これは、壮絶なエログロと、中だるみのないシナリオに、いろんな分岐を試したくなるゲーム性が高度に合わさった素晴らしい作品だった。それだけに、開発期間の短さによる手抜き具合が残念に思えた。長文感想ではゴアや銃刀との比較もいくつか。
シナリオは評判通り非常に良かった。
不運な事から一族を抜けた蟲使いに捕えられ、汚臭も強い劣悪な環境下で苗床として蟲を生まされ、時には性欲処理にも使われるなど、想像を絶する生活を強いられた少女、櫻井夢美。
そこからはなんとか脱出するものの、その後の人生も蟲使いとの関わりを避けることはできず、様々な苦難に遭遇することになる。
その彼女が15年の後、蟲使いとの因縁に決着を付けるところまでが描かれている。
自分はこれをプレイする前に、他のフルメタルBOX同梱作品(蟲使い、ゴア・スクリーミング・ショウ、GUN-KATANA(銃刀) ―Non Human Killer―)はすべてクリアしていたが、これが一番良いシナリオだったと思う。また、ゴアや銃刀は結局のところエログロを抜くか他の表現にしても、シナリオの大半は問題なくいけそうだったが、この作品の場合はエログロを除くと魅力が半減するだろう。その意味でもエロゲらしくて良かったと思う。エログロ自体も、このブランドの表現にはもう慣れたと思っていた自分でも吐きそうになるものもあり、なかなか刺激的で良かった。まあ、揚羽編はただ他のシナリオではできない特殊なエロがしたいだけのシナリオ、という感じがしてちょっと合わずに結構飛ばしてしまったけど…。
キャラでは、蟲使いの主人公であったレンというキャラが良かった。蟲使いではヒロインをひたすら蟲で凌辱するサディストのくせに終盤から純愛展開になるという、何とも感情移入に困る駄目主人公だった。だが、この作品では凌辱担当でもあり、夢美に対し冷酷な態度を取ることも多いながら、伝統に縛られて滅びゆく蟲使い一族と、それを存続させなければならない次期長としての立場の板挟みによる苦悩や、時より見せる優しさ、デレに萌える良いキャラだった。人気投票で2位なのも納得。削られたパートとして神武編というものがあったそうだけど、もしあったとしたら、蟲使いとは別の形で美弥香と結ばれる道もあったんだろうか。そのあたりも妄想してしまう。
またマッドサイエンティストの西正人を欠いてもこの作品は語れない。全く性欲を持たずして、ひたすら実験のために道具として人体を扱い、時には完全破壊も辞さない態度には戦慄を覚える。そのくせにただの狂人ではないというか、普通の人間的な一面もあって、一筋縄で語れないところが良い。彼の秘めた想いとはどのようなものだったんだろうか、と断片的にしか描かれなかった部分も気になるキャラでもあった。何かエロゲなのに男についてしか語ってないな…。
チャート探索というゲームシステムもなかなか面白かった。特に蛹蟲の章は数多くの分岐があるのでどんな展開になるのか、どんなEDになるのか見つけていくのが楽しかった。凌辱・死亡系のEDだけでなく、平穏な生活に戻ることのできるEDも結構なパターンがあって、ああ、こういう終わりもあるのか、と感慨深かったりもした。
ただ、このシステムのせいで、シナリオへの悪影響もあった。必要な部分しか描かれないのでスロットとスロットとの間の展開が省略され、分かりにくい部分があったと思う。また、別の経過をたどって同じスロットに到達した場合、ある人物を知っているか否かで反応が変わりそうなものなのに変わらなかったり、整合性に欠ける面もあった。
シナリオに戻すと、誰もが思うことだろうけど、成蟲の章があまりにも短すぎるのは残念。新キャラも出てきてこれからどうなるのか、というところであっという間にクライマックスに来てしまう。EDも特別な演出はなく、蛹蟲の章のEDと同レベルの演出で軽く終わってしまう。シナリオライターが言うにはここがもともと書きたかった所らしいけど、それならなぜ削ってしまったのか。成蟲編に至る夢美編は二つに分けられるほど多様性に富んだパートだっただけに、拍子抜けといった感じは強い。そして、夢見編から成蟲編の生活に至る部分も描いてもらいたかった。アダルトパートが入らない話はあまり入れられないとはいえ、多少は描いても問題なかったはず。チベット(笑)とのシーンも入れることもできただろうし。その他にも、蟲使いから名前だけ出てきたあのキャラとか、レンとサユリ、西とユーリアの過去とか、何かありそうだ、というだけの描写で終わってしまったものがいくつかあったのも気になった。
このようになった原因はシナリオライターが言っているように開発期間の短さなんでしょう。プロジェクトの開始から発売までは6か月程度だったようだけど、この規模の作品としては短すぎる。オールクリアしたら見ることができるおまけの中に既に銃刀のPVが入っていて、銃刀の発売はこの作品から10か月後ということを考えると、どうしても扱いの違いを感じてしまう。実際ゴアや銃刀では男も含めたフルボイスだったのに対し、このEXTRAVAGANZAでは女性ボイスのみ。ボーカル曲もゴア2、銃刀4に対し、1つだけ。BGMも数が少なく、雰囲気には合っているものの、この作品といえばこのBGMといった特別良いものはない。ゴアと比べると質で、銃刀と比べると量で大きく劣る。このあたりの手抜き具合が非常に残念だった。
素質で言えば、間違いなくエロゲ史に名を残せる名作になり得た作品だった。まともなシナリオゲーと比べると物語の深さや描写の細かさはないが、エログロと合わさったプレイの楽しさは格別だった。多分この状態でもそういった名作だと思っている人も多いでしょう。それほどの作品だったということです。ブランドがまともだったらFDだったり男ボイスや追加シナリオ込みの完全版を要望したいところだが、どうやらシナリオライターも原画家もいなくなってもう期待はできない模様。それがひどく空しい…。フルメタルBOXに同梱されたショート作品の『EXTRAVAGANZA ~末路の果てに~』もやって感想も書いたけど、あれはただ酷すぎる、もはやギャグだとしか言いようがなかったし。
あと、一番最後に見ることのできる、蟲姫ルート。これは、それまでの前提を覆す、とんでもないルートだが、これはネタとして見ればあって良かったと思う。チベット無双とか。削ろうか悩んだルートだそうだが、なければ蟲姫もまた未消化の伏線の一つになっていただろうし。少なくともゴアの真白ルートなんかよりはずっと存在意義があった。