ErogameScape -エロゲー批評空間-

カラスさんのClear -クリア-の長文感想

ユーザー
カラス
ゲーム
Clear -クリア-
ブランド
MOONSTONE
得点
100
参照数
2531

一言コメント

驚異の俺ゲー。主人公が俺です。かつてこれほどまでに、主人公が俺であった物語があっただろうか?いや、無い!(反語)心理描写リアル過ぎます!あまりにも身につまされるというか、あまりにも主人公の心地がわかってしまうというか、そんな俺は正真正銘のダメ人間。俺が今まで享受してきた物語の中で、最も俺度が高い作品。俺だよ!これは俺なんだよ!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 #主人公が俺##俺です、まさに俺です。
 #キモメン文学##致命的なまでに心が欠けている主人公

心が欠けているということ。
それは決して狂気ではない。
そして、病気というのでもない。
心が欠けているということは、当然のことが当然として受け止められない、
当たり前のことがわからないということだ。
だからそれは、壊れているといってもいい。
欠けている・壊れているということと、
狂っている・病んでいるということとの間には、
深い溝が存在する。
それらは決して同じではない。
ある意味、狂っている・病んでいるという事のほうがよほど健全だろう。
なぜならそれはとても人間的だからだ。
日常の論理を突き詰めたある種の過剰さが狂気だとするならば、
それは了解可能なものだ。
ただ、少しばかり、はみ出しているだけ。
それは常人にとって、理解可能なものだろう。
しかし、最初から、欠けている人間の場合、
そもそもの日常的論理そのものが欠けているのだから、
これはとても理解しにくいもの、理解しがたいもの。
理解するということが、自らの心の内にある感覚・論理を延長するということならば、
最初から、すっぽり抜け落ちている人間を理解するのはとても難しい。
そして、その心の空虚な人間にとって、常人を理解するということも、やっぱり難しい。
欠けている人間には当然のことがわからない、だから彼は、世間との間に透明な壁を感じる。
触れることの出来ない、決して目に見えないClearな壁、しかしそれは確かに存在する。

この物語の主人公には文字通り本当に、心が無い。
それは決して比喩でもなく例えでもなく文字通りの意味だ。
心が無いから、普通のことがわからない。
人間らしさが無いから、優しさが欠如しているから、人の振る舞いが理解できない。
だからできる事は振りをすること、人間の振りをすること、擬態すること。
世間様における不文のルールを必死で勉強して、その通りに振舞う。
エロゲの主人公ときたら、大抵の場合、鈍感さがデフォルトになっている。
周囲の美少女キャラにモテモテであったとしても、何故かそれに気づかない主人公…。
この作品における主人公もまた、例によって例のごとく、鈍感ではある。
しかし、その鈍感さは、ある種の極端さをはらんでいる。
そもそもの前提として、人間的感覚そのものがわからないからこそ、鈍感にならざるを得ない、そんな主人公。
エロゲのお約束的設定を極端にすると、こんな風になる。

そしてそれは、何も主人公だけに限った話ではない。
天真爛漫さが過ぎて、傷つく事さえできなくなってしまった女の子だとか…、
いつも前向きで明るいけれど、その前向きさは心の空虚さで支えられていたり…。
まあ、とはいっても、読み手の心をえぐるような意地悪な展開・意地悪な描写があるというわけではない、けっして。
ただ、心を無くした主人公行野光一、
彼に関して言えば、かなり好みが分かれるのではないだろうか?
多分、不愉快に思う人間は多いだろう。
そしてそれは仕方の無いことだ。
なぜなら、それこそがまっとうな感覚だからだ。
この主人公に共感する人間はどれくらいいるだろうか?
いや、共感せずともよい、
ただ………、
「ったく、しょうがねえな、こいつはwww」
と、せめてこんな風に思ってくれたのならば幸いなのだが………。



ああっ、それにしてもだ。
ああああああっ、どうしてこんな風に似てるんでしょうねぇ、この男は。
誰と似ているかといえば、かくいう俺だ。
俺だよ、俺!
いや本当にびっくりした。
ここまで、俺をリアルに描いた作品が、この世に存在しているなんてね。
まあ、全部が全部というわけではないけれど、
八割方は俺かな?
まあ要するに、ほぼ俺ということだ。
もうね、終始、あるあるwwwとか思いながら読み進めましたよ。
いちいち主人公の感覚がわかってしまうというのは、
多分ちょっと異常なことなんだろうね。
まあ、前々から、なんか変だなおかしいなという、
世間一般に対するちょっとした違和感を抱いてはいたんだけどね。
いわゆるClearな壁ね、
俺も幾度か感じたよ、うん。
やっぱりあるんだな、透明な壁というやつ、
大げさな言い方をすれば、自分が異邦人なんじゃないかという、感覚。
今までは漠然とした「感じ」、だったけれども、
この作品のおかげで俺は分かったよ、悟ったよ。
俺がポンコツだってことがな。
まあ、自覚がないより自覚があるほうがマシだよね、
もちろん、自覚があるからといって俺がポンコツである事実に変わりはないんだがなwwwww


自分がポンコツだと分かっている人は、際限のない無限脳内ツッコミを呼び起こす。
このゲームだと、序盤の、丘で一人へこんでるとひながやってくるところ、アレね。

俺は悲しむべきときに悲しめない、それが悲しい。

いや、でも、そもそも俺ってば心が無いんだから、悲しめないじゃんwww

とか考えてるダメな俺、ホントに俺ってばどうしようもない、それが悲しい。

とかそんなこと考えているけれど、それ自体俺の俺自身に対する振りであるかもわからず、俺ってばホントに心が傷ついているのかしら、あっ、そもそも心が無かったんだっけwww

って、そんなことしか思いつかない俺ってばやっぱりポンコツ品。まっとうな人間ならそんな事は考えつかないはず。ああ、悲しい。

いやだから、そもそも俺には心が(以下略)

ああっ、ああああああああっ!
てなっもんで、際限なく脳内ツッコミを繰り返しているうちに、自分自身の感情がわからなくなる。
理解できなくなる。
えっーと、俺ってば、今どんな風に何を想っているんだっけっと。
心の空虚さを、脳内ツッコミで充填しているわけです。
確かこんな台詞がありました。
「嘲笑なしには真実を語れない。俺はそうなってしまいました。」と。
いや、まさにその通り、俺のことです。俺自身のことです。
第三者的視線が、常に、背後霊のように、自身の言動に付き纏って離れない。
だから、俺は、俺のことを、俺自身のことを、誠実さを持って語ることは出来ない。
………
……

なーんて言って、全部嘘だよーん!
とかいうことをつい言いたくなってしまうわけ、あっ、一応言っておくと嘘ではありません。
ま、この脳内ツッコミ地獄に関しては、わりあい現代的なテーマなので、共感する人も結構いるかも?
ラノベのあとがきとか作者紹介とか、完全にそういう世界だからね。


といってもまあ、俺がアレな人であることにはかわりはない。
主人公のアレっぷりもかなりアレだが、
俺自身のアレっぷりもかなりアレだ。
例えば主人公には、道端の犬の死体がただの生ごみにしか見えない。
なるほど確かに俺は、犬の死体を生ごみとおもっているわけではない、
しかし、それは本当にそうだろうか?
あくまで、論理的に、思考して、生ごみではないと思っているだけではないだろうか?
それはこういうことだ。
優しさというものは結局、類推することしか出来ない。
そしてそれは、人の心というものは、結局類推する事しかできないということと、同じだ。
例えば本編にこんな描写があったはず、
ヒロインから優しいと言われた主人公が、半ばやけくそになって、
俺ってば客観的に優しいと認定された、よりにもよってこの俺が、と、
自虐的な喜び方をするシーンが。
この場合主人公は優しい人なのか?
もし、人の心が、上辺からだけしか判断できないならば、
この場合、主人公は優しい人となるであろう。
つまりは、他者に心なんてあるかどうかなんてわかりゃせんのですから、
とりあえず、優しい身振りをしているのならば、
それは優しい人なのだ、優しい人と判断しなければならないのだ。
もし、こういう考え方に立つならば、それは救いともなる。
心の無い人間が、心の欠けた人間が、
この世界で生きるために、優しい人になろうと努力するならば、
それはそれ自体、とても優しいことなのだ。
とても優しい行為なのだ。
そう言ってしまっても、構わないと思う。
だから希望を持つことは出来る。
たぶん俺は、きっと、この先二次元的イベントに遭遇することはないだろう。
壊れた心は壊れたまま、欠けた心は欠けたまま。
そんな都合のいい話がありますか~、ということだ。
そんなエロゲのハッピーエンドみたいなこと、この現実で、三次元世界でありますか~、ということだ。
きっと、俺の心は壊れたまま、欠けたまま。
けれど、そんな低体温野郎であっても、
何と!優しい身振りをすることは出来るのだ。
これってば、すごい大発見。
優しさのカケラのない人間であっても、優しい振りをすることが出来る…、
と、言うことはつまりは、優しい人になることが出来るということ。
ええ~、うそーん、それってばただの偽善、ダメにダメを上塗りしているだけじゃん、とか思ったそこの人!
そう、それはその通り。
でもね、そもそも他人に心があるかどうかなんてわかりゃしないんですから、
世の中のコミュニケーションってば、身振り手振りに言葉しかありゃしない…。
脳と脳を直接繋ぐことなんて、できゃしないんですから。
ね、そうでしょ?
ってか、そうとでも考えなきゃ、やってらんね~。
だってこの作品には、めでたしめでたししかないんだもん。
俺が個人的に不満なのは、主人公が、心の欠けたまま生きていくという、終わり方がないこと。
つまりはどういうことかというと、この先、俺がどう生きていくかということだ。
え、答は自分で見つけろってことですか?、そうですか。



主人公のことを理解できる奴は俺だけでいいwwwww