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たつやさんの東京バベルの長文感想

ユーザー
たつや
ゲーム
東京バベル
ブランド
propeller
得点
80
参照数
508

一言コメント

若干らしくないものを感じるが、それでも東出ワールド全開の作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

聖書やユダヤ教をベースとした世界観で繰り広げられるお話。


他の方々が言っている「熱さが足りない」というのは凄くよくわかる。
天使や悪魔、はたまた神までもが存在している世界における生死観、キャッチコピーにもついている『存在理由』、そして主人公の特殊な生い立ちからくる激情……それらへの描写が密になっていて、戦闘描写におけるいつもの熱さが感じられないのだろう。
”理不尽を、更なる理不尽によって打倒する”――それはいいのだが、その理不尽に振り回される様が結構あっさりとした描写なために、いざ満を持してそれを打倒しても「あ、うん……」なんて感じにしかならなかった。
設定的にも仕方ないのかもしれないけれど、何というか、勝てる状況ではちょい苦戦して勝つ、勝てない状況ではまず反抗の意思が芽生えない、的なことが多かったために、「あらゆる手を尽くしたけれど理不尽に打倒され、それでもなお立ち上がる」みたいなのを期待していた自分にはちょっと物足りない描き方であった。


あと、諸々の所で説明とか描写が飛んでいる気がする。
一番気になったのがサマエル。1週目にラジエルルートをやっているときに、唐突に「サマエルが神災の主犯者と目されている」と言われて、「へ? へ?」と目が点になった。いや、そんなこと初めて聞いたんですが……
次はまあ、ヒロインズのことくらいだろうか。
いや、東出氏の作品にはままあることかもしれないが、何というか、ヒロインが主人公に惚れる経緯がよくわからんというか……
空見はまだいい。過去がない故に始まりからして自分を救ってくれた刹那に惚れるというのは、理屈としてはわかる。
リリスはどうだろう。一応似たもの同士だったとか、触れ合いの場面が描かれていたから、惚れただの言い出した時は唐突なもののまだ納得はできる。

だけどラジエル。君はどうだろうか?
貴方のルートの時と他キャラのルートの時、大して刹那との触れ合い方とか変わってないのに、どうしてそんなに好感度が違うの? ルート補正? ルート補正なの?


そして黒幕盥回しは笑った。

「わ、私が黒幕だったなんて……」「いや、私が黒幕さ」「否、私が黒幕である」「未来は僕らの手の中!」「実は私も一枚噛んでました」「私も暗躍してましたよ?」
「ふははは! 真の黒幕は私である! 私が神だ!」
「あ、じゃあ神様の責任果たしてくださいね?」
「( ゚д゚)   ( ゚д゚ )エッ」

いや、そりゃ複雑な思惑が絡み合った結果だっていうのはよく分かってるんですけどね? けれどこう、一種コメディー的なものを感じずにはいられないというかなんというか。



等々、色々な不満点はあるものの、総じては楽しい時間を提供してくれた作品だったと思います。
練りこまれた設定、ルートごとに敵味方の立ち位置が変わるリアリティ、それらを場面場面で盛り上げてくれる音楽や声。
東出ファンには少々物足りない内容かもしれないけれど、それでも面白い作品だと思うので是非多くの方にプレイしてほしい作品でした。


好きなキャラ:ラジエルまじ天使