五人連続ファーストキス&五人同時プロポーズから始まる物語。絶対にありえない状況から、意外と真面目に「愛し愛される」理由を描く。ただし、前提が突飛な上に、そのフォローがされないため、どうにも「恋愛モノ」としては現実感が無かった。単なる友情に留まらない、少女たちの「淑女協定」下における鬩ぎ合いの描き方、小道具の使い方は評価できる。
ヒロインたちの、理人を好きになった理由を描けなかったのが、最大の問題点。物語のメインが、その理人の奪い合いに終始しているため、その理由が判らないことが、ヒロインたちの行動の理由付けに非常にマイナスになったことは否めない。コメディ一色で物語を纏めるならばともかく、プリンセスカードによる「淑女協定」下における鬩ぎ合いの描き方は、単純なハーレムモノに終わらせない、ヒロインたちの内面を抉ろうとしたモノだっただけに、この前提に寄りかかってしまった終わり方は残念だった。
だが、絶対に修羅場にしかならない環境を、主人公をあくまで「無垢な少年」で描き切ることで、修羅場にさせず、さらにヒロインたちも、主人公のためにはそうせざるを得なかった舞台にした。「お約束」ながら、オチはしっかりしているし、何より、会話のリズムが良い。その原因は、設定の勝利。理人にとっては、生涯の伴侶選びという現実問題なのだが、ヒロインたちにとっては、この“戦い”は「ゲーム」だからだ。
これは、ヒロインたちにとって、初恋を成就させることより、初めての「想い人と一夜を共にすること」に重きを置いたからこその、最初の五夜連続「初夜」であって、その延長線上に、プリンセスカードによる「淑女協定」があることからも判る。「まずは試食してみなきゃ」という親も親だが、一応、納得できる理由でもあり、それを鑑みてみれば、彼女たちの「想い」は、この「初夜」で達成されていて、次はチップに見合った配当があるかどうか、自分で奪うまでの「ゲーム」でしかない。
それは、選択依存症である聖、理人と聖を中心に物事を考える愛生、思い込みが激しいが肝心な部分で立証を求める佳央、安易な同調と見せかけて面従腹背を繰り返す遥奈、周りを肯定しているように見えて自分の世界観の容認を求めている枝絵留・・・と、ヒロインたちに誰一人、能動的な人物を置いていないことが、一番端的に示している。理人は総受身だが、この物語の登場人物は、ほぼ全員が「受身」なキャラであって、だからこそ、こんな妙な冷戦状態が描けたと思う。
この生活の描き方・・・「修羅場」を「理人が選ばない限りは、終わらない“ゲーム”」と割り切る描き方は、少年少女の共同生活みたいに描かれていて、その点が、「共感はできないが、ラブコメとしては面白い」という評価に繋がる。だが、その前提が故に、この物語は、ハーレムルートを描かない。基本的に枝絵留以外は、二人同時攻略が基本なゲームなのだが、その設定上、聖&愛生ペアだけが、お互いを容認できる相手であって、それ以外のヒロインは、絶対に他のヒロインとの選択を迫る。
「愛し愛される」という現在進行形の恋愛を描くことが上手かったと言えるのは、こんなハーレム設定で、ただ一人への純愛を通したからこそ・・・と言える。