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@ajuiceandpieさんのベオグラードメトロの子供たちの長文感想

ユーザー
@ajuiceandpie
ゲーム
ベオグラードメトロの子供たち
ブランド
Summertime
得点
95
参照数
132

一言コメント

映画、小説、アニメ。それぞれ異なる媒体から得たであろうインスピレーションを見事にノベルゲームに落とし込んだ力量に圧巻。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

思春期を煮詰めに煮詰めた厭世的なシナリオをハイセンスなUIデザインと演出が彩る。
車窓のアニメーションなど、細かい部分で挿入される演出が非常に効果的だ。
ジュブナイルとノワールを掛け合わせた空気感も絶妙で、超能力の設定の使い方も巧い。
戦闘シーン(特に後半以降)もスリリングな駆け引きがあって面白かったが、
登場人物が出揃ってからはそれぞれの目論見が交差する展開に目が離せない。
デジャンとイェレナの決着は韓国映画めいたビターさがあって最高!
前半が盛り上がりに欠け、ややスロースターター気味なので序盤からこのスピード感があればもっと良かった。

マリヤの絶妙にメンヘラなキャラ付けが良い。
強者として君臨することを強いられ人間不信な彼女はシズキに対しても非常に攻撃的だが、
時折明らかに弱みを見せている場面がある。
だが彼女の能力が念頭にあるシズキはそれに気付かない
(気付かないが故にマリヤは彼を信頼している節もある)という、
特殊な共依存関係が面白い。
マリヤと離反するまでのシズキの行動理念は一貫して「居心地のいい場所の保護」で、
マリヤを最後まで切り捨てることが出来なかったのも、マリヤの側以外に居場所を見出せず、
かといって自分で自分の居場所を作ることもできなかったからだ。
彼女との関係の瓦解は、
映画製作を通して彼がそうした思春期特有の執着から抜け出しつつあったことの現れだと感じる。
一方のマリヤはいつまでも社長令嬢だった頃の権力に固執しているのが対照的で、
決して孤独ではなかったはずの彼女が最終的にシズキ以外の精神的な寄る辺を失っていたのが印象深い。
どれだけ楽しい場所でも、永遠に留まるのが許されないと何となく察した子供の頃の感傷を思い起こさせるようだ。
シズキは劇中劇の中でマリヤや消えてしまったメトロの思い出が生き続けることに意味を見出し、
過去の痛みを受け入れて前に進んでいて、思春期の殻を破る精神的な成長を描いているように思う。
シズキをここまで導いたのはマリヤに他ならず、本作のメインヒロインは彼女なんだなと感じた。
(ネデルカの方が好きではあるが)

読破後に開放されるシナリオ『LINE5 ENDING』の白昼夢のような光景、
それまでの陰鬱な画面から一転した海岸の強い日差し、
幸福で眩しい日々への憧憬を抱かせる読後感が非常に爽快だった。