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yu_iさんのプレゼンスの長文感想

ユーザー
yu_i
ゲーム
プレゼンス
ブランド
CLOCKUP
得点
77
参照数
863

一言コメント

世界がループしていることに気付いたら、あなたはどうしますか? 世界が繰り返すなら、少女の幸せな未来のために奔走しようと思い立つか。……それとも、どうせ世界は元に戻るのだから、少女を欲望のままに壊しても良いのだと気が付くのか。その違い。両方の展開を描いたのがこのゲーム。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 いわゆるループものです。繰り返す1週間の中で何をするのか、というお話。ループしていることに気づくのは主人公と謎の少女である刹那だけ。個人的にはループという現象に関するメタ的視点(ギャルゲーをプレイする私とループという演出の関係)を意識させてくれる良作でした。
 
 OP久しぶりにいいの見たなあ。お手本って感じのノリ。ゲーム中の音楽も心の琴線に触れるピアノ主体でいい。

 ゲーム内容ですが。もとから主人公に好意を寄せているキャラや関係として近いキャラが多いので、主人公が受け入れられやすい環境にある。陵辱モノとしてはやや弱めかも。ちょっとしたきっかけですぐに主人公の脅しや唆しに屈してしまうのが少し残念。まあエロシーンがすぐに見れて嬉しいのですが。あくまでもループしながら堕としていくというシチュエーションが主。ヒロインを落としていく過程も、そんなにダークな感じでもない。ライトなプチ調教って感じ。女の子もそういう状況をすぐに受け入れちゃうし。

 ループは、シナリオ面では純愛シナリオや陵辱シナリオでの情報集めや追い込みに役立っています。ループがメインというよりは、シナリオの味付けに使われている感じ。主人公の動機付けとして、ループしていることに気が付く→この1週間何したってどうせ戻るじゃん→なら悪いことしよう(or良い未来のために情報集めしよう)、みたいに話は進む。悪いことしようという段階に入ったら、もうそれほどループ話は関係なくなってしまっている気がする。ただ、相手を脅す材料や情報が前周の記憶に基づいてたり、Hが前周と比べて微妙に台詞が変化している(”前”はこんなシチュエーションでやったから、今度は別のシチュでやってみよう等)という点でループが関わってきてはいるけれども。
 
 プレイヤーの作業面ではループものという性格上、周回によって似たシーンも違うものとしてカウントされるらしく、スキップできないのが辛い。『Cross Channel』と似たトラブルを感じた。ループモノって難しい。少しずつ螺旋がずれていくのを見せるのがこの手のゲームの肝なんだけど、テキストが似てて最終週とかになると、かなり気持ちがだれる。ほとんど同じテキストなのに、スキップできないからかなり読むのが辛い。そのためには同じイベントのややずれの内容だけではやっていけないのかなあ、とも感じた。

 ループの原因とその結末がやや曖昧なのが気になった。自分が原因じゃないか……? みたいな感じにはなったけれども、クエスチョンマークのまま。刹那も結局どういう存在なのかも明らかにされなかった。作中では刹那を陵辱してやろうとか思ってたけど、それも為されないまま。ここらへんがやや残念。刹那の存在やループの謎は残るけれども、ループの中で生きるというこの作品の狙いは充分に発揮されていたと思う。


■■■以下妄想
美少女ゲームをプレイする僕が陥るループ


「ようこそ、永遠の刹那へ。貴方が来るのを、ずっとずっと待ってたわ」

 主人公をループへと誘う刹那の存在も、そのループの原因もそれほどゲーム中で明らかにはされてはいません。が、個人的にはループの原因は『プレイヤーの欲望』にあるかもしれないと思っています。かなりメタ的思考入ってますけど。刹那はそれを視える形にし、誘導しゲームを案内する役割を担っている。主人公は欲望のままに欲望=実験空間として設定されたループ世界の中で陵辱や純愛を繰り返す。ゲーム中、刹那は主人公の亨に「あなたはループする世界の中で何をしてもいいのよ」的な発言を繰り返すけれど、それはゲーム内の主人公に向けられるのと同時に、プレイヤーに向けられている気がする。
 
「”時の回廊”からは、もう永遠に逃れる事は出来ないわ。でも恐れることはないわよ」
「だって、それは凄く楽しい事なんだから」
 
 ……とすれば。主人公を通じてヒロインを時に愛し、時に陵辱するという仕方でギャルゲーをプレイする僕は、ループし繰り返される日常(欲望=空間)からいつ脱出できるのだろうか?

「”ワタシと永遠にココであそんでいれば、アナタはしあわせなの”」
「そうすれば、あの女はアナタを裏切らない。アナタのものになるのよ。永遠に、アナタが望む姿のまま、アナタを慕うのよ」

 ――それとも、脱出しなくても良い? 刹那が示した”時の回廊”とは、今僕がギャルゲーをプレイしている状態のことなのかもしれない。プレイしているゲーム中のキャラクターは僕のことを慕ってくれ、絶対に、永遠に裏切らないだろう。確かにそれは『しあわせ』な空間じゃない? ねぇ?

■■■以上妄想終わり。


 最後に。絵とテキストの説明が時折ずれてるのが気になった。なんかCG意識せずに文章書いた、みたいな。例えば、ブラの色が単純に描写と絵で違うとか、小さな違和感ではハンドルによりかかって、っていうのにもう既にガードレールに座っていたり。あと、暗転して描写してるHシーンとかがかなり長い印象もあった。
 誤字が多いのも気になった。優希のシーンで唯ちゃんとか名前を誤変換していることもあった。自室で話していたのにいきなり背景が学校になってワープしていたり(話している内容は自室での内容のまま)。「■SE(扉を開ける音)」という文章が残っていた時には、これは何かのギャグかと思った(笑) 

 誤字等の問題は廉価版では直ってるかもしれないし、ループモノはとりあえずやってみないと気が済まないって方、試してみたらいかがでしょう?(そんな人、俺以外にいるのか!?)


 以下キャラ感想とあと『ひぐらしのなく頃に』にも見られたループにおける許しというモチーフについてです。『ひぐらしのなく頃に』罪滅し編未プレイの方は、少しだけネタバレしちゃうかもしれません。

【蛇足~ちょっとキャラ感想】
 幼なじみヒロイン亜衣の造形は注目。主人公に愛されるにしろ、陵辱されるにしろ全力でぶつかってきます。他の女に目が行っている時も、ひたすら主人公を思い続けてきた亜衣。台詞も歪みを感じられて興味深かった。健気さに泣けるというか。これも一つの愛の形なのか!?
 
「……でも、ダメなんだもん。どんなに酷い事されても……苛められても、亨が好きなの。亨じゃなきゃダメなの」
「きっとね、壊れちゃったんだよ、私。亨のことが好きになって……ずっと、亨しか見てなかったから」
「どんなに汚されても……他の男の人に犯されても、それでも私は亨しかいないから……」
「もし亨が私を要らないなら、亨に壊されるなら……それも良いかなあ、って、思ったの」
「だから、私は……きっと、壊れちゃったんだよ。亨に想いが通じたときから……幸せで、壊れちゃったの」

 後輩優希は、自分がループしていることを打ち明けるバッドエンドと、純愛エンドが良かった。後者は、ループを繰り返して繰り返して何度も同じシーンを見て感じる懐かしさが表現されていたと思う。4週目の主人公は優希と結ばれるために、前向きに動く所も好感が持てた。結局ループというのは受動的な態度の象徴なのかもしれない。
 
 カフェで出会う女の子霧子と香澄は、バッドエンドがおすすめ。主人公に犯されたショックで自分がお母さんになったと発狂する霧子や、調教され独占欲を持った香澄が霧子を陥れ主人公を独占しようとしたり。

【蛇足2~ループにおける許しというモチーフ】
 『ひぐらしのなく頃に』罪滅ぼし編でも見かけるようなテキストが『プレゼンス』にも。1つ目はネタというか、まあ偶然ですが(というかこのギャグのルーツがどこにあるのか気になる(笑))。2つ目はループの中で後悔する主人公の図。ループ・並行世界ものでは王道でお手本的な展開かな。

1.
「光年は時間じゃない、距離の単位だぞ! 知らねークセに慣れない単語使うな!」

2.
■■■
気がつけば、とても自然に……彼女に謝っていた。
そうすることで……少しだけ罪が軽くなったような気がする。
でも、星野さんは何のことだかわからずに、ただ不思議そうな表情を浮かべていた。
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不思議に思われても当然だ。彼女がまだ体験していない未来のことを謝られても、何が何だかわからないだろう
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僕は……この笑顔を壊してしまったんだ。今度は……間違えないようにしなきゃ。
■■■(引用終わり)