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えびさんのリアライズの長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
リアライズ
ブランド
PLAYM
得点
86
参照数
701

一言コメント

絵21+文29+音16+他20 まずは、攻略情報や常識にとらわれず、あなた自身の判断の赴くままに選択肢を選んでみることをお勧めします。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

映像面・・・
キャラ造形に関して言えば、ちょっと独特なものはありますが、十分に及第点オーバ
ーであると思います。立ち絵・時々一枚絵で、頭身のバランスの悪さが気になります
が、造形美として破綻しているわけでもありません。
エゴのデザインが、バラエティーに富んでおり面白い。キャラクターの性格をそのま
ま表すエゴの姿形・機能と、グラフィックがきっちりとリンクしている。
塗りに関しては、バストアップや立ち絵の淡白さに比べ、一枚絵の質感たっぷりな塗
りが印象的。一枚絵は、画面内の色調は統一されており、派手さは少ないが、光の使
い方の巧さなど見所は多い。
リアルタッチな背景も綺麗。立ち絵として表現されるエゴは、無機質な質感の物が多
いが、この背景の上に載るとことで、異質なその存在感が強調されて見事。
綿密なカンファレンス、信頼に基づく阿吽の呼吸などなど、チームとしての仕事の丁
寧さが見える映像作りには、非常に好感を持てる。

シナリオ・・・
プレイ前情報をほとんどいれずにプレイしました。
燃えゲーかと思わされましたが、序盤の亮の立ち居地から、そういうものを目指して
いないなと感じました。
で、徐々に内容が重くなってくるので、鬱ゲーに傾くのかと思いましたが、それも的
外れ。
そういう固定されたカテゴリーに属さない、ニュートラルな作品。
良くも悪くも、淡々とつづられた抑揚のないテキストの効果でしょう。良くも悪くも
というのは、やはり一部のシーンで盛り上がり不足を感じたり、キャラの心情の希薄
さが気になるからです。
しかし、これは、“視点に纏わる作品の仕掛け”の弊害のようですね。ですから、小
説としてならともかく、ゲームという体をしたエンターテイメント作品としては、こ
の“仕掛け”は不要な気がします。
“仕掛け”を捨てて、その場にあったテキストの抑揚を加えた方が、素直に楽しめた
と思います。あるいは事前に“仕掛け”を公開しておくことで、印象も随分と変わっ
たかもしれません。
こういったマニアックな“仕掛け”を用意していながら、意外なことだが、難解なシ
ナリオというイメージはなく、分かりやすいシナリオではないかと思う。
プレーヤーに要求されるのは、知識ではなく、想像力。キャラクターの思考を想像す
ることが必要です。そういう意味で、メインキャラクターの思想に、わずかばかりも
共感する余地がないといった人は、間違いなく楽しめないんではないでしょうか。

では、内容についてちょっと感想を……
八重は数十万人もの人間に、自分のエゴを押し付けるという道を選びました。八重自
身が人の苦痛を背負う代わりに、他人の苦痛は見たくないというエゴ。
私が、彼女のエゴが矛盾している様に感じるのは、たった数十万人にしか影響を与え
られないという部分にありました。
彼女のエゴが効果を発揮した場合、その数十万人はどうなるのでしょうか。修二のよ
うに、植物状態となるのでしょうか、あるいは「死」を迎えてしまうのでしょうか。
どちらにせよ、その範囲外にいる人間にとって、それは恐怖であり悲しみであるはず
です。むしろ、彼女の行為によって、悲しむ人間を増やしてしまう結果になるのでは
ないでしょうか。そこに、彼女のエゴが含む矛盾を感じてしまうのです。
聡明な彼女が、このことを考えなかったとは思えません。それでもそれを実行したの
は、力不足という面もあるでしょうが、実情、よく言われるところの、「自分を形作
る人々」を救うことに重きを置いたからではないでしょうか。
博愛とか慈悲という、美しいものではなく、実に壮大なエゴだと思いました。


作品を通して、一番印象深いのは、公園での蛍と亮の問答の部分。
決して答えのない問答を、延々と続けるシーンでした。その中で、こんな台詞があり
ます。
「あ、いや。でも、エゴにもいいエゴと悪いエゴがあるんじゃないかな?」
……彼/彼女のエゴは、“悪いエゴ”だったのでしょうか。
……八重のエゴは、“良いエゴ”だったのでしょうか。


さて、“仕掛け”のせいで腑に落ちないのが、“選択肢”です。これは誰の選択なの
でしょう。
……亮を始めとする、彼/彼女の選択なのでしょうか。
……八重の選択なのでしょうか。
そして私なりの回答はこうです。
実際に選択するのは、プレーヤーである我々です。
「だから、えーと……。たくさん悩んで、答えを出してから、
         ちゃんと行動すればいいのではないかなー……と」
件の問答の中で、蛍が言っているように、プレーヤーが考えた結果導き出された“正
しい行動”が“選択”であるのだと思います。
ですから、この作品は“プレーヤーのエゴ”によって結果が変わるという見方もでき
るのではないでしょうか。
そうすると、むしろ、“仕掛け”とはこの“選択肢の仕掛け”の為にこそあるのでは
ないかとすら思えてしまうのでした。

音楽/声優・・・
ジャズ・フュージョン・エレクトニカといった、多様な音楽が、この作品のクールな
雰囲気作りを支えているのは、誰の耳にも明らかでしょう。そして、“仕掛け”によ
り必然となってしまったテキストの淡白さを補うかのように、音楽による華を求めた
ように思います。
絵があり、文章があり、音楽がある。エロゲーマーとして、エロゲーを総合芸術とい
うには、肯定的にも否定的にも拒絶を感じるのですが……作品としての総合的なバラ
ンスの取り方が、実に見事な、なかなか他にない作品でした。
それほど、長大なシナリオでもない作品の為、ボイスレスとなったのは残念に思いま
す。ただ、この作品にあって、男声なしという選択肢はないでしょうし、全キャラに
声を当てるには、キャラクターの多さはネックとなったのは理解できます。