分析すればするほど、よく出来ている作品
バグなし、延期なしの時点で高評価。
それでいて内容はものすごく高級感と清潔感があり、洗練されている。
各ヒロイン達が無条件に主人公を好きになる流れはエロゲーあるあるだが、この作品にはちゃんと理由があって、それが伏線になっていた。
また、エッチシーン中のヒロインの淫語や堕落なども、ギフトの狂気性を遠まわしに表現しているかのよう。
上記のような従来のエロゲーで当然のように許容されていた要素を、本作ではしっかり理由付けし、伏線化させている。それが見事。
18禁でしか表現出来ない作品という意味ではまさしくその通り。
むしろ18禁である事を逆手にとって、その特性を十分に活かしているという意味では相当珍しい作品であり、エロゲー好きであればその設定それ自体に高評価を与えたくなる。
シナリオ・テキストの評価は「しっかり読み込めばよく練られている事がわかる」ので、きちんと丁寧に熟読したユーザーは評価高めになるだろうし、スキップしたり読み飛ばしたりしていたユーザーは低評価になるだろう。
考察にかんしてもそのユーザーの洞察力や発想力に比例するだろうから、「それほど難易度の高い考察は要求されてない」という人間と「なにこのゲーム、考察強要し過ぎ!不親切!」という人間に分かれるだろうか。
要するに人それぞれではあるが、スキップしたり適当に読んだりしたら絶対に物語の核心や重要な展開を理解出来ないと思う。それで低評価と判断してしまうのは早計かと。
特にエッチシーン内に重要なキーワードが散りばめられているので、エッチシーンをスキップなどで飛ばすタイプの人は要注意。(ライターの別作品『駄作』もエッチシーンに伏線などが張られていた)
那由太は思えば幼少期に事故に遭い家族を失い孤独となり、事故の後遺症で不自由な身体となり、さらには重度の精神病も患ってしまった悲運の主人公。
そんな彼の人生に人間らしい生活が待っているわけもなく、EdEnでの擬似学園生活なんかで幸せを感じているというくらい、傍から見たら痛々しい日常を送っている。
そんな中で出会った少女と恋愛し、ひょんなことから自分の手でその少女を殺めてしまい、罪の意識によって自分を苦しめるためにログワールドに入っていく。
そして最終的なケジメの手段として、自決を選ぶ。
救いが無さ過ぎる。彼の人生の不幸は別に彼の自己責任でそうなってしまったわけではなく、ほぼ全て外的なものが原因だ。主人公があまりにも不憫過ぎる。
一方で樺音も、母への寂しさや那由太への愛情が原因で、事件に巻き込まれてしまった。
そんな那由太と樺音のラストシーンでのやり取り。
死を決意する那由太に、当然悲しそうな顔をする樺音。
しかし一方で樺音も生前は自分の死をもって主人公のギフトを除去しようとした。
つまり那由太も樺音も、自分の命を自分の意志で結末付けており、そこに恋人の制止は届かない。
『恋人のため』と言いつつ、その恋人が全く望んでいない死を選ぶ。
そういう意味で二人ともものすごくエゴであり、『相手を想う気持ち』の表現方法が『死』という特殊な手法しか選べない不器用さは同ライターの『駄作』の化け物達とよく似ている。
そんな那由太・樺音の死生観や、『相手を想う気持ち』という甘い響きに裏付けられた価値観などは、あまりにも一般人のそれからかけ離れており、そういう意味で18禁作品なのかなと思う。
つまり、『自分だったらこういう結末は選ばない。もっと別の解決方法を考える。だから那由太は愚かだ。樺音はバカだ。』という自身の価値観に従って結論付ける子供じみた感想を、毅然とした態度で片っ端から相手にせず、『それでも那由太と樺音はこの結末を選んだ』と堂々と言い切るような制作側の清々しい意志みたいなものすら感じたのだ。
エロゲーユーザーの中にはナイーブなプレイヤーも多く、そのためメーカーがなんとかユーザーのご機嫌取りのために安牌ばかり並べてすり寄る昨今、ここまではっきりと作り手側の強い意志を感じた作品は久々だったように思う。
強いて欠点を挙げるとすれば、
「各キャラの立ち絵にポーズ差分が無い」(←まあキャラ数多いから仕方ないか)
「天美・猶猶の私服が本編で登場しない」(←同上)
「ギャラリー内のCGやエッチシーンに%表示が無いので達成率が把握できない」
などがあげられるが、それらは『いい作品だったからこそ、ユーザー側に欲が出てしまう』という感じ。どれも快適にプレイする上で必須ではないレベル。