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アナトールさんのSuGirly Wishの長文感想

ユーザー
アナトール
ゲーム
SuGirly Wish
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
81
参照数
942

一言コメント

テキストだけでなく、CGの差し入れ方やBGMの立ち位置が良かったり、ボリュームを抑えながらも全体的なクオリティの良さが目立った作品。ただ確実に受け身な人向け。楽しむより癒される目的で買うといいと思う。そして恋愛モノとしては動機が中途半端。なし崩しで恋人になってるようで微妙。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 女の子には秘密がいっぱい。女の子は傷つきやすい。女の子は…(以下略。まあネタ切れなんだけど。)

 けっ、何が「女の子」だよ。男って単純だから困るのよね。そう言ってかよわき乙女をアピールする。「女の子」は特別な存在で、「女子会」なんてまあなんと可愛らしい集なのでしょうね。黙れよ自称女子どもが。自分で「女の子だから…」って言ってるやつは「俺って天才だから…」と言ってるのと大差ねえんだよ。女の子は傷つきやすい?ワレモノ注意?猛犬注意の間違いだろ?ええ加減にせえ。
 ほんとにまあ、刺しても潰しても死なないような奴に限ってぶつぶつ言うのはお約束で、本当に繊細な女の子は黙して語らず損な役回りで、世の中うまくいかないもんだね。男も単純なもんで、女の子には優しくしなきゃと言いつつ、美人にばかり優しくて、結果として女の子と認めた女にだけ優しいというような、無意識下の取捨選択がなされていたりしてね。それで結局上述のような女性主張が生まれだして、まあ…性別関係なく、真面目に生きたら損だよね。(※これはある意味当然のことなのです。理由を説明するとちょっと長くなるので飛ばしました。)

 いきなりおかしな話から始めてしまったけど、ガーリィトークとか聞いて、なんだかそういうどす黒~い想像をしてしまったのは自分だけ?実はこのコンセプトに結構拒絶反応示してました。もっと気楽に構えないとダメだね。本当にとげのない女の子たちの甘い甘い妄想が大爆発。っていうか、お前ら白馬の王子様にあこがれすぎだろ。おそらくはコンセプトに補助するようなフレームとして白馬の王子様を例示したんだろうけど、何もそのまま使わなくても。もうちょっと恋愛の理想にはパターンがあってもいいのでは。まあ、一部除いてガーリィトークとかロマンティックモードは企画倒れのにおいがします。なかったほうがよかったということはないけど、あってもあまり変わらないんじゃ。
 物語の紹介は、しなくてもいいような感じもしますが、主人公とヒロインが恋仲になる話です。ヒロインによって、主人公との関係が異なるので、それによって恋愛までの過程が異なっているのが特徴、かな。当たり前っちゃ当たり前ですが。問題は、恋人同士になるけど、結ばれるところまでは描かれないんですよね。たとえば兄妹の恋愛を描いたひなルートは、いざ結婚しようとなると親にどう説明するのかなんてのが一つの見せどころになりえるんだけど、そういう難しいところははしょってる。ここに不満を抱く人もいりかもしれない。
 しかし、さすがというか、いかにもわかりやすい女の子ではなく、キャラ造りが細かい。いや、造りなんて言ってはいけないと思うんですよね。
 キャラクターは、確かに設定される所から始まります。でもそこにある設定は、その娘を知るための手がかりではないのでしょうか。キャラクターは作り手を起点として生み出されたものなのでしょうか。そうではなく、初めからどこかにいたのだけれど、偶然出会ってしまったような相手であってほしい。(言い換えれば、あるとき脳内にひらめいたとか、そんな感じでしょうか。)その時の印象をつづったものが設定となってそこにある。そういう考えから、作り手はあくまでその娘のことを(実在する人間と同じように)理解しきれていないという前提に則って、探るように描いていってほしいと願ってしまう。はじめから「この娘はツンデレだから」というような、設定ありきで安易に結論付けられたキャラは極めて表面的で面白みがない。会話なんかも機械のようでいちいち読む気にさせないし、何より愛せない。その人間の発言にいささかの真意も感じ取れないんですよ。いや二次元世界の人間(キャラ)にそこまで気を入れることが病的だしキモいのは重々承知しておりますがね。でも、やっぱり愛したいじゃん。愛せるからこそ楽しくなっちゃうんだから。逆に言えば、愛せなければ退屈に感じてしまう。
 と、この話はそのまま胡桃ルートの批判にもつながってしまうのですが。胡桃はあまりにもツンデレ、ドジっ娘をアピールしてすぎててわざとやってるとしか思えなかった。ライターさんは心配性なんですかね。しかし、これは単純に好みに合わなかっただけか。ツンデレっていうとこのぐらいわかりやすいほうが好まれるみたいなんですよね。彼女の話で出ていたように、扱いやすいという印象を与えることが人気の理由になっているとしたなら、この描き方が正解なんでしょうね。(※あるいは、こういう性格が気兼ねせず付き合いやすいということが人気の理由になっているのかも。)胡桃ルートは話のほうも全般的に消化不良。恋人同士になったのに、話題がなくて沈黙するのはおかしくないか。純平といると楽しいって言われてもホントかよって疑ってしまう。でも、主人公が主体的だった点は評価できる。ほかのルートではヘタレすぎてた中でよく健闘したほうかと。
 対照的に良かったなと思えたのは杏奈。確かに不思議系キャラで、描いてるほうもとらえきれなかったように見えるけど、安直に不思議ちゃんであるように見せはしなかった。一見すると常識人には理解できないような行動を起こすものの、それは好奇心旺盛で、常識的な思考から外れるのも出来る限り楽したいから。彼女は主人公の恋人になった後に徹底的に甘えるというのも、そういう性格を考えればごく当然の流れで一般人より極端な部分があるということでね。(要は極度の甘ったれということになるんだけども。)キャラクターを知ってゆこうとして描いていくうちに深みが出てきて魅力的になってゆく。これは杏奈に限ったことではないけど、各々のキャラの口調が気になりますよね。比較的個性があって、特徴的なはずなんですよ。けれどもまったく違和感がなかった。さりげないけど、これは結構すごいなって思う。キャラクターについて捉えていくうちに自然とこういう話し方をする娘だというところに落ち着いた。これとは反対のアプローチをしたのが剛人かと。こういう無口なタイプの人間っていうとどういう背格好で、どういう性格なのかという骨格が出来上がったのではないかなって思う。まああくまで推測だし、意識してやっていることではないでしょう。杏奈の話は、恋愛としてはなんで純平を選んだのかが最後まで微妙だったから、高い評価はできない。でも、あの告白のシーンは良かった。杏奈はいつでも天真爛漫の気分屋で、何についても場当たり的。その彼女が自分の気持ちを一つに固めるということはまずなくて、ましてそれを誰かに伝える機会なんてのはありえないでしょう。
 「あたしさぁ、結構ぶきよ~だから、こんな言い方しかできね~けど」「めーわくならめーわくってさ、言って、い~んだよ?おれーさん怒らないから……泣くかもしれね~けどにゃ~」相手の様子を窺うようなこのセリフは、否定されはしまいかという恐怖が表れてて、可愛く思えるなあ。普段の彼女からは考えられないような卑屈な物言いで、そこには強がってるようで、否定しないでほしいという媚びが含まれている。そこで純平が自分が期待していた以上の返答をしてくれた。あの返答の後の、ホッとしたような、うれしすぎて戸惑っているような杏奈の顔見て、ちょっとほろっと来た。個人的にはここが一番の名シーン。
 話として一番良かったな、と思えたのはひな。彼女に限っては(限られてしまうのが悲しいんだが)ガーリィトークの設定がうまく機能していた。祈りをささげるというのと、人間の内面を告白するガーリィトークの性質がうまく絡まったのだろう。一心に祈り続けるひなを見ちゃうとねえ、心揺れちゃう。あのCGはにくい。彼はいったんはひなを突き放すも押し切られるという流れなんだけど、何とも仕方ない気にもなる。設定がずるいとはいえ、彼女の一途な気持ちがすごく伝わってくるんですよね。雨の中、泉の前で一人泣いてるひなを見て、抱きしめなければ男じゃない。あのシーンも名場面といえるだけの十分な魅力があると思うけど、あんな設定があるなら伏線を入れといてほしかった。主人公はひなの素振りに気づいていなかったから覚えていなかったというのもあるのかもしれないけど、「ひなちゃんってどんな子だったの?」みたいに振られて思い返すぐらいの話は入れられたでしょう。ひなに関しては、個別が終わってから改めてガーリィトークの場面を読み返すと、ひながどういう気持ちで話をしていたのか考えてみるのも面白い。彼女にとってまさにお兄ちゃんは白馬の王子様で。好きで好きでたまらないのに、家族という絆が彼らをとどめる壁となり、愛の背中を眺めているしかない。恋の話をするのはむなしいはずなのに、それでも夢を見続ける。自分が自分であるためにやっているようで、悲しい気もするけど、またそこには家族という絶対にきれない絆があるのも事実で、仮に叶わなくともそれはそれで幸せな気もします。いや、無責任すぎる発言か、これは。
 その愛の話だけど、彼女の純平に対する気持ちは、えっと、なんだったっけ。家族みたいなものだと思っていた。でも、恋というものに関して、一通りの認識はある。「恐いものですから」なんて言ってるし、なんだか知ったふう。そのくせ純ちゃんを異性として見ないんですね。この彼女の考え方が理解できない。なんとか考えてみると、恋愛というものを頭では形式的に分かっているけど、それは待っていればいつかやってくるものだろうということで、ぼんやりと構えていた。純ちゃんは家族みたいなものだから恋愛の対象にはならないというのは、大切だけどときめくことのない存在だってことかな。したがって異性としてみることはない。でも親しい存在だから、ほっぺについたごはんをとってあげたりする。まあ、なくもない…のか。
 彼女の恋愛は、ひなの兄へのラブラブ攻撃によって開かれる。「ずっとずっと純ちゃんの隣にいられる女の子は――たった1人だということに」。待っていればいつかやってくる。これは環境に恵まれた彼女の場合は正解だったのだけれど、いざ恋人になるにはどうしたらいいのか。確かに面白いですね。純ちゃんがいたから、恋に恋する必要がなかった。ときめくこと、恋をすることが彼女の中でどう定義されているのかはわからないですが、彼女は勘違いをしていたのかなって思う。恋をするのもときめくのも突風のように駆け抜けるのではなく、陽だまりみたく気づかないけどいつでもそこにたたずんでいる。「わたしは純ちゃんに……ずっと恋をしていたんですね」。こういう恋のかたちもあるんだね。あるだろうね。鋭い描写だなあ。
 彼女のルートにおいて、注目しておきたいのが会話部分。いわゆる掛け合いというやつですか。テキストの中で会話のウェートが大きいんだけど、このルートだと登場人物が多いからダレないんですよね。個性の多い人間がそれぞれの視点で意見しあうというのは、いとも簡単に描かれているようで気づきにくいけど、結構な技量が要求されるはず。大人数の掛け合いって、たいていは白々しい感じになるけど、こういうところでキャラが細かく理解できているか、描けているかの差が出てきますよね。
 朱音の話は、あまりにも地味。あと朱音の妄想シーンは異様です。女の子は白馬の王子にあこがれるっていう類型を、まんま適用しただけじゃん。彼女の性格からは想像できないなあ。あ、そのギャップがいいってことか。寮長同士という立場で接点があって、いろいろなハプニングがあって、彼女の意外な一面を知って好きになり、彼女は白馬の王子様のような彼に惚れてしまう。朱音の性格も言っちゃ悪いけど地味だし、イベントも地味。キャラが常識人の場合、イベントのほうをある程度派手にしないと映えないようにも思えるな。こういう話のつくりが堅実とか無難ってとらえ方をすればいいとも考えられるし、キャラ自体に人気がありそうだからこれでいいのか。まさに基本。まさに王道。まさに初心者向き。グッとくるシーンがなかったけど、ラストシーンへの流れが良くてね、あそこで思い出を作ってもらおうという流れも身の丈に合っていて共感できる。
 絵はご覧のとおりということで、エッチシーンでね、顔と体のバランスとか立体感覚がおかしいのは若干ながらあったけど、おおむねイメージは伝わるし、綺麗でした。一枚絵でも立ち絵でもそうだけど、体全体で感情が素直な形でわかりやすくあらわれている。そのあたりがヒロインのかわいらしさ美しさを伝えていくのに役立ちました。アングルの定め方が上手いですね。まあ萌えゲーで絵がダメだったらそれだけでおしまいですが。声も実力派ぞろいでね、何ら不満はない。テキストがだいぶ会話を意識してるようなところがあるので、比較的取り組みやすいようにも思えましだが、それを翻すことなく、キャラの心の動きを伝えられている。感情移入もしやすかっただろうしね。胡桃と杏奈に関してはちょっと難しかったかもしれないけど。
 チェックしておきたいのはBGM。物語の世界が非常によくイメージできる感じ。少し聞いた感じだと地味な印象だけど、仄かな感じながらも確実に存在感がある。うまく言えない、というか、言葉で表現できない感触を音によって伝えている。なんというか、人間の感情になぞらえた楽しさや悲しさを表したというよりは、生き物の外に立った、世界から人間を見つめているように思えます。空気となって風となって、登場人物の周りを通り抜けていくよう。ゲームとなると、絵が入ってくるから脇役になりがちだけど、どちらかというとドラマCDなどで用いられるようなメロディですよね。誰もいないがらんとした部屋の様子とか、月がやさしく照らし出している様子とか、そういう背景描写を補う役割がしっかりできている。どちらかっていうとコンシューマのゲームにも近いのかな。映像だけに頼るには限界があった時代は、音楽によって奥行きを表してた部分があったからなあ。
 それで、得点なんですけど、これは難しいですね。相性の問題があって、あまり一般的に参考にはならないでしょう。しかしながら、低得点をつけるわけにはいかない。とりとめのない話の連続がここまで大切に思えるものか、という点において評価したい。告白の瞬間とか、エッチな場面とかに表れた独特の緊迫感は久々に感じた。プレイヤーと同じ目線で親しみやすく物語が進行できています。それは細やかな作りによるものでしょう。(※純愛ものとして微妙といっておきながら、緊迫感があるというのは矛盾するのではないかと指摘されるかもしれないですが、これは雰囲気を演出するCGやBGMも含めて評価しているものですのでご了承願います。)それだけにこれがもし主人公とヒロインが自然な形で好きになっていけたらなって思う。それにこの作品、結局は、ヒロインのラブラブ攻撃に押し切られ、ヘタレ主人公がやむなく了承したような構図だったからね。「俺は、彼女のことが好きだったんだ。」ていうくだりはあるものの、無理やり自分自身に言い聞かせているように見えちゃったな。胡桃ルートで見せたような主体性がもうちょっと見てみたかった。