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健忘症seさんのルリのかさね ~いもうと物語り~の長文感想

ユーザー
健忘症se
ゲーム
ルリのかさね ~いもうと物語り~
ブランド
ねこねこソフト
得点
90
参照数
1576

一言コメント

中編というにはやや物足りない、大短編というべき構造だが、一つの話を読み切らせる筆力は確かであって、読後感はとても快い。「かさね」というタイトルには複数の意味が込めてあり、「ラムネ2」ではいまいち「そらいろ」もどき感が抜けなかったが、今回は見事な『量子力学』採用シナリオとしての完成度も高かった。 緒乃ワサビ氏、範乃秋晴氏、砥石大樹氏(他多数)らが精力的に挑んでいるジャンルだが、片岡氏が第三世代一番乗りといった印象を受ける。同人作家竜騎士07氏もこのくらい器用だったら、周囲から誤解されずに済んだろうに…。苦笑しかできない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

------ 閲覧者様の参考までに ------

量子論採用作品のネタ元である洋画「バタフライエフェクト」に前後して作品公開したのが、
すかぢ氏、西川氏、竜騎士07氏です。15年近く過ぎた今になって、殊更爆発的に採用タイトルが
増えるのは不自然であり、それには切っ掛けがあったと考えられます。
時期を追っていくと近辺の採用タイトルに「トライアンソロジー」が存在しており、ライターである3人が、
何らかの形で量子力学採用シナリオの啓蒙活動染みた行動を取ったのでは? と考えられたのです。
何故なら、該当作品で書かれた田中ロミヲ氏、都乃河勇人氏双方のシナリオも、「うみねこのなく頃に」
と全く同じ量子力学ギミックを用いて書かれていたため。
これに前後するように、同ギミックを用いたエロゲが加速度的に増え始めました。
片岡氏はこのグループ(私的呼称第三世代)の中でも、特に行動が早かったライターさんの1人です。

量子力学採用シナリオの間口が狭い理由は、ただ笑い、泣くためだけにゲームをプレイすることの
方が本来王道であるからです。或いは、「エセ科学」などの逃避表現を用いて、自尊心保持に走る
一部ユーザーの存在など。本編で「量子力学」という言葉が使用されず、緒乃ワサビ氏が自作内にて
「強くてコンティニュー」などと茶化した表現を用いたのは、こういったユーザーへの対策です。
御本人自身が「強くてコンティニュー」=正史だと発言してますから。が、昨今のライター諸氏がなさん
としていることは、3D表現やバイノーラルに匹敵するシナリオ分野における技術的特異点。
それだけです。ユーザーに喧嘩を売ってるわけではありません。

本来「ニュートンと林檎の樹」「景の海のアペイリア」等でやるはずだったことが、このタイトルに
なったのは、この作品における「最適化」が、別格の出来と考えたため。片岡氏に感謝します。

以降はあくまで、個人の考察結果であることを御了承ください。


●量子力学を採用した作品「一例」

第一世代
「終の空」→「素晴らしき日々」
「シンフォニック=レイン」→「ディア=ピアニッシモ」
「ひぐらしのなく頃に」→「うみねこのなく頃に」

第二世代
「いろとりどりのセカイ」
「カルマルカ・サークル」→「フローラル・フローラブ」
「紙の上の魔法使い」→「水葬銀貨のイストリア」
「シュタインズゲート0」

第三世代
「ラムネ2」→ 本作
「千の刃濤、桃花染の皇姫」
「空のつくりかた」
「神頼みしすぎて俺の未来がヤバい。」
「ニュートンと林檎の樹」
「景の海のアペイリア」

※すみっこソフト? 知らない子ですねぇ。
ごめなさい。一作もやったことないので、わからん。

おまけ
「ライフイズストレンジ」
「ニューダンガンロンパV3」
「ドラゴンクエスト11」

ちなみに、片岡氏がどれだけ器用かといえば、竜騎士07氏が10年
近く掛けて、何冊も小冊子でフォローし続け、アニメDVDのパッケ
に、冗談っぽく見せ掛けた真相ネタを敢行、公式格闘ゲームの紹介
ページで主要な犯人をネタバレするといった、健気な苦労の数々が、
「ルリのかさね」一作で超えられてしまった程度に器用。

「アニメ2期制作委員会爆誕」だの「殺人扇風機」などではなく、
竜騎士氏には、こういうのを書いてほしかった。手法採用そのものは、
彼の方が先達だったので、猶更残念だ。

なお、量子力学そのものは「景の海のアペイリア」で詳細に説明
されているので、そちらを参考にされたし。重要なのは、

量子力学という原理ではなく、
『景の海のアペイリア「自体」が量子力学で書かれていた』こと。
つまり、ユーザーが見ている物語は、そのほとんどが、
「波動を欠いた位相ずれした粒子だけ」である点をこそ、注意すべき。



●本作と量子力学の接点

柚子希佑咲の本質:
・「YURA」は「RURI」を「五十音表記」「読み」で一文字ずらしただけ
※名前ネタは「ニュートンと林檎の樹」でも採用されている
・両親との死別後、養子縁組された初駒ルリのバタフライエフェクト
※ルリの黒髪&貧乳の反転因果で金髪&巨乳化
・親に世話を掛けてると、遠慮がちな性格になる業を継承
・無理して家業を手伝う業を、同じく継承
・ルリ同様持病らしきものを持っているので、疲れやすく、居眠りしがちになる
・距離が近過ぎて想い人に、想いを伝えることができない

ルート最後で結ばれるのは、RURI/RURIルートの
2つの結末を「重ね」合わせただけである

菊正宗依知子の本質:
・髪、瞳の色がどちらも「瑠璃色」。ただし、反転因果で『紫掛かった「赤」』
※髪、瞳の色ネタは「紙の上の魔法使い」でも採用されている
・両親との死別後、施設に引き取られた初駒ルリのバタフライエフェクト
・金にがめついのは『夢』のため
「金さえあれば、施設に引き取られ、離れ離れになることもなかった」
「金さえあれば、遠慮することなく、早期高度医療の恩恵を得られた」
・バイト理由は豊富な人生経験だったが、これは神社以外に、自分の居場所が
無かった初駒ルリ(RURIルート)の反転因果

ルート内で結ばれた後、別れを切り出すのは、
RURIルートの見立てを変化させただけのもの


●攻略推奨順
(RURI/RURI→佑咲)→(依知子→RURI)

理由:
RURIルート以外、どのルートでも共通ルートの「転落」
とルリの末路=「死」の「量子」回収がされていないから

RURIルート『のみ』の限定要素
『「健志の方から」想いを伝え、結ばれる』があるために、

『他ルートの後日談においては、RURIルートとは正反対に、
「健志の方が」事故「死」しているため、恋人になった先にある
「未来が描かれなかった」可能性が極めて高い』と予想される
懸念があるため。ただし、佑咲ルートのみ、彼女自身の病死の
伏線も張られている模様。

これは、一般に「摂理の修復作用」と呼ばれる現象になる。
ライフイズストレンジの故郷を襲った災害などだ。
あれは、主人公マキシーンが「ボルテクス(渦巻)クラブ」
という連中から、多数の死者と破壊がもたらされる運命を
回避したために起きた、「摂理の修復作用」になる。
故にサイクロン(竜巻)によって、多数の死者と破壊が
故郷にもたらされた訳だ。「同じ結果を作るため」に。

同様に、この物語が「かさね」である以上、どこかで
RURIルートの悲劇「2人の死別」もまた、他ルート上でも
反映されるであろうことに留意する必要がある。
健志とルリ(バタフライエフェクトである佑咲と依知子含む)
が深く愛し合っているほど、それは強固な「運命」になって
しまう。他作では、この運命への収束を「世界線」と呼ぶ。


無論、そのように考えなくてもいい。
だって、「直接描かれてはいないのだから」。

「シンフォニック=レイン」のように、「なんとなくいい話」
であってもいい。もっとも、愛蔵版の特典で、全く報いの無い
悲劇だとバラされてしまったけれどね。
「感の良過ぎるナントカは嫌いだよ」って奴です。

が、量子力学をゲームに取り込むだけで、どれだけ
等量のシナリオから、解釈の引き出しを増やせるか、
楽しむことができるか、その一端は御理解頂けたと思う。

「景の海のアペイリア」は、このシンギュラリティを起こす
べくして書かれたし、「ニュートンと林檎の樹」は、先人達
への感謝の念を絶やさない作品だった。


が、まさかこんな所に伏兵がいたとは思わなかった。

正直「ラムネ2」は「下手くそ(な量子力学の使い方)だな~」
と思ってました。普通に、片岡舐めプし過ぎだと。

片岡とも氏、どうもすんませんでした。

そして、胸の空くような良作をありがとう。



PS/
ヒロインに好意的な選択肢を選んだのに、
「いたずらなステップ」を流すのはやめてください。

「うわ、ぽんこつのテーマだ」と疑います。

選択失敗したと思い、普通に即ロードしましたよ。