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比翼れんりさんの人気声優のつくりかたの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
人気声優のつくりかた
ブランド
MintCUBE
得点
77
参照数
550

一言コメント

さあ両手で掴みにいこう 憧れはきらきらと胸を刺激する まだまだ遠いけど

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

MintCUBEの2作目。前作とはまったく方向性が違いますね。ジャンル問わずCUBEではできない毛色の違う作品を出すのかな。


今作は、声優という、ゲーマーにとって近いようで遠いお仕事を、78%の真実度で描いてる………みたいです。確かに、なるほどそんな気がする、といった場面や漠然としてた情景がはっきりしたように思います。わりと露骨な業界を見せるのも端々にありますが、どこまでがリアルなのかは、まあ想像の世界ということで。

メインヒロインは3人と少なく、ボリュームも決して多いわけではないですが、声優の演技をする声優という、難しいキャスティングに決して負けることない、実力者が集まった感じです。

遥そらさん演じるいつみは、演技は出来るが突き抜ける何かがなく、仕事になかなか恵まれないタイプ。上手く自分の利点を見せられなかったり、吹っ切れるきっかけがなかったり、これは声優に限らずわりとありますよね。そこで、小夏という彗星が現れ、それに呼応するかのようにひっそりと消えていく存在になりかけます。が、そこを主人公が支えながら、ポコティンで確固たる地位を築き上げていく、というのが大まかな流れでしょうか。この主人公、あまりでしゃばりすぎず、ほんの小さなアシストをするだけで、基本的にはヒロインの持っていない力を自ら引き出すようにするわけで、かなり好感が持てますね。件のポコティンは、さすが遥そらさん(笑) といった感じです。

人気声優のくるしールートは、これも人気者に有りがちなお話ですね。同じ声、同じような役というのは、どうも声優のイメージとして根付いてしまうものです。それを乗り切る、新しい自分の持ち味を出していくのは、なかなか大変なことで、いいイメージ転換になればいいですが、上手くいかないこともあるわけで。自分に悩むくるしーの、そのあたりを、こちらもヒロイン中心に描かれていたのはよかったですね。加えて、自分に納得する演技をすることを言えるようになり、成長度合いなら3人の中で一番かもしれません。
ちょっと本筋ではないですが、cvは奏雨さんで、こういうおとなしめの包み込むヒロインという、やっぱりイメージがありますが、最近では、こんなヒロインもできるんだ、と思わせてくれることも多く、シナリオを進めながら、自然とリンクしてしまいました。

作中では、大人の事情なんかも見え隠れする、担ぎ上げられた新人声優として、対比がなされる小夏。他2ルートでは、仕事を無難にこなし、ライバルのような立ち位置で描かれもしますが、小夏の個別ルートでは、やはり直面する壁がメインです。こういうような売り方ならば、当然あるであろう、乗り越えるべき山がストーリーの中心で、先輩声優との絡みも、きっとあるのだろうと、思わせぶりなところがあります。まあ結局先輩声優はあまり対比にはならなかったようだけどね。山といえば、これも付き物の兄妹の壁。こっちは、親含めてまわりがあっさり認めたので、確かにキャラゲーとしてはいいのかな。兄妹もののお約束みたいなところはありますが。妹くすはらゆいさんもお約束。
さて、このルートで特筆すべきは、声優という仕事は"表"に出るものだけではない、ということ。アニメやゲームなど触れる機会の多いものばかりが、声優の仕事場ではなく、確かにナレーションやアナウンスをはじめ、声にまつわる仕事は数多ありますね。大も小も問わず、何もないところに"色"を付ける、当たり前すぎて気付かない場面で輝く"声"の仕事があるんだ、と教えてくれるメッセージ性のある結び方でした。


想像以上に、テーマや中味があり、それでいてポップで入り込みやすい、CUFFS系列の今までの持ち味と、経験則からのテーマ選択と構成、ストーリー配分が上手くハマったように思います。過大に評価されるものではないかもしれませんが、目立たないけれど光るという、そもそもの作品趣旨に帰結した、個人的には快作と感じます。