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yuunagiさんの吉原彼岸花の長文感想

ユーザー
yuunagi
ゲーム
吉原彼岸花
ブランド
MariaCrown
得点
80
参照数
929

一言コメント

なかなか珍しいバッドエンドゲーだと思いました

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

近年発売されたR18乙女ゲーの中で評価が高く、また悲恋ものという感想を見たため購入しました。
確かに全体のクオリティは高いもので、シナリオの矛盾もなかったと感じましたが、時折主人公である凛ちゃんに共感できなくなることがあり、それが唯一の残念ポイントです。

吉原彼岸花は√制限がかけられており、プレイ順は忍→時雨通常√→彰人→朔夜→惣一郎→時雨真相√でした。
この制限はシナリオ上やむを得ないものでしょうし、意図的にあのEDをラストに持ってきたことが作品の全てだとも感じます。

プレイ順に各キャラの√を振り返りますと、
忍:一番最初の攻略キャラというのはやはりというか思い入れが強いもので結果的に一番好きなキャラになりました。√も一番好きかもしれないです。
それは忍√序盤の謎となる、忍は何故そんなに置屋通いができるのか、しているのか、花魁を抱かないのはどうしてなのかという疑問にきっちりと筋が通る理由があったからだと思います。
そして凛ちゃんが、たとえ両思いであっても忍の立場や気持ちを慮りあくまで花魁で在り続けたことがこの√で最も気に入った部分でした。
なんせ一番最初に入った√ですから、この時点での私の凛ちゃんの印象は、本当に花魁という仕事にプライドを持ってやってるんだなぁ……という心から関心したものでした。
よくよく考えてみると、忍が遊郭に来るのは花魁であった亡き母の面影や安心感を得るためなので、そんな忍の心を掴む女性は当然花魁という仕事を恥じることなく、むしろ誇りに思っているような娘になるのは当然で凛ちゃんがそうなるのも当然だったわけですね。
忍のハッピーEDは、凛ちゃんの年季が明けるまで待ち、再会する2人というもので後ろめたいものがなにもなく晴れやかな気持ちになれる素敵なEDです。
それだけにバッドの「きっと取り戻す」の闇が深いこと……。
正妻の子を事故と見せかけて殺めればまた自分が愛してもらえるという非常に女性らしい狂気に胸が痛くなりました。
このEDを見た時にこのゲームただの乙女ゲーじゃないと確信したものです。

彰人:見事な喧嘩ップルでした!彰人√好きな人は多いんじゃないかなと思います。あと、スチルの凛ちゃんが一番可愛い√だったかな、と。
それだけに終盤、彰人が間接的に凛ちゃんの両親を自殺に追い込んだという事実が発覚した後の流れが残念でした。
もっとこう……殺意をみなぎらせてもよかったんじゃないかなーって。むしろ凛ちゃんがブッスリ行った方が……とか思った口でした。
全クリした後になって気がつきますがこの借金云々の部分において彰人は割を食っているというか、とばっちり感凄いな、と。
でもまぁ、これがないと彰人は凛ちゃんと出会えないのでトントンなのかもしれません。
正直、時雨の元から凛ちゃんを掻っ攫っていったことについては胸がすく思いでした。
彰人のバッドEDは、「伝えられなかった言葉」は順当なものであり、「虎と蛇」はありがちと言われればありがちで、でも見ていて悲しくなりました。想いあっていてもすれ違ってしまうのは辛いです。

朔夜:このゲームの年下枠です。性格、容姿共にイケメンであることは間違いないのですが割と常識人なためになんだか影が薄くなってしまった気がします。惜しい……。
朔夜√は真っ直ぐな恋心に胸がきゅんきゅんしてしまう凛ちゃんという構図が可愛かったのに、サクサクと関係が進んでしまうので美味しい部分のほんの少しづつ摘んだ感じでした。
花魁と髪結いの禁断の恋なのに凛ちゃん流されっぱなし。年上の私がしっかりしないとと考えているそばから体を重ねちゃう。見ている側からすると心臓に悪かったです。
当然そんなことが長続きするはずもなく朔夜の元兄弟子が現れ強請ってくるという展開は今までが割と上手くいっていただけにいい流れでした。
なにより女の子が覚悟を決めて髪を切るというのが私の個人的な萌えポイントでもありましたし。
バッドEDは「格子の中」が好きです。
きっともう現れるはずのない朔夜を待ち続ける明らかに正気ではない凛ちゃん。
背景で降る雨に凛ちゃんが溶けて消えてしまいそうなイメージが浮かんで、そんなはずはないのになんだか綺麗な終わりを迎えたとすら錯覚してしまいました。

惣一郎:もの凄く不憫……。可哀想……。いっそ復讐させてあげればよかったと思ってしまうくらい。
惣一郎√はEDもプレイヤー側が申し訳なくなってしまうものでした。特に「遠い日の約束」。
いいじゃん、何事もなく逃がしてあげたらいいじゃん。それで2人は幸せに暮らしましたじゃダメなのかよ……と。
いや、そのEDが「鬼灯笛」なんでしょうけどそれはそれで納得できてない自分がいます。
惣一郎は間違いなくこの作品の攻略キャラでメインなはずなのに全然報われていない気がするのです。
長い間、復讐を誓い己の手を汚してまでのし上がり凛ちゃんを迎えに来て両思いになったのに結果的に彼はその地位を捨てなくてはならないし、復讐も止められたり、まさかのその復讐相手を飼うハメになるし、最悪最愛の人を失うしでなんか真っ当なEDが…ないですよね……。
それはある意味因果応報とも言えるのかもしれないけれど、1つくらい廻船問屋やりながら凛ちゃんを奥さんにするEDあってよかったんじゃないですか公式さん。

時雨:声だけでラスボスなのだとわかってしまうお人。もちろんシナリオもそうだった。
吉原彼岸花という作品の大部分はこの人のためにあると言っても過言ではないでしょう。
ぶっちゃけどのEDでも勝ち組だと思います。4つあるEDのどれもが凛ちゃんは時雨に心を捕らわれたままなのですから。
「堕ちた花魁」と「見ている」は凛ちゃんの心に住む時雨に誰も勝てないですし、真相EDの「彼岸花」は完全に奪われてしまっています。
「夜明け」は時雨にとってはこの上ない幸福なEDで最終的には、もうこれでいいんじゃないかな!とヤケクソ気味に思いました。
それでも、OPの歌詞とか諸々を含めて「彼岸花」EDが最も美しくこの作品らしいEDなのでしょう。
いやぁ、初めて自分を心配して声をかけてくれた旅先の女の子を手元に置くためにあれこれと画策したのに、心の内にある唯一の望みは恋人になりたいとか夫婦になりたいとかではなくただ側で見ていたかったなんてどれだけ不器用な人なのだろうと。
それがどれだけ私のツボにハマったことか……。
時雨だけではなく凛ちゃんや惣一郎もなのですがどうも精神的な年齢が見た目に反して幼いなと感じます。
凛ちゃんと惣一郎に関してはおそらく両親が自殺した辺りから時が止まってしまってるのかなと。
子供の頃虐待を受けていた時雨は心が成長する以前に凍り付いてしまっていて、大人のように振る舞うことだけ覚えてしまった感じ。
そう考えると、一見ちゃらんぽらんな忍や口が悪くてガキっぽい彰人の方がけっこう大人な気がします。時雨√の彰人、親友オーラ全開で最高でした……。

久々のR18乙女ゲーは1人のキャラに対しエロシーンが4回もありとてもお腹いっぱいになりました。当分いいかなーって感じです。