渾身の作品ということになろうか。上質なキャラゲーの見本。ただ飽きの来ない作りはかえってプレイヤーを面倒にさせる。中途半端なエロプレイとかで純粋さをなくさないのが好感度高い。ただ女の子がやや純情すぎてて浮世離れ。ありふれた話題を丁寧に描写することで個性が出てきている。非常に正統的な作品で、キャラとの微妙な距離感にやきもきするような雰囲気を楽しめればいいかな。でも主人公モテモテ過ぎんだろ。ザッピング視点見てて思うがなんでヒロインはあそこまで主人公にぞっこんなのさ。確かにこの行動力は素晴らしいと思うが。あとすみれと夕花の三角関係に言及なさすぎだがいいんだろうか。
昼の暑さはいまだに残るが、日の暮れがだいぶ早くなった秋。
いつものように隣にはあいつがいる。優しすぎて、当たり前すぎて、それに甘えたくなくって逃げてばかりいた。いつでもそばにいた。いつでもそばにいてくれた。
自分が情けない。彼女に甘える自分が、彼女に素直になれない自分が。
俺が何も言わないから、ますます優しく接してくる。それを拒めずに、つい流されてしまう。
あいつのいない生活…そんなものは想像できない。
夕暮れ越しに見る顔はよくわからない。きっといつもの優しい顔をしているはずだ。胸が疼痛を訴える。
いつから、なんだろうな。いつもごまかしてばかりいて、見て見ぬふりをしてた。その気持ちが芽生えたのはもう覚えてないころからなんだろう。いつの間にか…これほどふさわしい表現はない。
でも、いつまでもこのままいられるはずがない。俺たちはやがて、大人になっていく。
巣立っていく鳥は、本来違う道へ旅立っていく。めいめいが己の住処を作り、せわしく日々を勤しむ。
ふとした朝の出来事で、あいつのことを意識するようになった。
いつもなら他の誰かと一緒に登校するのに、なぜかこの日は二人だけ。
もしかしたら、今しかないかもしれない。めぐりあわせとはこういうものなんだろう。
幼馴染の恋人ごっこは、もう、やめよう。
秋風があいつの髪を揺らしている。ありふれた朝の通学路。こんな時に切り出すのは少しぎこちなかったかもしれない。
けれど、わかっているのだろう。いつも二人でいたから、話すときの息遣いだけで感づいているはずだ。
だから、これは半分儀式のようなものなんだ。落ち着いて済ませばいい、ただの確認の延長だ。けれど、どうしても声が上ずってしまう。
たどたどしくも、俺は夕花に告白した。
そして彼女が差し出した手をつないで、俺たちは恋人になった。
今までと変わらない日常。あいつの顔を目にするだけで安らぐ。あいつの声を耳にするだけで落ち着く。
食卓を囲む優しい空気。通学中の穏やかな足音。授業中の慌ただしいペンの音。たまに見せる心地よさそうな寝顔。
一緒にいるのは、普通であって、普通でない。クラスメイト、幼馴染…いつでもあいつは近くにいた。こんなに近くにいたから、普通であるという幸せを見失っていた。
俺は、馬鹿なんだろうか。簡単なことに気づいていなかった。
こいつが、こんなにも可愛いことが。
サルのように下劣かもしれないが、彼女のすべてが愛しくて、もっと距離を縮めたくなる。
そしてタガが外れたように二人でどこまでも睦みあう。
二人きり、というのは特別だ。
今までは友達の一人。今では誰にも代えがたい伴侶。
けれど、友達だったころから、きっとお前に恋してた。
一度、行ってみたい場所があった。子供時代の思い出。林の中の秘密基地。
子供時代の俺は、お前にひどいことばかりしてた気がする。秘密基地に一人残した、なんてのはいくらなんでもやりすぎた。
その時、迷子になって帰れなかったんだけど、髪飾りのおかげで見つけることができた。
残念ながら、その髪飾りは壊れてしまった。だから改めて俺は髪飾りをあげた。初めてあげたプレゼント、それは迷子の日に壊れた髪飾りの代役。お前はそれを今でも大切にしている。彼女にとっての思い出のかけら。その髪飾りがあのころを覚えていてくれる。
振り返れば思い出はたくさんある。けれども、まだまだ足りない。望みは尽きることがない。
この幸福の、永遠を祈りたい。
だから、結婚しよう。
月明かりのもと身を寄せ合う二人。触れ合う指先が気持ちを通わせ、胸の鼓動が共鳴し合い、心が一つになっていく。
ゆえにメルティモーメント。ふう、こんなことを書いてると、「結婚しよう!」「してるわよ。」「…イエス!」というミセスロイドのCMを思い出してしまうが、非常に純情な物語だったんじゃないでしょうか。サブキャラも千恵美(2年)、由愛(1年)、鏡水(3年)は攻略可能になっていて、五十鈴先生は不可能。上の記述は夕花の話をまとめたものですが、特に彼女の話だけ重視されているわけではなく、全ヒロインほぼ同列の扱い。ただらっこセンセの引退試合とのことで、フォーカスさせていただいた次第です。
老舗(と言っていいですよね)のHOOKは一応の集大成ということでしょうか、様々なシステムを取り入れて臨場感を出しながら、プレイヤーが主人公となって好感度高いヒロインとのいちゃいちゃ生活が楽しめる。クサい、キザったらしいようなことをするのはかっこ悪いとか言って中途半端に雰囲気を茶化すゲームも多い中、終始本気モードでムードを保っている。これは大事なことだと思う。そりゃキザなのかもしれないが、女の子が喜んでくれるんなら多少の演出は認められるでしょうに。むしろそれはエチケットだと思うんだが。
大雑把な話で申し訳ないが、一つ一つのイベントに対して、細かい描写がなされているように感じられた。何度も描写しているからそのたびに細かくなったのだろうか、文化祭、部活動、生徒会、お茶会。作品によってはちょっと変わった部活動、ちょっと変わった文化祭など、二次元という非現実性を手掛かりに個性を与えたイベントを配置させるという手法もあるのだが、そういう奇をてらった作戦は全く見られない。
テキストの良さは、しっかりとぶれない視点にもあるのか。コメディと称して中途半端なギャグを挟んだ時に、済んだムードが一転して淀んでしまうというケースがよくあるけど、しっかりと拓斗のボケもかわして雰囲気を壊さなかった。これはボケパートとラブラブパートの切り替えのうまさかなあ。だけどガールズトーク(失笑)はなあ。あのシステム微妙すぎですよね。「つかあの先生絶対ヅラだよね」「なんか奥さんにもいじめられてるらしいって」…そういう微妙に暗いトークが基本なんじゃないのか。絶対こんなトークしてないだろ。芸能人のプライベート拝見と同じシステムで、ヤバげなとこは全部カットしてる設計ですよね。白々しいよね。
物語を語るのはテキストのみにあらず、ということはもちろんだけど、シュシュでも書いたように絵のさしはさみからや絵で語る部分、音楽で語る部分もあったんじゃないかと。当然となるのか、夕花の絵が気合入っていて、服のしわの寄り方とか、そのあたりの書き込み具合でより雰囲気が細やかになっていく。下手にパンツを見せたりする「ネタ」っぽい要素はこのゲームでもあるけど、そういうわかりやすいのはあざとく感じられてかえって評価を下げやすい。ベストショットはやはり屋上でのひざを折り曲げて健の頭を撫でているシーンになるか。右手の差し出し方はここまで上手く書くのは大変だったと思うなあ。遠近感も大事になってくるし、制服のよれの具合、それと視線の向け方。ここまで等身高いのによくやるわ。この一枚で、夕花の萌え度はグンとアップする。まあ、制服云々はかなり塗り屋の貢献度も大きいだろうけどね。塗りがいい仕事してるよなこのゲーム。夕花の体がかなりエロくなってるし(笑)。
もう一枚、これもまた客観視点なのであれだが、秘密基地のワンシーンも同じぐらい完成度が高い。夕花の気持ちが全身で良く表れてる。手足をちぢこませ、健に身を寄せて大きくて優しい彼の体を感じ取る。そして少し遠くを眺める視線が過去に思いを馳せて、目を閉じて健ちゃんの温かさを感じつつ、言葉にできない幸せに思わず口をほころばせる。だからパンツ見せんなって無防備すぎだろ。
音楽もまたいい感じで演出ができているが、「探し物が見つかりますように」「ほほえみのひととき」「魅惑のアルピニスト」でほとんど済ませてなかったか。
ほかのキャラの感想はたらいまわしにさせてもらいますごめんなさいすんません。神が降りてこない。声に関してはどういうわけか、夕花の桃井いちごより、すみれの五行なずなのほうが目立っていた気がする。こんななずなボイス初めて聞いたわ。クセのない感じで、いっつもなんか特徴的な演技ばかり見てきたからこれは新鮮というかね…それにしても気合入りすぎ。それと桃井いちごもこんな声だったか?これまた意外な一面がみられて楽しかったが…やっぱりすごい人なんだね。ラブらブライドでの壊れっぷりといいテンション調整絶妙。はっさくあたりで正統的な演技の力は見てるけど、レベル上がってんねえ。同級生二人の威圧感でその他大勢がかすんでいたように思えた今作でした。