山場がないハードボイルド。ごく簡単に言うと、そんな作品。急展開らしき場面はあるのだけど、あんまり盛り上がらない――というか、盛り上がったら、すぐに終わるため、内容的に込み入った話にならないという変なハードボイルドでもある。
主人公は、フィクサーと呼ばれる非公式の捜査協力者、探偵のようなことをして日々の暮らしを立てている。同居人は、スラムの孤児・リョウコ=シンジョウ。相棒は、元軍人のジョー・ベルトラン。主人公には、遺留品から犯罪者が犯行時に見る世界(惚境)を“視る”ことができる能力があり、それを使って幾つかの事件を解決してきた。
舞台は新都市の誕生によりスラムと化した旧市街。人の死など珍しくもない町で、また娼婦が惨殺される事件が起こり、主人公は、いつものように警察から仕事を請け負う。だが、その遺体から“視た”犯人の世界は、被害者とは別な女性を“視て”いた。本来の被害者と犯人が見立てた被害者の“不一致”。主人公は、その見立てられた女性を追うことで事件の真相へ踏み込んでいくことになる。
システムはADV。ただし、普通のADVではなく、推理系ADVで時折見られる、カーソルで画面を捜索して情報を集めるタイプ。演出方法は、映画的な演出に特化しており、字幕付きオープニングやエンディングでの締め方と言い、どうも制作者はこの物語を“一つの映画”としてまとめたかったように思われる。しかし、双方とも、この「No Reality」という物語では成功しているとは言い難いのが、言うなれば、この異質な作品を単調な物語にしてしまった要因だろうと思う。
プレイ時間は、5時間あるかないか、ボイスもないので意外と速く進む。一本道のシナリオであり、マップ上を動いて指定場所に着くと勝手にイベントが始まるタイプなので、捜査と言うよりはイベント発生場所探しというのが最もしっくり来る。次のイベント発生場所のヒントは、主人公が殆ど指示してくれるので、プレイヤーはその場所に行けばいい。実は、「No Reality」という作品は、これを繰り返すだけの展開しかない。推理要素が全くなく、時間も流れているらしいのだが、背景が同じなのでどのくらい時間が流れているのか分からない。
主人公は淡々と捜査を進めていき、登場人物が一通り出揃うと、検死官の検視報告と登場人物の経歴から考えて、犯人はほぼ一人に限定されてしまう。そして、その犯人が事件を起こす真相となったバックボーンが露出されるが、物語は最後までそこへは踏み込まない。色々あって犯人が捕まって、物語はそこで終わってしまう。市長の正体とか過去の犯罪とかは完全に放置。
登場人物としても、リョウコがいる意義が良く分からないままで終わった。Hシーンもなく、物語に介入することもなく、ただ猫を探しただけだった彼女は、物語が言いたかったこと――おそらく、犯人の犯行動機となった母親の愛情の誤りを否定して退けている……暗喩であることは分かるのだが、だからといって、全く関係してこないとはキャラの浪費と言っても良いだろう。
「プレイヤーの想像力を掻き立てるようなゲームをリリースしていきたい」と、かつてUNKNOWNの制作陣は、OHPに掲げた。「グラフィック重視になるのは当然として力を注いでいますが、それ以上に演出や雰囲気(空気感)に力を入れています。」とも。確かに硬質な雰囲気は、良質なBGMと相まって、この作品をエロゲーとしては異質なモノに仕上げている。シナリオ的な難点を上記に挙げたが、全体として流れは掴めるし、犯人の動機も追いつめていく主人公も、ストーリーとしては不自然な点は何もない。ただ、このメーカーの次作「ABANDONER」でも挙げたように、ゲームで映えるシナリオと、映像的に魅せるシナリオとは、一見似ているようで全く違う。映像としての映画やアニメーションと違い、ゲームテキストは、物語上で切り捨てている部分がよく目に付く。制作者が伝えたいことをキチンとテキストで表現しないと、それは不完全な物語となってしまうのである。
「想像力を掻き立てる」メーカーとして掲げた“理想”はそれで良い。だが、何も知らないユーザーの“現実”を彼等は理解していない。「No Reality」でやったミスを「ABANDONER」で繰り返してしまったから、また彼等は休止する羽目になってしまったのだろうか。ここまで雰囲気だけで惹かれる作品を作れたメーカーは少ないだけに、その現状には惜しいという気持ちがある。