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yukime430さんのHarmoniaの長文感想

ユーザー
yukime430
ゲーム
Harmonia
ブランド
Key
得点
79
参照数
9

一言コメント

【記憶と感情を失った少年がニンゲンになる物語】

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【総合評価】79点
【シナリオ】34/40点【原画】16/20点【音楽】18/20点【キャラ】6/10点【声優】5/10点

樋上いたる氏がKeyで最後に手がけたKey15周年記念作。感情を持たないフィロイドの少年・レイが、人々との出会いや別れを通して“心”を知っていく優しく切ない物語で、荒廃した世界の中にも確かに存在する人の温もりを描いている。短編の限界は感じるが、Keyらしい感動と余韻がしっかりと詰まった、静かに心を揺さぶる一作。

★良かった点
導入部分でヒロインが人造人間(フィロイド)というのはSFジャンルではよくある設定だが、本作ではまさかの「主人公が人間によって作られたフィロイド」という構図が採用されており、その逆転の発想が新鮮だった。これまでの作品にはなかった切り口で、プレイ開始早々に「これはただの感動系では終わらないな」と期待が膨らんだ。冒頭から、荒廃した世界やフィロイドという存在の背景、そして主人公レイの立場について丁寧に描写されており、物語への没入感が高い。
説明過多にならず自然に世界観に引き込まれていく構成が上手く、SFが苦手な人でもスムーズに読み進められると思う。
音楽も相変わらず心に沁みる良曲揃いで、Key作品らしい“静かだけど深く刺さる”空気感がしっかり味わえる。
主人公レイとシオナの交流の中で、“感情”というテーマを丁寧に描き出しており、少しずつ心を通わせていく過程が温かい。
ラストの展開も、やさしさと切なさが共存する感動的な締めくくりで、短編ながらも余韻の残る物語

個人的に刺さったのは、マッドさんとその息子の過去が「映画」という手法で描かれるシーン。
セリフやBGMを極力抑えた静かな演出と、映像だけで語るストーリーテリングが非常に秀逸で、Keyらしい“感情を揺さぶる演出力”の高さを感じさせる名シーンだった。
また、6章までの間に少しずつ積み重なってきた違和感やモヤモヤが、7章で一気に解き明かされていく展開も気持ちよかった。
特に、シオナがティピィに対して冷たく振る舞った理由が明かされる場面――“家族のように接すれば、それがティピィの死につながってしまう”という葛藤を知ったとき、その言動に納得がいき、切なさと理解が同時に押し寄せてくる。序盤では見えなかった登場人物たちの思いが、終盤にかけてしっかり回収される構成も非常に良くできていた。

★悪かった点
うーん、あえて挙げるとすれば、シオナの第一印象と水橋かおりさんの声のイメージが少し合っていないように感じたところ。声優としての演技は素晴らしいものの、序盤のキャラクター像とのギャップに少し戸惑いがあった。ただ、物語が進むにつれて違和感は徐々に薄れていき、最終的にはしっかり馴染んでいたので大きな問題ではないかもしれない。
もう一点は、ラストの展開が少し“きれいすぎる”という印象を受けたこと。物語全体が温かく優しい雰囲気で包まれているため、この終わり方も作品の持ち味だとは思うが、やや都合よくまとまっている感じも否めなかった。ただ、ここからさらに苦い展開を挟むのも違う気がするので、難しいところではある。