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ysm0624さんのカタハネの長文感想

ユーザー
ysm0624
ゲーム
カタハネ
ブランド
Tarte
得点
96
参照数
656

一言コメント

百合なんて興味ないし、と今までプレイを先延ばしにしてきたのを後悔するぐらい気に入った作品だった。正直特別深い話という訳でもないのだが、世界観に大変魅せられ、ラストは泣いてしまった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ネタバレ全開の感想なので一応注意。

ストーリーで言うならば、シロハネ編は予想外な展開がほとんどないのであまり面白みはなかった。どうせ旅をしながらベルとアンは何だかんだ言って劇に参加することになって、最後にはみんなで力を合わせて頑張る流れになるんだろうな、というのは容易に想像できるし、実際そのようになる。クロハネ編も、終盤は面白くなってくるけど、そこまでは平凡。個人的には、デュアがハンスを尋問するシーンにおいて、良いところでココが出てきてその隙に逃げられるというのは、こういう場面での王道パターンすぎてがっかりした。シロハネ編のラストもあっさりしすぎ。結局劇の評判はどうだったんだろうとか、エピローグ的なものがほとんど語られないので満足感は得られない。

それなのにどうしてここまではまってしまったのかと言えば、やはり魅力的な世界観と細やかな日常・心理描写、そしてココというキャラの存在でしょうね。ヨーロッパをモデルにした世界での電車旅行は、その楽しさが生き生きと伝わってくる。複数視点だけれども分かりやすい話なので、視点が変わっても戸惑うことはあまりないし、いろんな人物の心が見えるのが良い。それに、大きく手を上下に動かす姿が印象的なココは、絵、声、たどたどしい口調、そのすべてに惹きつけられる。単なるロリ系の萌えキャラでも天真爛漫なだけのキャラでもないのが良かった。ココ視点で語られる部分もあるので、ココもココなりにいろいろと考えているんだな、ということが分かるんですね。また、女性同士の同性愛が特別タブーしされておらず、自然に成立してしまう世界観なので、百合なんて興味ない、どちらかというとリアルに考えれば嫌悪感の方が大きい自分でも違和感なく、ニヤニヤしながら眺めることができた。

そして話の核となる人形技術。近未来的なSFものだと、人間によって作り出された心を持つ人外というのは技術の進歩と共に増えていき、心を持つが故の葛藤が生まれてくるというのが常だけれど、カタハネの場合は大分違いますね。人形技術はその難しさ、コストの高さなどから現在では衰退傾向にあり、また人形が心を持つことは、人も人形自身も当たり前のように考えていると思われる。その分この作品は、人に操られる危険性や、人が持ちえない人形独自の機能、長く生きることの弊害といった別の問題に焦点を絞っている。これは良かったと思う。下手に心の問題を持ち出すとどうしてもその浅さ深さが気になってしまうが、ほとんど描写されないので、まったく気にせず物語に集中することができた。

ストーリーに話を戻すと、クロハネ編の終盤では素晴らしいドラマを見せてくれますね。デュアの死に様、アインとヴァレリーの決闘、そして姫様とエファの悲劇の結末。これは何度見ても泣ける。ここのハマり具合は、シロハネ編に戻った時、ああ、こんな話もあったなあと、積んでた別の作品を始めたように思えてしまったほど。そして、最後のココルートにおいて、アインのキスと見送り、ココが昔の記憶を思い出していく過程、そして二人のアインに別れを告げる場面は、何度涙腺が緩んだことか。

ここまでのめり込み、そして最終的にかなりのお気に入りとなった作品は久しぶりでした。個人的なお気に入り度では100点を付けた作品よりも上かもしれない。それならば、なぜ100点にしなかったのかと言えば、以下の不満点があったからです。

まずは、サブキャラの掘り下げが浅いこと。パウラ、リュリュ、マリオン、ファビオといったサブキャラはそれなりに存在感はあり、いろんな過去・設定を持っていそうなのに全然描かれないのでモヤモヤ感が残った。次は、最終ルートにしてもエピローグの描写が少ないこと。劇の描写は自分としてはあの程度でもいいかなとは思うけど、ベルがあれだけ気にしていた歌のシーンが無かったのが残念。ドロップを飲むこと、アンと結ばれたことで解決、ということなのかもしれないけど不十分な気がする。トニーノとニコラの会話も少しは見たかったし、劇の後各キャラがどうなったかという姿も見たかった。最後は、前とも被るけど泣かせる演出が少し弱いこと。この作品、ストーリーだけ見るとKey作品に勝るとも劣らない程泣ける話だと思うんですよね。それなのにこれでもかと泣かせる演出まではいかないので泣きレベルが少し抑えられた感じ。まあ、Key作品並にやってしまうとちょっとくどすぎる感じがしますが、もっと過去と現在を絡めさせるなどして泣きレベルを上げてもらいたかったなと思う。

以上によって減点したけど、4点だけ。こんな不満が出るのもこの作品が特別に気に入ったからというのもあります。BGMもクラシック調のものが多く良かったと思うし、歌も、特にMemories are hereはエロゲらしくない、泣ける歌でした。とにかく、この作品は自分にとって忘れられないゲームになりました。コンシューマー化でもアニメ化でもしてもっと一般に広めてもらいたいものだ…