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***さんの図書室のネヴァジスタの長文感想

ユーザー
***
ゲーム
図書室のネヴァジスタ
ブランド
TARHS
得点
70
参照数
505

一言コメント

良質な物語を楽しみたい方にはおすすめ。但し、物語の言う所は偏った主張であり、展開も暗く重い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「大人と子供」を描いた、全年齢のサスペンスノベル。
一人の男子生徒の失踪、それを調べに来た記者が、関わりのある5人の少年に監禁されるところから、物語は始まります。
【友情とは言い切れない執着】【大人と子供】【依存】これらのキーワードを売りに制作されています。

まず、感想を連ねる前に、点数としては70点としていますが、これは「一般的な妥当な評価」を上乗せ考慮した点数であり、
そういった物を抜いて私個人の評価だけをつければ、この作品は40~50点として、自身の中に落ち着いています。
なので、絶賛評価を見たい方、共有したい方がこのページを見ていたとしたら、この感想は適さない、と思います。

もう一つ、コンプリートをしたのが去年の冬であり、また、メインのルートを終えてからコンプリートまでに大分間が空いた
(コンプしなければいけないきっかけがあってコンプしたので、下手したらコンプしてなかった)ので記憶に抜けがあること、
服毒本の類は読んでいないこと、またこの先読む予定もありませんので、そのあたりで補完されていることがあったとしても、
申し訳ないですが知識にありません。あくまで本編ゲームのみの感想です。
自身の中で思うことがあったので、この度この場をお借りさせて頂きます。








以下、ネタバレを交えた大まかな感想。


===1・個人的な事情だけでみた、個人的な感想===

とにかく、シナリオの相性が悪かった。
公式様が「合わない人は合わない」と過去おっしゃっていたらしいのですが、
どうやら私は合わない側の人間だったようです。
面白かったか、つまらなかったか、と聞かれたら、面白かったです。
でも、面白い、から発展する感想は出てきませんでした。
よく、感動する、泣けると目にしていたので、そういう部分も覚悟というか、期待していたのですが、
特に泣ける、ということもなかったです。泣き所は解りました。
大きな感動はありませんでしたが、白峰のシナリオの終盤展開は良かったです。気持ちのいい展開でした。
キャラクターは辻村と津久居が好きです。あの中だと、自分の意志がはっきりしていたように思うので。

なぜシナリオの相性が悪い、と感じてしまったかというと、
この作品、大人と子供を描いていますが、主張が大方「大人が悪い」一辺倒です。
私は一方的な主張というものが苦手なので、これが終始プレイしていてもやもやする原因でした。
子供たちは事情があったにしろ、それなりのことをやらかしているのですが、終わったあとに反省したのか、と言うと、
私が見る限りでは、反省というより、許容で丸く収まった、というように感じました。
これも要因の一つで、この作品は全体的に愛情論が強いです。
私は愛情論にあまり価値を見いだせないので、ここも見ていて腑に落ちない原因でした。
愛情で丸く収まる程度の事情で、あんなおおごとやらかしたんだろうか。
それが子供の愚かさかもしれませんが。

作中で津久居がある登場人物に対して発言していたと思うのですが、「自分の頭で考えろ」というような言葉。
私はこの言葉を、終始子供たちに言いたかったです。この子らの中に自分の意思がある子はいないのか、と。

なんてことを書くと、白峰も久保谷も自分の意思で決断して動いていた、と言われそうなのですが、
それでもなぜそう感じてしまったかというと、
そもそものキャラクターの動きが、全部シナリオ演出のために思えてしまったからなんです。
「こういうキャラクターが揃ったからこの物語になった」
ではなく、
「この物語を演出するための要素として、こういうキャラクターが揃った」
というように、私は感じました。
エンドロールを見るに、もしかしたら元々そういう定で作られたのかもしれません。
そしてひとつのエンターテインメント作品として、それは何も間違ったことではありません。好みの問題です。
詩のようなシナリオの文体も、雰囲気も、洋書を和訳したようで、実に作風に合っています。
ですから、本当の所がどんな意図だったにしろ、読み物としては本当に良質で、面白かったです。
どこまでも価値観だけが合わなかった。

あと、これも条件が悪かったのですが、
自分の周りにプレイしている人間が多すぎて、プレイ前からワインの正体を知ってしまっていました。
ですから、最後のオチも知った上でのプレイになりました。
これも、私の中で評価の加点にならなかった要素だと思います。
そして極めつけ、
作中の正論として描かれている清史郎が、苦手なタイプだった。
これがキャラクターに感情移入しきれない原因となってしまい、感動するべきところで感動できなかった要因だと思います。
「子供(人)が憧れる、魅力的な人間の形」としてはその通りの子なんですけれど、彼。
連絡途切れれば会いにいくのも怖くなるだろうし、様々な事情の積み重なった子供だからわかるけど常識も考えろ、とは言いませんが、
肩を持つ気にもなれない子でした。

救いを待っているばかりで動けないのが、はたして子供だろうか。
動いた結果起こしたおおごとの原因が、「大人(津久居)のせい」なんですよね。
自立って、なんでしょう。
それがないのが、この物語なのかもしれませんが。

最後に、槙原。
いいキャラしていると思うのですが、「彼らを救いたい」の真意が「過去の自分を救いたい」に思えてしまって、
そういうダメ人間として描かれているのかもしれませんが、この思考が邪魔をして、車で身を張っていてもどこか入りきれない感情のまま
通り過ぎてしまいました。
それに、彼が本気で子供たちの未成年飲酒を止めていれば、ラストのワインは阻止できましたよね。
これも教育しなかった「大人(槙原)がわるい」。
槙原がそんなことできる人間なら、この物語は成立しなくなるんですけれど。
この部分がいまいちシナリオ的ご都合にも感じられてしまったので、
槙原の人間性に、もう少し説得力が欲しかったです。後悔したんじゃなかったんでしょうか。

そして大元凶である「彼」に至っても、原因は「大人(母親)がわるい」。

色々書いてしまいましたが、結局のところ、
私はだいぶ弄れてしまっている、それなりにいい年をした人間であり、また、あまり母性本能が強い方でもありませんので、
抱いた感想は少数派だと、思います。
彼らを見て、可哀想だと、救いたいと、その生き様に感動するのが、正しい受け取り方なのだと思います。
そして恐らく、この物語に感動できるのは、素直で、母性本能が強くて、強くキャラ萌えができて、雰囲気に浸れて、カタルシスを感じる余裕がある方、
だと、私的には思います。

因みに、重い重いと言われているシナリオですが、
確かに題材、空気共に重くてずっしりしていますが、私はそこまでダメージなかったです。
普通の、一般的に無難に触れやすくされた作品しか見てこなかった方には、結構なダメージかもしれません。

それにしても、依存とか執着とか、少年の怪しげな結束とか、好きな要素だけならたくさんあったはずなのに、
びっくりするくらい琴線に触れなかった。自分でも不思議に思う。
高校生か、二十代前半の頃にプレイしていたら、もっと素直に感動して、はまっていたような気がします。


===2・私情を抜いた一般的視線(を意識した)共通感想===

サスペンスとしての物語は、真ルート、個別ルートともによく出来ていて、
伏線、謎、ともによく構成されています。
全体を通してとても長いシナリオですが、空気の重さに耐えられれば、どういうことか気になってはまりこんで読み進められると思います。
途中途中にあるどんでん返し、心に痛く訴えかけるシナリオ展開も飽きさせません。
また、好みが分かれる部分ですが、詩のように流れる文章と、ジョークのニュアンス、塩梅、どれも絶妙で、質が高いです。
解放されていくボーナストラックも、本編に入り込めれば楽しめるのではないでしょうか。


音楽も、どれも作品にあっていて美しいです。
静かなピアノ曲と文章がよくマッチしています。
また、演出場面で時折かかるボーカル曲も、邪魔になることはなく場面を盛り上げます。
いい選曲をなさっていると思います。
個人的に、ルート曲と相まって、辻村のルートの雰囲気が好きです。

システム面は、基本のシステムに、
選択肢をいくつ選んでいないのか、また、チャプターに沿ってシーンを振り返ることも出来て親切な作りになっています。
ただ、「ひとつ前に戻る」の機能にちょっと癖があったような気がするので、
選択肢を戻りたい、と思って使うと、混乱するかもしれません。

純粋にこのキャラクターたちの物語を楽しみたければ、とても贅沢な作品だと思います。
ひとつの大きな作品を見終わったような読後感を味わえるはずです。
また、ハマりこめれば、派生作品多数、公式のSS多数、などなど、そのあとにもまだまだ作品に浸っていられます。

ですが逆にはまり込めないと、私のようにもやもやした印象で終わってしまう作品でもあるのかなと。

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蛇足の小言。

ライト具合とシナリオのシビア差の塩梅が絶妙で、
マーケティングの部分に関しても、やり方がお上手だったのだと思います。

プレイし終えて最後に頭の中に残ったのは、
「ライター様は、なんでこういった物語を書こうと思ったんだろう」
でした。
萌え要素で作品を見ない身としては、やはり、いまだに、腑に落ちない部分が多いです。
とにかくどこまでも可哀想な人々で構成されているシナリオですが、
結局人は、自分より弱い人間しか愛せないんでしょうか。