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yumenoarikaさんの死神の接吻は別離の味の長文感想

ユーザー
yumenoarika
ゲーム
死神の接吻は別離の味
ブランド
ALcotシトラス
得点
85
参照数
586

一言コメント

雫が可愛い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

雫がすっごく可愛いです。破壊力抜群です。
しかしながらメインヒロインの琥珀もさるもの。クーデレですね。さらにこの二人の絡みとかかなり和みます。

以降、思い切りネタバレ含みますので注意してください。

シナリオは短めながらしっかりまとまっています。
主人公もかなり好感が持てる感じ。日常会話も洗練されていて飽きさせません。文章が前後しますがシナリオの内容に関しては死生観がよく描かれています。たとえば現代的な思考だと「大切な人が死んでもどんなに悲しくて辛くても生きなくちゃいけない。死んでしまった人の分まで」というのが一般的だと思いますが、この作品のメインルートのヒロインは最終的に「一番大好きな人がいない世界なんて生きていられない」と生きられる自分の命を捨てます。そこには正誤はないのかもしれませんが、いろいろと考えさせられした。たとえばヒロインは「大好きな人」の「命」を何よりも重く見ていますがそのために「大好きな人」の願いや、彼女を愛していた両親の想いも完全に無視しています。自分の想いを貫く彼女は自分の命を軽視しているようにも見えます。客観的に見ればいくらでも彼女を非難することはできますが、彼女の主観として見れば価値観がまったく異なるのだと想像できます。何よりも大切なものが「大好きな人」であり、その前には自分も家族も視野に入らない。それを作中では「決して穢れない魂」として描いてありました。死神である十六夜の主観ですが、誰もが自分の命を優先する中、他者の命を選ぶ彼女はとても尊く見えたのだと思います。
個人的にはあまり好きになれなかったほのかルートも、考えさせられるという意味ではすごく考えさせられました。好きになれなかった理由はほのかと親友の里中凛さんに非常に共感できたからです。自分の恋を応援してくれていた親友が、自分が振られたあと同じ相手に告白して付き合ってラブラブ……というのは、しかも自分は兄が殺されたばかりという状況では、憎悪の対象になるのも納得できます。しかも主人公は里中さんの告白を断るときほのかや里中さんの知らない好きな人がいると言いましたが、思い切りほのかさんと付き合ってます。これでは言い訳のしようがないと思います。しかもほのかさんは何をやっても「いい子」というオプション付き。どうしても好きにはなれませんでした。こういった理由で個人的にはほのかというキャラクター、そのシナリオが好きにはなれませんでしたが、客観的に見れば主人公の断り方以外、二人が悪いことをしたわけではありません。主人公がほのかさんを好きになり、ほのかさんが主人公を好きになった。それだけです。それだけですが……やはり里中さんの方が断然好きになれますね。私が嫉妬深いだけかもしれません。

雫は最高に可愛い妹。本当に可愛いです。お尻が大きくても。物語もキャラクターに引っ張られるように非常に楽しんで読むことができました。

メインの琥珀ルートは泣けます。泣けますが、最後の展開が私にはどうしても「琥珀」という人格が「日和」という人格に打ち消されたように思えました。琥珀が好きだった私としてはどうしてこうなった状態でした。記憶が戻ったとしても琥珀は琥珀のままでいてほしかったというのが私の願望です。日和が言う台詞には納得のいかないものを感じましたが、同じことを琥珀が言ったならきっと納得できるだろうというくらいです。なので物語は非常にいいものでしたが琥珀がいないように感じられて感情移入できませんでした。

ほのかと日和がだめという私ですが全体としてみればやはりよかったと思います。私としてはこの作品は雫と琥珀のためにありました。兄のことを想い続けた雫と、素直で、でも辛辣なつっこみを入れる琥珀。この二人には幸せになってもらいたいです。それに主人公にかなり好感をもてたのも大きな要因です。物事を理性的に捉え、分別を弁えている主人公は素敵です。ロリコンやシスコンかもしれませんが私はよかったと思います。我侭を言えば日常会話だけでも雫との後日談が見たかったです。内容的にFDが無理なのはわかるのでただの願望ですが。それとミルフィもいい味を出していました。この猫がいたから日常シーンが盛り上がった気がします。彼女はただの猫ではなくハイセンスな猫だと思います。