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Atoraさんの催眠生活 ~校則だから仕方ない!?~の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
催眠生活 ~校則だから仕方ない!?~
ブランド
C:drive.
得点
70
参照数
2640

一言コメント

「催眠術モノは、得てしてダークでなければならない」という大前提こそ、催眠術だったのではないか。この作品は、カラスの群れの中のアルビノに等しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 エロゲーで催眠術を題材として用いる場合、大抵は主人公か取り巻きの頭のネジが弾け飛んでいる。
可憐な蝶を想起させる純真無垢なヒロインたちを、悪逆非道の蟷螂がムシャムシャボリボリと食い潰
していくシナリオが多い。それゆえ催眠術を扱ったタイトルとなると、堕落と近親相姦と村越がウリの
黒虹の催眠シリーズや、輪姦抜きゲーという一際ダークな存在感を放つLiquidの『催眠凌辱学園』など、
どうしても玄人志向の玄箱ならぬ黒箱的なイメージが強かった。

 ところが本作は、催眠モノを光ある方向へ持っていこうとした。お莫迦なシチュエーションをいくつも
作ることで、黒から白へ塗りつぶそうとした。 「シナリオには目を瞑れ!」と言うよりも、シナリオの
屋台骨が最初からぶっ飛んでいるため、ストーリーの基部に文句を言っていてはキリがない。パッケージから
ダークさを全く想起させないあたり、比較的ラフなプレイヤーでも気軽に手に取れるのではあるまいか。


 また、「りんごと言えば万有引力であるが、青葉りんごと言えば万誘淫力である」
……と、思わず声を大にして主張したくなるほど、声優陣の艶技が際立っている。白眉である。


一見ダークな作品のように思えるが、その実態たるや、いちゃラブゲーと銘打っている作品を押しのけるほど、
あまあまな展開のオンパレードであった。まさか甘ったるい内容に仕上がっているとは私も予想外で、
1周目では完全に面食らってしまった。ここで評価が二分するであろう。

 並み居るエロゲーガストロノミーたちも驚愕すること請け合いの玉手箱。本作はまったく新しいタイプの
催眠モノであるし、白箱側のプレイヤーから見れば、非常に新鮮味があるように思う。


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◆シナリオ◆

 壊滅的なまでに脈絡がなく、突飛な展開に終始する。催眠生活の本筋に至るまでの段取りが長すぎるため、
いちゃラブに突入しても、総合的に重畳するには程遠い。感動や笑いを取れる代物ではないと思う。印象に
残りにくいし、不興を買っているのも分かる。しかし、この作品のセールスポイントは、シナリオとは全く
違うところにある。そのため、ネチネチとこのカテゴリに留まって議論するのは賢くない。

 催眠についてはラフな描写が多いものの、「麻希乃自身が催眠にかからない」からこそ、催眠術が発動した時に
噴出する滑稽さが面白い。場が白けることはなく、私が思っていた以上に効果的だった。これは、催眠モノとしては
全く次元の異なる現象である。もしこの作品が黒箱であれば、変容する常識の中に取り残される麻希乃を、
絶望の淵に叩き落すことをものともしなかっただろう。だが、驚くべきことに、C:driveはこれをさらに押しのけて、
なんと純愛いちゃラブへと誘うのだ。

 ここらへんは強引な感じが拭えないので、シナリオに整合性を求める人や、ダークな作品を期待していた人は、
手ひどく裏切られることになる。ごーいんぐまいうぇいっぷりが極まっている麻希乃も、犬っぽさがウリであろう
奈津美も、ロリなのに無理に背伸びをしている先生も、なぜかシリアナード・レイになってしまった委員長も、
おっとり系お嬢様のテンプレである遥も、すべてはいちゃラブががっちり主導権を握って放さない。

 それはさておき、エッチシーンのテキストがなかなかいい。少々ラリっている感じが強すぎる気もしないではないが、
少なくとも声とマッチしているように思う。いや、正確にはマッチさせているのは声優なのだが、明らかに過多である
はずのハートマークが不快にならないのが面白い。


◆絵◆

ふさたか式部氏。ご本人には申し訳ないことに、初めてお聞きするお名前だった(無知ですみません)
全般的に可愛らしい絵柄であるが、あるいは凌辱ゲーでもいけるのではないかという気がした。なんだか中庸的という
感じを全面から受けたので、今後の幅広い活躍に期待したいと思う。筆が早いのも強みである。


◆音楽、声◆

 とにかく、青葉りんごの好演に脱帽した。声優は好みの問題であるし、彼女の高い声を嫌う人がいるのは知っている。
しかし、好きな人にとってはこの上ない起爆剤でもある。かく言う私は爆発した。もとろん、他の声優を貶めるつもりは
さらさらない。私の中での青葉りんごが際立っていたという話で、どの声優も好演を見せ付けてくれるのは間違いない。
その点で、声優陣は今作において期待以上の頑張りを見せていると思う。この点は、かならず評価されるべきカテゴリだ
と感じた。

 音楽に関しては全く期待していなかったこともあり、多くは語るまい。サウンドモードは最低限の役目を果たしていると
言えよう。そんな中で嬉しい誤算もあった。5曲あるED曲の一つ『Luna : L.O.V.E side』がかなり異色だったからだ。
エロゲーでは聴きなれないテンポだったので、思わず聞き入ってしまった。


◆エッチ◆

 テキストと声の二項に関連する。

 回想数46という数字に表れている通り、かなりのボリュームがある。従来の催眠モノとはうってかわって、どういうわけか
明るいシチュエーションに偏っているので、ここら辺の評価は四分五裂すると思われる。催眠にかかっていようがいまいが、
どのヒロインもエロい事は間違いなく、ここらへんは陵辱サイドに傾きがちな催眠モノに引けを取らない。異質であるのは
疑いようがないものの、そんじょそこらのイチャラブをモノともしない芯の強さがある。

 イチャラブ寄りの抜きゲーとして見るのが、一番おトクなのかもしれない。


◆総評◆

 催眠モノなのに、ダークさは欠片も残っていない。堕ち路線を期待して手酷いしっぺ返しを食らった人もいるだろうし、
いい意味で裏切られた人もいるだろう。 おかしな言い方だが、この作品を一言で表すとすれば、「ホワイトandダークネス」。
ブラックorホワイトという風に両極端でもなければ、グレイのように混じり合ってもいないのだ。

 タイトルは内容より黒く、当の内容はこの上なく白く。私は、主人公から全くと言っていいほど邪気を感じ取れなかった。
随分と妙な作品だと唸らざるを得ない。パッケージには「誤用に注意」と銘打つべきだったのかもしれない。



【雑記】
 やたら「しまぱん」に力が入っていたような気がします。ライターか原画家にこだわりがあるんでしょうか。
 催眠術の村越のようなキャラの有無が、作品を左右しているように感じました。