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yujitさんのまいてつの長文感想

ユーザー
yujit
ゲーム
まいてつ
ブランド
Lose
得点
66
参照数
440

一言コメント

DLSiteにて500円で売っていたので、会員登録クーポンを使って実質200円で購入。設定には突っ込みどころ多数。ストーリーのご都合主義っぷりは既に多くの人がご指摘の通り。でも、「駄作」と打ち捨てるのには、なんか躊躇してしまう作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 鉄道が好きで、九州出身で、肥薩線にも何度か乗ったことがあるので、興味を持って購入しました。
 地方のローカル線の経営とか、地方都市の観光振興といった現実的なテーマを扱っている割には、ストーリー展開はご都合主義的でリアリティを感じませんでした。キャラの造形の可愛さ、現実の人吉の魅力、BGMやテーマソングで何とかなっている感じ。定価で購入したら、腹が立ったかもしれません。

○設定・世界観
 ファンタジーであると割り切るまでにかなりの時間がかかりました。
 まず、「『レイルロオド』とは何なの?」というところに引っかかってしまいました。共感通信機能や整備のサポートといった機能を果たすシステムは現実の鉄道にもありますが、それらを人型モジュールが一手に担い、しかも20世紀初頭には完成しているというのが不思議でしょうがなかったです。技術が進んだ世界であればよいのですが、レイルロオドとエアクラ以外の技術水準は現実世界並みかそれ以下のようでしたので、一層気になりました(レイルロオドを作る高度な技術があれば、エアクラ登場で帝鉄が衰退する前に新幹線のような高速化技術は実用化できていそうな気もします)。しかも、れいなは動物と心を通わせることができ、ハチロクはお酒造りができるのです。また、レイルロオドがみんな少女・幼女風に作られており、膣まで精巧に作られているのも「何でなんだろう?そこまでしてロリキャラの性描写をしたいのか?」と思いました。
 ローカル線の鉄道会社の社長兼運転士が若い女性でしかも市長と兼任しているのも、学園生2人が市長選の有力候補になるというのもよく分かりませんでした。10代・20代の若者が社会運動のリーダーとして女性の地位向上や地球環境問題などに声を上げ、世の中に影響を与えている時代だから、一地方都市の観光復興に登場人物たちが大活躍するというストーリー自体は不自然ではありません。でも、社長、市長、支店長というのはいくらなんでも現実離れしているのではないでしょうか。社長や市長でなくても、社員や市職員という設定でもシナリオは作れたのではないかと思います(市役所、鉄道会社、酒造会社、川下り業者、銀行の若手や学生が集まってまちづくりNPOを結成するとか)。
 最後に、一番気になったのが、ビジュアルファンブックの年表です。これに基づくと、清美機関士が戦前から21世紀になるまで70年以上にわたり機関士をやっていることになるし、清美機関士自身もポーレットの母親も相当な高年出産でないといけないことになります。また、ポーレットと双鉄は湯医線の復活時に初めて出会っていますが、そのときのポーレットの容姿からすると、物語開始がそのわずか6年後というのも不自然な感じがしました(ポーレットが急成長している)。
※追記
 シナリオライターの方が、Ci-enで改訂した年表を発表していました。それによると、双鉄が巻き込まれた事故は1986年、帝鉄解体が史実の国鉄分割民営化と同じ1987年になっていましたので、清美機関士がハチロクとコンビを組んでいた時間が50年程度に短縮されますが、それでも設定が不自然ですね。
 また、湯医線復活から物語開始までが4年になっていました。ポーレットが急に大人になる点がますます不思議に思いました(それなのにグランドルートでは6年も時間が経ったのに、ふかみ・凪などの容姿は変わらない)。
 とにかく、設定を精緻に作りこんでいるように見えて、詰めが甘いところがたくさんあり、そういうところを気にしてはならないと言い聞かせるのが大変でした(ぼろを出すくらいなら、時間軸はもっといい加減に描写してもよかったのでは?)。

○シナリオ
 地の文が誰の視点で書かれているかが急に変わって、混乱したところがちらほらありました。また、ほかの方がたくさん書いているように、トラブルがあっても結構簡単に乗り越えられるところもやはり気になりました。
 そして、エアクラ工場の誘致に反対する理由が水質汚染というところも、反対の理由としては弱いかと思います。水質汚染だけだったら、公害防止協定を結んで国の基準よりも厳しい基準を設けることも可能だし、実際に多くの自治体で行われています。建設予定地が川下り発船場の近くという話がちらっと出てきますが、川沿いの景観がガラッと変わることも反対理由の一つとした方がよかったのではないでしょうか(水を大量に使うので地下水や温泉が枯渇するとか、社員用に高層マンションを作ることになるので御一夜の古い街並みが失われるとか、建設予定地が希少生物の生息地だとか、そういった根拠がいくつもないと誘致を撤回させるのは難しいと思います)。
 炭鉱テーマパークがポーレットルートでは観光振興策として出てきますが、夕張市はそれで失敗しているので、現実味を感じません。とはいえ、鉄道模型レイアウトを使ったワークショップで御一夜の未来像を考えていくというのは、銀行・エアクラ社のトップダウンの構想との対比ができていていいなあと思いました。

○グラフィック
 キャラの造形は本当にきれいですし、動くのがいいですね。最初は瞬きがうるさいかなと思っていたのですが、表情や視線が場面に合わせて変わるのでストーリーに没入することができました。ただ、e-moteを使おうとするあまりに、重要な場面でもワイプが並んでいるだけということもままあったので、静止画でいいから、場面をきちんと描写した絵ももっと見たいなと思いました。
 現実の人吉の雰囲気をうまく描写しているところもよかったです。

○声
 ハチロクの気品ある声、れいなのいたいけな声、凪の天真爛漫な感じの方言、ふかみの年齢不詳の妖艶な声などなど、声優さんの演技に惹かれました。ただ、主人公が学生なのに妙に老成した感じの声だったのは気になりました。

○音楽・BGM
 オープニングやエンディングの主題歌はどれも素敵ですが、特にレトロな感じのジャズ風の「レイル・ロマネスク」と汽笛なども入って豪壮な「未来行き列車」がよかったです。
 BGMも自然豊かでのんびりした御一夜の雰囲気を描写していて、音楽鑑賞モードだけでも十分満足しました。

○Hシーン
 登場人物の多くを性的対象として見られなかったので、あまり楽しめませんでした(むしろ、気持ち悪いと思ったくらいです)。しかも、おもらしが多いなど自分の性癖にも合いませんでした。
 
  
○鉄道面の考証
 除煙板が九州の蒸気機関車に特徴的なデザイン(門司鉄道管理局管内のデフレクターという意味で「門デフ」といいます)になっているところとか、明り取りのためにダブルルーフになっている旧型客車などのグラフィックはよくできていると思いました(鉄道模型に詳しい人からすると突っ込みどころ満載なのでしょうが)。
 しかし、気動車や電車についての設定がすごくいい加減かなと思いました。
 一番ひどいのはクハ26です。「ク」とは「運転台がついている」という意味で、モーターは付いていない車両なので、どうやって客車を引っ張るのでしょうか?そもそもモーターがあっても電車1両で客車や貨車を何両も引っ張れません。お客さんを乗せる電車と電気機関車の区別が付いていないのではないでしょうか。そして、この世界では九州も直流電化を試みていたのですね(現実の鹿児島本線は交流電化なので、直流電車であるクハ26は走れません。続編のニイロクストーリーではそこんところをどう扱うか見てみたいです)。
 あと、気動車についているエンジンは出力が小さいので、計80トン以上もある蒸気機関車と炭水車を引っ張るのは無理では?よっぽど馬力の高いディーゼルエンジンに換装したのでしょうか。ガソリンエンジンに戻すという展開になりましたが、ガソリンは軽油に比べて揮発性が高く脱線事故時の火災のリスクもありますし、馬力は下がります。鉄道車両に使えるガソリンエンジンがどこから出てきたのでしょうか(ガソリンエンジンで動く気動車なんてほとんど残っていないですし、マイクロバスから取ってきたのでしょうか。それとも新造?)。
 あんな詳細に(しかも文字ばかりなので読んでもよく分からない)用語解説を付ける暇があったら、気動車と電車についてもきちんと調べてください。

○システム
 どれくらい読み進んだかがゲージで分かるのはよいですし、セーブしなくても、目次から読みたいチャプターに行けるようになっているのはよいと思いました。

○最後に
 続編では、成長したふかみ・凪の姿とか、ポーレット一家の家族旅行とか気になるものはいろいろありますが、前のリライトも含まれているようですし、1万円以上出して買うとなると考えてしまいます。