情景は意図してのことでしょう、winter polaris編とは対照的な雰囲気がうまく描写されており良かったです。最終的に二つのお話が合体してエピローグに結びつく展開も見事、ツバキが自分の地図だけでなくヒエロニムスの書いた地図に心動かされる様子は胸を打つものがありました。マリーとエレナがその意志を運び手になるというのも繋がりがうまく活かされています。

ただ、一つ苦言を呈するのであれば、シナリオの主従が明確になりすぎているということを感じました。
両輪によって相乗的に完成しているのではなく、winter polaris編の壮大でエモーショナルな展開にSweeper Swimmer編は飲み込まれてしまったように思えるのです。

テキストボリュームは同程度なのですから、もっとがっぷり四つ組み合ってもいいのでは。
片岡氏のテキストに池波氏が合わせた、ということかもしれませんがせっかくの同人作品で実験的な作品と言っている以上は挑戦的でも許容されると思うのです。

小さくまとまった良さは確かにありました、面白かったです。
ですがさらに高まる余地もあるように思えるのでぜひともそれが見たいなぁと期待を込めて。