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Atoraさんの白銀のカルと蒼空の女王の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
白銀のカルと蒼空の女王
ブランド
工画堂スタジオ
得点
70
参照数
1129

一言コメント

蒼いシリーズ第四弾。これまでの世界観を上手く活かしつつ設定を膨らませた結果、シリーズ中、最も心躍る内容に仕上がっていると思う。キャラ立ち・ビジュアル面・ストーリーに些細な綻びも感じさせない反面、ボイスやゲーム性に大いなる不安を残しているのは、いかにも工画堂らしいと言えば工画堂らしい。中途半端すぎる創り手の遊び心さえ過剰に意識してプレイしなければ、費用対効果は充分高い作品である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 Eテクノロジーと呼ばれる、古代人が遺した超技術の恩恵にあずかる社会。
その高度な技術を、人々は自らの発展のために様々な分野に活用していた。

ところが、中にはその技術を悪用しようとする邪な者たちもいた。
アカデミーの学生にして、実は亡国の姫という特異な身の上のカル・ルスランは、
そんな無法者を取り締まるエージェントという、もう一つの裏の顔を持っていた。

陰謀渦巻く帝都で次々と起こる難事件―――その背後にあるものとは?
果たしてカルたちは、“彼ら”を止めることができるのか!?

蒼いシリーズ第四弾、3年の時を経てついに登場。

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概要は上に記したとおり。


 以前からその名が登場していた「帝都」を舞台とするDeep-Blueシリーズ第四弾。
ネオスフィア復興後を軸に展開される本作は、
亡き王国の復讐劇を描いたスペクタクルなストーリーである。


 さて、過去作である『蒼い海のトリスティア』と『蒼い空のネオスフィア』は、
先の主人公ナノカ・フランカによる都市復興物語という内容から、経営シムという趣きが濃かった。
ところが、一つ前の『暁のアマネカと蒼の巨神』にて、ゲーム性で大いに失望させられた。
今作では、ゲーム性に関して見るべきものは殆どなくなってしまった。



 それゆえ、ストーリーの善し悪しが評価を左右するのは想像に難くない。

 結論から言うと、なかなか面白く読み進められたと思う。
本筋では、話を端折らずに丁寧な説明が加えられ、世界観に対する肉付けが随所に見られた。
思わず続きが気になってしまう情報の小出し具合は、まさに絶妙の一言に尽きる。
これまでの蒼いシリーズでは、こういったソワソワ感というものはなかなか得られなかったが、
今作ではミステリーの分野から多少の知恵を拝借したことで、自ずと話題の幅が広がっていたように思う。

 また、キャラクター同士の掛け合いはさすがに竹内氏といったところで、会話のテンポが実にいい。
言葉のキャッチボールからは、なかなかの爽快感を得ることができるだろう。
物語に惹きこまれてしまうことはあれど、飽きてしまうということはないはず。


 もちろんシリーズ特有の百合シーンも健在で、こつえー氏の存在感はやはり別格。
あるいは18禁と言われてもおかしくない表現もあり、
この作品がトリスティアの流れを汲んでいることをいま一度自覚させられた。
そして、やはりと言うべきか、キャラクターたちがことごとく


  「H A I T E N A I ! 」
        (ラフ&設定原画集 より)


のがたいへん素晴らしい。言わずもがな、ビジュアル面は業界随一であることは疑いようもない。
シリーズを通して魅力的なキャラクターを描き続けるこつえー氏に加え、
藤原々々氏、Ein氏、やすき氏というゲストを迎えての試みは、こつえー氏の指摘どおり、


  「作品イメージも今までより広がって」
        (ラフ&設定原画集 より)


世界観をより広く色濃いものへと変質させていた。
キャラクター関係や世界観の広がりは、否応なく次回作への期待感を持たせてくれた。
複数原画というリスクを感じさせない、伸び伸びとしたキャラクターたちがここにいる。
絵とストーリーだけでもインパクトが強い。



 ところで、このゲームには、カードバトルや脱出ゲームといった「ゲーム性」は存在する。
おおまかに分けると、「行動メニュー」・「カードバトル」・「探索パート」の3つである。

 「行動メニュー」は、プレイヤー視点で行動を選択するというものだ。
人に話を聞いたり、電話をかけたりして、ストーリーを進めていくわけである。
とは言っても自由度は限りなく低く、基本的に全ての選択肢を選んで内容を把握するだけなので、
小難しいことを考える必要は全くない。従来のエロゲーにありがちなストーリー上の分岐もなければ、
ヒロインを選択する必要もない。

 ネガティブに捉えれば、この操作は単なる作業に過ぎないが、ストーリーとの関連性が高いので、
「行動メニュー」はそう無碍にもできないだろう。これは一種の免罪符だ。


 だが、「カードバトル」や「探索パート」にそんなものはない。不出来なのは明らかだ。
「カードバトル」は、後半になるにつれ素人目にも作業化するし、
「探索パート」は仕掛けの難易度が極めて低く、楽しむには程遠い完成度。
前作においても、ゲーム性は芳しくなかった。それを思えば、中途半端な遊び心は安易に入れるべきではない。
シムならシム、読み物なら読み物。ここはひとつ、割り切るのも一考ではないか。


 他に気になったのは、ボイスの充て方か。
本来ならば盛り上がるべきところで、ボイスが充てられていないキャラクターがいた。
とくに、前半と後半の密度差は歴然としており、どうしても後半の方がスカスカな印象を受けた。
予算の都合かもしれない。



 この作品は、竹内ワールドの世界観を拡充する重責を担っている。
その意味では、過去作をプレイしていたほうが、よりよい理解に繋がるのは間違いない。
竹内ワールドが広がりを見せたことは容易に理解できるだろうし、
もしかしたら、一段とこの世界にと惹かれるかもしれないから。


 次回作が待ち遠しい。
頭抜けたビジュアル面を筆頭に、総合的なクオリティはかなり高い。
ゲーム性の整備は急務かと思われるが、ピリオドを打つまで、この世界観だけは、
多くが惹きこまれるもので在り続けてほしい。



【雑談】
  豪華なクリエイターの陣容に反して、思ったよりも評者のデータ数が少ないのが残念。
そもそも18禁作品ではないので、批評空間の性質上、致し方ないのかもしれません。

それと、もういっそのことエロゲーでもいいのでは。