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Fastactionさんの神獄塔 メアリスケルター2 for Nintendo Switchの長文感想

ユーザー
Fastaction
ゲーム
神獄塔 メアリスケルター2 for Nintendo Switch
ブランド
コンパイルハート
得点
96
参照数
239

一言コメント

ブラッドスケルターモードやナイトメアが提供する雑魚戦だろうが1ミス全滅の危険性が付きまとう緊張感のある戦闘システム。従来の装備調達の手間を省き、エンドコンテンツにもなり得るブラッドファーム。製作陣のヒロインへの配慮が光る配置。魅力溢れるヒロインたち。キャラゲーと相性の良い育成システム。様々な面が高水準のDRPG。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 本作は全3部作から構成される『神獄塔メアリスケルター』シリーズの第2部にあたる作品だ。しかし、本シリーズは初心者への配慮として前作をプレイできるという特徴を持つ。『神獄塔メアリスケルター2』では『2』のクリア後に前作の修正を加えた『1』リメイクがプレイ可能となっている。プレイ時間は『2』が83時間、『1』リメイクが30時間。あくまでタイトルは『神獄塔メアリスケルター2』なので主に『2』の内容を述べていくが共通点が多いので『Finale』や『1』リメイクも時々話す。設定難易度は注釈がない限り最高難易度のFEARである。


①ジェノサイドモードとブラッドスケルターモード、舐めるの良いバランス
 
 本シリーズの一番の特徴はヒロイン=プレイアブルキャラが全員特殊な暴走状態へ移行可能という点だ。プレイアブルキャラ全員に共通して「返り血ゲージ」というものが存在する。これは最小で0、最大で5までカウントされる6段階のゲージで次の様な場合にカウントが増加する。1.オーバーキルを発生させる。2.弱点を突く。3.出血特性の攻撃スキルを使用する。4.攻撃がクリティカルになる。このゲージが最大の5まで溜まって当該キャラの行動順が回ってきた時に「ジェノサイドモード」と呼ばれる暴走状態へ突入する。この状態になると
1.数回の行動後に解除されるまでATKとTECに上昇補正がかかる。2.類似スキルの完全上位互換となる主に攻撃スキルのジェノサイドスキルが使用可能となる。3. ウェイトが軽くなる。(本シリーズはターン制ではなく、ウェイト制を採用している。ウェイトが軽くなるというのは分かりやすく言うと1行動順につき、1回〜複数回行動になる。)
このジェノサイドスキルを使い回すのが本シリーズの戦闘の肝となる。具体例を挙げると本シリーズ共通で対単体最強レベルの火力を出せる通常スキルの一つに「レンジラッシュ」というものが存在する。これはスキルレベル最大の時に『SP100を消費して対象をランダムにとって最大で通常攻撃の130%のダメージを4回敵単体に与える』というものだ。このSP100というのが非常に燃費が悪い。なぜなら、このスキルを使用できる職業の最大レベルであるLv99時のSPは一番大きい職業でSP182、一番小さい職業でたった105しかないのだ。つまり、よほどSP特化にした装備構成にしない限り、アイテムによる補給なしではLv99でも1発か2発しか撃てない。それに加えて、他の攻撃スキルは通常攻撃の130%〜160%のダメージしか与えられないものが多いことを考えると攻撃対象ランダム、多段攻撃故の命中不安があるとはいえ、最大で単体に520%のダメージを与えることができるレンジラッシュはまさに対ボス用の大技と呼ぶに相応しいものとなっていることが分かる。さて、このレンジラッシュにはジェノサイドスキル版が存在する。前述した通りジェノサイドスキルは類似スキルの上位互換となっているがその性能は次の通りである。『SP2を消費して対象をランダムにとって通常攻撃の130%のダメージを5回敵単体に与える』問題となっていたSPの重さが完全に解消され、さらに攻撃回数も1回増加している。これはダメージ/SPで換算した時、レンジラッシュはジェノサイドスキル化することでなんと燃費が62.5倍されるという脅威の倍率を実現するのだ。この数字はジェノサイドスキルの中で最も大きいものとなる。⑥で後述する通り、『2』ではレンジラッシュに関しては終盤のボス相手にしか撃つ機会はないが、ジェノサイドモードの重要性がよく現れている例だ。
 
 当然これらのスキルを使いたいがためにプレイヤーは返り血ゲージを溜めようとするのだが、ここに本シリーズの良調整が垣間見える。返り血ゲージには「穢れ」なるものが付随するのだ。これは最小で0、最大で4の5段階から成る特殊な異常なのだが、穢れが1でも溜まっている状態で返り血ゲージが最大まで溜まっているキャラに行動順が回ると穢れの段階に応じた確率でジェノサイドモードの代わりに「ブラッドスケルターモード」と呼ばれる別の状態へ移行する。ジェノサイドモードが作中で正の暴走とされるが、このブラッドスケルターモードは負の暴走状態と認識されており、ストーリーの随所で禁忌とされている。その効果は
1.ジェノサイドモード同様ジェノサイドスキルが使用可能となり、ウェイトが軽くなる。2.ジェノサイドモードを遥かに上回るステータス上昇を引き起こす。3.行動をプレイヤーで制御することができず、敵味方関係なくスキルの対象にする。4.自然回復しない。
特に問題となるのは3だろう。敵味方関係なくスキルの対象にするというのは攻撃スキルやデバフ、バステを味方に対して放ったり、回復スキルやバフを敵にかけるようになるのである。その中でも味方に撃つ攻撃スキルは非常に危険だ。1.2.の効果と組み合わさり、もはや1番の脅威は敵ボスではなく、ブラッドスケルター化した味方という状況になる。これがどれほどのものかは私が体験した中で最も印象的だった例を紹介しよう。本シリーズのプレイアブルキャラクターのレベル99の最大HPは職業により異なるが600〜2000程度となる。ここから装備品での補強を考えるとおよそ1100〜2500となる場合が多い。そんな環境で最も攻撃性能が高いキャラの一人であるレベル99シンデレラが通常時に敵に放つと2000前後ほどのダメージを敵全体に放つ「ウィンドエッジ」という技をブラッドスケルターモードの時に味方全体に向けて放ってしまった。するとどうなっただろうか?なんと味方全員に6000越えの極大ダメージをぶっ放して盛大に全滅したのだ。この時、味方全員は所持していた中でDEFが特に高いものを装備品をつけさせていた。そんな中で最大HPの2倍以上どころかキャラによっては5倍以上のダメージを食らったのだ。1番の脅威は敵ボスではなく、ブラッドスケルター化した味方というのが良くわかる例だろう。問題はブラッドスケルターモードを引き起こす穢れの溜まり方だ。これは以下の条件で溜まる。
1.自身が大ダメージを食らう。2.味方が戦闘不能になる。3.何もせずとも自然に溜まる。
1、2はともかく3により、たとえ難易度をEASYにしても1ミス即全滅という状況が発生しうる。しかもこの穢れを取る方法は1つしか無く、その手段では到底味方全員の穢れを回復するには追いつかないので、たとえ雑魚戦であってもしっかりと返り血と穢れを管理しなければ全滅するという緊張に満ちた良い戦闘となっている。というより、雑魚戦の方がブラッドスケルターモードの危険が高い。なぜなら、上述した返り血の溜まり方のうち1.のオーバーキルは味方全員の返り血ゲージを上昇させるからだ。例えばキャラA→キャラBという行動順になっている場合、キャラAの全体攻撃で複数体の雑魚をオーバーキルしたが、敵が1体だけ残ってしまったとする。キャラAの行動選択時にキャラBに穢れが溜まってるが、返り血が溜まっていないためブラッドスケルターモードの心配はないと高を括っているとキャラAのオーバーキルによって一気に全員の返り血ゲージが数段階上昇してゲージMaxになり、Bがブラッドスケルターモード発動、そのまま味方全員に攻撃スキルを撃って全滅というのがもはやパターン化した全滅例となっている。そして、仮に全滅しなくても一人が死亡した場合、味方全員の穢れが一気に上昇する。そうするとブラッドスケルターモードの連鎖が発生して挙げ句の果てにブラッドスケルターモードを治療できる唯一のキャラであるつうを含めて生きているメンバー全員がブラッドスケルターモードという絶望を味わうこともある。これは攻撃が強いボス戦でもありがちな全滅例だ。また、ブラッドスケルターモードへ移行する際には、当該ヒロインの叫びと共に一気に画面が引いた後、専用立ち絵が禍々しく表示される特殊演出が入り、否応なしにプレイヤーの気を張り詰めさせる。このように、たとえ安全のように見えても返り血と穢れ、それにブラッドスケルターモードのシステムによりたった1回のミスで全滅するという手汗握る戦闘を雑魚であってもボスであっても味わえるという高難易度DRPGを好む私にとっては非常に良いゲームバランスとなっている。
 
 では、このブラッドスケルターモードへの対処方法はどうなっているのだろうか。これは主に2つの手段がある。
1.穢れを取る。2.返り血を取り除く。  
まず1つ目の手段の穢れに関しては自然回復せず、ジェノサイドモードが終了して返り血がリセットされても穢れは回復しない。これを回復できるのは主人公の浄化コマンドのみだ。単体浄化は味方一人の穢れを全回復させ、全体浄化は味方全員の穢れを少し回復する。この浄化はシリーズを通してデメリット付きだが、『2』のデメリットはかなり強烈となっている。主人公のつうはナイトメア・ジャックとリンクしており、つうに行動順が回るとつうを動かすかナイトメア・ジャックで浄化するかを選択することができる。また、ナイトメア・ジャックは穢れゲージを持たない代わりに0〜4の5段階の精神ゲージが存在する。これは単体浄化なら1回につき1以下、全体浄化ならば1回につき3ほど上昇し、精神ゲージが4になるとナイトメア・ジャックがブラッドスケルターモードと同じような暴走状態へ突入すると同時につうの穢れゲージが一気に最大まで溜まる。この仕様により、味方全員に穢れが溜まっているからといって安易に全体浄化するとナイトメア・ジャックの精神ゲージが4になる→ナイトメア・ジャックが味方を超火力で攻撃する→当該キャラが戦闘不能になる→生存キャラ全員の穢れゲージが全体浄化の回復量を上回って溜まる→全員ブラッドスケルター化という流れで穢れを取り除く行動のはずが、逆に全員の穢れをMaxまで増やしてしまうという凄まじいリスク行動となってしまう。このように、ジェノサイドモードは発動させたいけどブラッドスケルターモードは発動させたくないから浄化するという安易な行動を取ることが難しいのが本作のドキドキ感に繋がっている。また、上昇した精神ゲージはつうの「カウンセリング」かナイトメアジャックの「しんこきゅう」のコマンドで1回復できるが、当然その分の行動が無駄になる。本作はアイテムを使うことができるのがつうと「アイテムツーラー」に就くことができる白雪姫とグレーテルだけであり、つう自身の職業も優秀なスキルが勢揃いしているのでなるべくつうにはアイテムや自身のスキルを使わせたい。そんな時には2番目の返り血を取り除く方法が選択肢に上がる。
 
本シリーズはプレイアブルキャラが全員が「なめる」というコマンドを所持している。これは返り血が3以上溜まっている味方がいる状態で当該キャラ以外のキャラが選択可能なコマンドで返り血の方を全て取り除く。ややこしいかもしれないが浄化は穢れのみを取り除き、なめるは返り血のみを取り除く。また、なめると対象になったヒロイン固有のバフやヒールが発動する。これは類似の通常スキルよりも効果が高いものとなっている(ジェノサイドスキルはほとんど全てが攻撃スキルであり、なめるは全てがバフかヒールである)。なめるの利点としてはなめる側のヒロインが覚えることができないタイプのバフを発動できる点が挙げられる。元々本シリーズは1ヒロインが5つ以上の職業に就くことができて、転職すると全てのスキルを覚えることができるので1ヒロインが覚えるバフは多い方だが、なめるで発動する固有バフによりさらに戦略性が拡張している。しかし、これにも浄化同様デメリットがある。なめるを多用するとブラッドスケルターモードの発動は防ぐことができるが、ジェノサイドモードにもなれず、なめる固有スキルに攻撃スキルがないのでボス戦では一向に敵のHPが減らないのだ。なめるは返り血ゲージの減少量を調整することはできず、一律でゲージを0にする。この仕様によりなめるを使われたヒロインはしばらくジェノサイドモードを封じられる。ジェノサイドモードは雑魚戦ボス戦問わず非常に有用なのでブラッドスケルターモードの 回避とジェノサイドモードの封印を天秤にかけなければならない。また、穢れゲージが4溜まっている状況では確実にブラッドスケルター化するが、1〜3では確率でジェノサイドモードかブラッドスケルターモードのどちらかになるという事情が絡むことで例えば次のような思考にプレイヤーは陥る。穢れの溜まり具合が1〜3、返り血が5のキャラが待機している時、浄化するか?それともしないか?なめるか?なめないか?浄化できるのはつう(ナイトメア・ジャック)だけだが、つうの行動はなるべく浄化以外を選択したい…けどブラッドスケルターモードではなく、ジェノサイドモードを発動させたい…。このようなシチュエーションになるとモロにプレイスタイルが出るだろう。所詮確率と割り切って穢れが少し溜まっていても浄化無しで突っ込む人。安全重視で穢れが0か溜まっても1の状況でしか返り血をMaxにしない人。つうの単体浄化では絶対に全員の穢れが0をという状態を維持することができず、穢れは溜まる時は本当に一瞬で溜まるのでつうの浄化と精神ゲージ上昇対策のためのしんこきゅうとカウンセリングの回数、穢れがたまったキャラへのなめる頻度。ブラッドスケルター化の危険を冒しても返り血Maxで一気にダメージを取りにいくか?それとも長期戦、リソース枯渇覚悟でなめる連打か?このような独自システムでリスクリターンの管理を考えるのが面白く、個性が出るやすい所が本作の明確に良い点だ。

 また、ブラッドスケルター化した後のリスク管理も興味深い点がある。DRPGはスキル習得のためのポイント(本作ではCP)が限られており、不要なスキルはそもそも取らないというのが一般論だ。しかし、『神獄塔メアリスケルター』シリーズに関しては要らないスキルこそ生存に直結することがある。ブラッドスケルターモードの時の行動は上述の通りランダムで制御できないが、弱めの単体攻撃スキルやダメージを出さないバフ、デバフ、回復スキル等のスキルを大量に覚えさせることで味方全体に大ダメージを与えるスキルが選択される確率を減らすことができるのだ。ステータスをあえて下げることでメリットを生む戦法やデメリットをメリットに転用する方法は数あれど、パーティ構成上使わない無駄スキルを覚えさせることそのものがメリットになるというのはブラッドスケルターモードが存在する本シリーズくらいでしか見られない面白いリスク管理方法だ。


②素材調達、金策といった面倒な手間が不要な装備調達方法、ブラッドファーム
 
 DRPGというジャンルは装備更新が面倒な場合がある。通常プレイの最中で敵がドロップするアイテムを常識的な数しか要求しない装備ならばともかく、条件付きのドロップ品や低確率でしか入手できないレアアイテムが必要な装備、さらには異常な数のアイテムを要求する装備というのが存在する。しかもそのような装備というのは進行時点で最も優秀な装備やゲーム中最強装備であることが多い。初代『世界樹の迷宮』のカリナン50個を要求するアダマースや逆鱗マラソンという言葉を生み出した真龍の剣などが有名だろう。しかし、本シリーズの『2』と『Finale』には「ブラッドファーム」という初期からずっとお世話になる装備調達システムであり、エンドコンテンツにすらなるものが存在する。これは戦闘勝利時に倒した敵の種類によって「血晶」というアイテムが入手可能でそれらを迷宮内に植え、5回戦闘に勝利したら植えた場所で装備品やその他アイテムが回収可能になるというシステムだ。血晶はそれぞれAは武器、Bは防具、Oは装飾品、ABは後述するピースとアイテム中心に採集可能で迷宮1フロアにつき、15個まで同時に植えることができる。面白いのがこの血晶は一番最初のチュートリアルダンジョンの雑魚敵がドロップする血晶もラストダンジョンの敵が落とす血晶もどれも同じであるという点だ。どの装備品が採集可能なのかは迷宮の種類と階数によって判定されるが、血晶自体はどこで取っても同じである。そのため最新エリア探索中に当該エリアでブラッドファームを行うことで効率よくゲームの進行と装備品の新規調達が同時に可能になる点が従来のDRPGの装備品更新の面倒くささを見事に解決している。
 
 加えてこのブラッドファームはハクスラのエンドコンンツとしての面白さも兼ね備えている。ブラッドファームにより得られる装備は+と称号が確率により付与される。+は装備品の特定ステータスにボーナスがつく効果を持ち、称号はステータス増加、もしくは称号でしか得られない効果を装備に与えるものだ。特に称号に関して、疾式のAGI+30は攻略時点でも非常に有用であり、召式の穢れ増加量低下は喉から手が出るほど欲しい効果となっている。このように、欲しい装備に望ましい称号と+の理想の組み合わせを求めるとかなりのやり込みが求められるため、ブラッドファームはエンドコンテンツとしても機能する装備調達方法となっている。①と②の要素は非常に良かったので他のDRPGにも実装してほしいと密かに思っている。


③不死のボス、ナイトメアと虐殺鬼ごっこの恐怖
 
 DRPGではお馴染みのフィールドエンカウントエネミーは本シリーズにもナイトメアという名で実装されているが、他作品と比べてかなり異彩を放つ存在となっている。このナイトメアをどうにかして排除しようとするのがダンジョン内ストーリーのメインとなっているのだが、次に記す様々な特徴を持っている。
1.ダンジョン内で見かける移動する巨大な黒色or白色の空間(『2』では白色、他は黒色)に接触する、もしくはそれが無くともメニューを閉じる時等にナイトメアに突然発見され、「虐殺鬼ごっこ」が開始される。2.虐殺鬼ごっこ中はメニューを開くことができず、マップを見ることができなくなる。また、画面が中央を除いて『2』ではホワイトアウト、それ以外ではブラックアウトする。3.ナイトメアの索敵範囲外へ逃れるまではナイトメアは"リアルタイムで"追いかけてくる。4.虐殺鬼ごっこ中とバトル中にはナイトメアは"リアルタイムで"行動順を繰り上げてくる。5. 虐殺鬼ごっこ中にも雑魚とエンカウントするが、その間にもナイトメアは追いかけてくる。6.ナイトメアに追いつかれると戦闘が始まり、一定以上のダメージを与えると僅かの間、ナイトメアを停止させることができるが、倒すことはできない。再び追いつかれるとまた戦闘になる。
2.に関して、本シリーズは他のDRPG同様にマッピングシステムによる現在地の確認が重要となるが、虐殺鬼ごっこ中はそれができない。しかも画面の視認性が極端に悪くなるので他作品ではあり得ない行き止まりに逃げ込むといったミスや、見えている落とし穴に突っ込んでしまうという等のミスを誘発する作りになっている。そうなったらもう最悪だ。3.のDRPGでは珍しいリアルタイムで追いかけてくるという特性によりナイトメアと強制的に戦闘させられたり、メニューが開けない=メニューからの回復ができない状況で瀕死になりながら逃げるハメになる。これだけ見ると虐殺鬼ごっこが始まる前にマップを確認して逃走ルートを事前に確保すれば良いと思うかもしれないが、問題はナイトメアが突然現れるという場合だ。この状況になると事前準備の時間を与えられずに虐殺鬼ごっこに突入するので行き当たりばったりで逃げることとなり、袋小路に突入して殺されるというシチュエーションが何度かあった。加えてナイトメアに追いかけられている時のBGM「Rave of Nightmare」は初めて聴いた時、ゲームがバグったのか思うほどノイジーな曲になっており、ナイトメアの見た目や画面の塗りも相まって視覚と聴覚からもプレイヤーの恐怖心を煽る。また、ナイトメアは各ダンジョンのボスということで強力な存在なので、これに追いかけられる時は適度な恐怖と緊張をもたらす良いシステムとなっている。また、4.で挙げた追いつかれた時やボス戦として戦う時にはリアルタイムでこちらの行動に割り込んでくる非常に珍しい特性により、通常のDRPGのようにじっくり考えてから行動を選択する余裕などなく、ハイスピードな戦闘が求められる。①で挙げたブラッドスケルターモードのリスク管理なども高速で行わなければナイトメアばかり行動するようになるのでコマンド選択型RPGでは中々味わえないタイプの慌ただしい楽しさをナイトメアは我々に提供してくれる。
 
  
④通常の難易度設定よりも細かく難易度を調整できるトライジェイルと機嫌
 
 DRPGはほとんどの場合、難易度設定ができない、もしくは3つほどの難易度から選ぶことができる。本シリーズもその例に漏れず難易度がEASY、NOMAL、FEARの3段階に分かれている。しかし、ここからプレイヤーの手でさらに細かく難易度を調整できるシステムがトライジェイルである。これは敵を強くする、味方を弱くするなどの条件を設けて入手金額やアイテムドロップ率や血晶ドロップ率、その他特定のステータス等を上昇させるといったものだ。例を挙げると戦闘時15%で味方全員のATK、DEFが15%下がる代わりに入手金額+15%。戦闘時10%の確率で猛毒状態になる代わりに穢れ上昇量−30%。ナイトメアの出現率が65%上昇し、全能力が20%上がる代わりに戦闘終了後の血晶ドロップ数が50%の確率で1つ追加される。などといったものだ。このような項目が全部で35個も存在し、プレイヤーは自由な組み合わせで難易度を調整することができる。例えば私はナイトメアに追いかけられる緊張感を味わいたいプレイヤーなので3つ目に挙げた項目は常時適用していた。

 加えてダンジョンには「機嫌」なるものがある。これは0%〜100%まで設定されており、この機嫌に応じて敵のステータスが変動するのだ。また、機嫌が60%を超えると急にナイトメアが現れる確率が高くなる。特にメニューを閉じた瞬間目の前に現れるシーンはホラーゲームさながらの驚きを与えてくれる。ちなみに難易度FEARで機嫌100%のラスボスはストーリーの都合上、裏ダンジョンや裏ボスが存在しない本作での独自のやり込み要素となる。その強さは並のDRPG最高難易度の裏ボスが裸足で逃げ出すレベルの極悪難易度になっているので後述する育成システムも利用してクリアした時の達成感は非常に大きい。

 ④を総括すると、①のブラッドスケルターモードもそうだが、本作はリスクとリターンの管理の調整が絶妙で、明確な正解が存在しないため、自分のプレイスタイルを確立することができるのが本作の魅力の一つだ。
 
    
⑤きちんと考えられたキャラ配置

 本シリーズの『1』と『2』はダンジョンを攻略する毎にプレイアブルキャラが新たに加入するシステムを採用している。これはストーリーと連動しているため、端的に言えば最初の方に加入したキャラには見せ場が多いが、最後の方に加入したキャラは見せ場が少なくなるというデメリットがある。しかし、本シリーズは『1』と『2』で加入順がほぼ真逆になるという大胆な構成になっている。『1』の加入順は
アリス、赤ずきん(初期加入)→白雪、眠り姫→親指姫→かぐや姫orシンデレラ(選択肢により異なる)→グレーテル→ラプンツェル→ハーメルン(隠しキャラ)
となっているが、『2』は
つう、人魚姫(初期加入)→ハーメルン→グレーテル→ラプンツェル→かぐや姫→親指姫→白雪姫、眠り姫→シンデレラ→赤ずきん→アリス
となっている。そのまま逆とはいかないが、これは各キャラの職業の重要性が影響しているだろう。例えばグレーテルとラプンツェルは順番が入れ替わっているが、これはグレーテルの属するサイエンス系が攻略に必要不可欠なものが揃っているからだ。具体的にはミミクリーの敵HPゲージを表示するスキルであるアナライズを習得するまでどれだけHPが削れているのかを確認できないので、早期に加入してくれて本当に良かったと思っている。その他、浄化作業でつうが忙しくなる中、アイテムツーラーとしても八面六臂の活躍をしてくれたし、雑魚戦はファイアSPドレインの範囲攻撃で一掃するという八面六臂の活躍を見せてくれた。一方でラプンツェルの属するリベロ系は範囲攻撃手段に乏しく、ボス戦向きのものばかりが揃っているので、1よりも後に加入してくれる方が嬉しい設計になっている。このように、『1』と『2』を通してできるだけヒロイン全員に同じ量の見せ場を用意しようという考えとプレイヤーにサクサク進めてもらうためにはどのキャラ=職業順にすれば良いのかという考えが上手く両立している。


⑥キャラゲーであることを活かした育成システム

 本シリーズはキャラゲーとしての側面を持っており、特定のアイテムをプレゼントすることで好感度が上昇し、キャラ別のサブストーリーが進行し、これが上手く戦闘面と噛み合っている。というのもこのストーリーの進行具合で新たなジェノサイドスキルが使用可能となるのだ。①でも説明した通り、ジェノサイドスキルは戦闘を有利に進める上では不可欠なシステムである。また、後半に解放されるスキルほど有用である場合が多い。例えば先述したレンジラッシュは赤ずきんのサブストーリーを最後まで進めることでようやく解禁される。

また、「退化」システムもキャラゲーである本シリーズとマッチしている。これは他のゲームでは引退などの名前で実装されている当該キャラのレベルを下げる代わりにステータスにボーナスがつくシステムだ。なぜこれがキャラゲーとマッチしているのかというと本シリーズの退化回数に上限がないのだ。他のシリーズではゲームバランス確保のためか、退化にあたるシステムは1キャラにつき1回のみなのが普通なのだが、本作は時間さえかければ最強の嫁を作ることができる。退化を1回も利用していない場合の最大ステータスは装備による補強込みで職業にもよるがATK、TECは約500。それ以外のDEF、MEN、LUC、AGIは約200ほどになる。これらを退化の繰り返しによりATK999、TEC999、DEF999、MEN999、LUC999、AGI999にした時の充足感は筆舌に尽くし難い。そこまでのステータスなんて必要ないだろうと思われるかもしれないが、④でも挙げたトライジェイルの縛りを35個全てONにした難易度FEAR機嫌100%のラスボスはこれでも苦戦するほどの超高難易度なので最強にした嫁で最強のボスを打ち倒す達成感を味わえる稀有なゲームだ。退化には莫大な量の血晶が必要となるので同時に3人以上の退化を繰り返すことは出来ない。本当に好きなヒロインだけに血晶と経験値を注ぎ込むことになるので、キャラゲーとの相性が抜群なのだ。私はアリスと赤ずきんをステータスをカンストして最強状態のラスボスをそれぞれソロでクリアしたが、私が特定のキャラをここまで好きになるのは珍しいので退化システムは本当に良かった。


⑦印象に残るBGM
 本シリーズはBGMにも力を入れており、何度も聴きたいと思う曲がいくつかあるので紹介しよう。

1.「Tales of Hameln」拠点BGM。私は公式の推奨順である『2』→『1』に少し逆らって『1』を序盤までプレイしてから『2』をクリアして『1』へ戻ってオールクリアした。理由は『2』は『1』との対比をプッシュしていたが、そもそも比較元を知らなければ対比されても面白さが分からないからだと思ったからだ。結果的にこのプレイングは正解だった。ヒロインたちの、いや囚人全員の希望であった黎明がナイトメア・アリスにより崩壊してドン底に叩きつけられたが、ハーメルンの根城であるハーメルン解放地区を拠点に復興、逆襲の狼煙を上げるというテーマが拠点BGMでは珍しく勇ましい曲調と見事にマッチしていた。

2.「One More Red Nightmare」ナイトメアボス戦BGM。おどろおどろしい音色と激しい曲調が交互に流れる様はまるでナイトメアとヒロインたちの攻防を表しているかのようだ。タイトルのRed、つまり赤色とは血を表しているだろう。ナイトメアの血によって暴走状態へ移行する血式少女たちと彼女たちの元になった童話と縁深い怪物との戦いが終結し、このBGMが鳴り止む時に立っているのは果たしてどちらか。

3.「NINGYO」『1』リメイク裏ダンジョン「都庁」中ボス、ナイトメアつう戦BGM。『2』において人魚姫がみんなの前で披露した歌のアレンジだと気づいた時には不覚にも感動してしまった。例え、世界が変わっても、自分自身が忌み嫌う化け物、ナイトメアに逆戻りしても失われない人魚姫の愛のために戦うつうの姿には敬意を表さずにはいられない。さらに、この戦闘の特殊勝利条件も印象深い。この時のつうはHP約11万、DEF999、つうの行動順が回るたびに全回復と「韋駄天ループ」で超長期戦を挑まない限り無理ゲーだが、『2』の世界でつうが、そして『1』の世界でジャックが拾った全く同じ仲間との思い出のアイテムを使用することで特殊勝利となる。勇者に憧れるハーメルンの「漫画描きセット」。お菓子を愛するグレーテルの「バニラエッセンス」。早く大人になりたいラプンツェルの「ままごとセット」。ぐーたらが大好きなかぐや姫の「低反発まくら」。姉妹の絆を何よりの宝とする親指姫、白雪姫、眠り姫の「三叉イヤホン」。美しさの哲学を貫くシンデレラの「口紅」。フードがあると落ち着く赤ずきんの「赤色のフード付きパーカー」。そしてアリスがみんなのためのお茶会を開いた時に使った「テーブルクロス」。これらのアイテムを使うたびに『2』の思い出が蘇ってシナリオ、そしてこのBGMの演出も相まってDRPGのボス戦の中でもトップクラスに印象に残っている戦闘になった。余談だが、『1』の裏ボスであるつうが『2』の主人公となり、『1』の主人公とメインヒロインだったジャックとアリスが『2』のラスボスになる構図は滅茶苦茶盛り上がった。

⑧『メアリスケルター1リメイク』と同梱しているからこそできる展開
 私はDRPGが好きで様々なゲームをプレイしているが、ボスによって様々な思い出がある。その中でもバトル中に泣きそうになったのは唯一本作だけである。具体的には『1リメイク』にて裏ボスの一角を務める「ナイトメアつう」戦だ。そもそもこのバトルに至るまでの流れが熱すぎる。最弱のナイトメアとして都庁から逃げて絶望に喘いでいたつうに癒しを与えた人魚姫との出会いと別れから始まった。『1』の主人公ジャックにたち血式から敗北した裏ボスのつうが逃げている途中で人魚姫の死を知り、つうは全てをやり直すためにウィッチクラフトを起動させた。ナイトメアではなく、人間として生きれば地獄が待っていると知りながらも最愛の人魚姫と再び出会うために世界を『1』から『2』へと変革した。その世界ではつうが人間の主人公、ジャックがナイトメアとして、『1』の頃と種族の立場が逆ではあるが、お互いを無二の相棒として大切な仲間たちと絆を深めながらつうたちはジェイル中を駆け回った。しかし監獄塔11階にて黎明を滅ぼし、ジャック以外の人類を絶滅させようとする最恐のナイトメアの存在がジャックの最愛の本物のアリスであることを悟った本物のジャックはつうと対立。『1』ではかつて裏ボスとして人類の敵であったが、『2』では主人公として、人間としてつうが監獄塔の頂上を目指す。立ちはだかるは『1』の主人公であったはずのジャック。たとえ最愛のアリスが人類の敵となろうとも、自分だけは決してアリスを見捨てない、手放さない、愛し続けるというの誓いを守るため、自らをコアに取り込ませて最恐最悪のナイトメアの一部となり、『2』のラスボスとしてアリスに害をなす全ての者を滅ぼす愛に殉じる悪鬼と化した。その戦いの後、12人いた仲間の血式のうち、つうと人魚姫以外の10が死亡。仲間と絆を深めることを誰よりも大切にしていた人魚姫は絶望した。この地獄から出られても、みんなと一緒に脱獄するという約束は守れない。『2』は本来死ぬはずだったはずの人魚姫の運命を変えるために様々な歪みを生み出した世界。元の世界で自分が死んでいても、みんなが無事に生きているのならその世界の方が良い。その願いを涙を堪えて聞き入れたつうは再び世界を『2』から『1』へと戻した。その記憶も全て失い、再びジャックが仲間とのジェイルの冒険の果てに人間として、主人公として、つうがナイトメアとして、裏ボスとして、ジャックは脱獄のため、つうは死んだ最愛の人魚姫のため、3度目の決戦が幕を開けた。
 以上が『1リメイク』裏ボス「ナイトメアつう」戦に至る流れなのだが、やはり注目したいのはジャックとつうの立場と戦う意義だ。ジャックは『1』と『1リメイク』では人間であり、主人公であり、脱獄のために戦う姿が描かれる一方で、『2』ではナイトメアであり、ラスボスであり、最愛のアリスのために戦う姿が描かれる。これと対比されるように、つうは『1』と『1リメイク』ではナイトメアであり、ラスボスであり、最愛のアリスのために戦う姿が描かれる一方で『2』では人間であり、主人公であり、脱獄のために戦う姿が描かれる。ここまで世界線を超えた因縁が強い関係性を描く作品は中々無く、それが主人公とラスボス、裏ボスという関係で表現されているため、全ての物語が収束する決戦に興奮するなという方が無理である。これだけでも十分魅力的なのだが、「ナイトメアつう」戦の真骨頂はその勝利条件にある。通常、DRPGは敵のHPを0にすれば勝利であるのだが、本バトルは非常に難易度が高い。ラスボスの10倍ほどあるHPに毎行動につき最大であるレベル99だろうが全滅レベルの苛烈な攻撃を仕掛け、さらに脅威的なまでな回復力も備わっている純粋な強さを突き詰めたボスである。普通に倒そうとするとあまりに難しいのだが、なんと「ナイトメアつう戦」はDRPGでは非常に珍しい(というか本戦の例しか知らない)エクストラウィン(特殊勝利)が設定されている。その条件とは「『2』の世界でつうが全ての仲間と絆を深め、各人の「思い出のアイテム」を全て入手」した上で、「『1リメイク』の世界でジャックがつうと全く同じ「思い出のアイテム」を全て入手」し、さらに「「ナイトメアつう」戦でそのアイテムを全て使用する」というものだ。こうすることにより、記憶が初期化されたつうが今殺そうとした人間が『2』の世界でかけがえのない仲間であったことを思い出し、「脱獄」と「人魚姫」の復活という双方の目的を互いに阻害することなく、共存し、歩み寄り、再び『2』の世界と同じようにかけがえのない仲間となり、戦闘が終了する結末になる。この条件こそ1つのゲームに2つのゲームを同梱し、それらのセーブデータを参照できる本作だからこそ実現できるものである。「ナイトメアつう」戦に至るまでの因縁に満ちたストーリーの果てにこの勝利条件に気がつき、それぞれの「思い出のアイテム」を使うたびに『1リメイク』と『2』での世界を超えた揺るぎのない絆を思い出し、彼女たちの死で終えた救いの無い『2』の切なさと今を生きる『1リメイク』での地獄の中でも決して揺るがない友愛と愛情の美しさに涙を流したのが強く印象に残っている。さらにこの戦闘で流れるBGM「NINGYOCHO 」は『2』において人魚姫がみんなのために披露した歌のアレンジとなっているのも感慨深い。こんなにも心動かすバトルを提供できるのはそこに至るまでのストーリーがしっかりと描かれていないとできないのだが、本作はそれを乗り越えて極上のバトル体験をもたらした。


最後に、私の中で最も刺さったヒロイントップに躍り出たアリスについて。これに関しては長々といくつも述べるよりも最大の魅力を語るだけの方が良いだろう。『2』のプレイアブルキャラであるアリスはラスボスとなるナイトメア・アリスと監獄塔のコアにより造られた偽物だ。身体も偽物、能力も偽物、ジャックからプレゼントされた世界で一番大切な十字の髪飾りも何もかも偽物。そんな中、True Endにおいて、ナイトメア・ラブの核を破壊された=心臓を潰されたようなもので余命数十秒しかないジャックが監獄塔上層ナイトメアに串刺しにされそうになった時、思考の速度よりも早く、ジャックの前に立った。ジャックの代わりに串刺しになったアリスの最期の言葉
「たとえあなたが、10秒後に、消えようと…その10秒の、ために……わたしは命を、賭ける、わ……」
存在そのものが偽りであっても、この言葉を生み出したアリスの心だけは偽物ではなかったのではないだろうか。


総じて『神獄塔メアリスケルター』シリーズはリスクリターンの管理、ブラッドファーム、ナイトメアとのやり取り、難易度調整、そして魅力的なヒロインが素晴らしい作品で個人的に神作となったゲームだ。