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ysm0624さんのMUSICUS!の長文感想

ユーザー
ysm0624
ゲーム
MUSICUS!
ブランド
OVERDRIVE
得点
90
参照数
865

一言コメント

音楽との関わりによって変動する主人公の生き様を生々しく追体験させられる作品。無感動的であるが故に心を揺さぶる何かを求めないではいられないという、主人公の歪んだ個性が際立っていた。欠点はいろいろあるし、恋愛要素は薄くエンタメとして特別楽しい訳でもないが、心に残る物語だったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

キラ☆キラは学生バンド主体で、バンド活動の楽しさや音楽の伝える力が主眼となっていましたが、本作MUSICUS!では、人生をかけて音楽に取り組んだらどうなるのか、とその先を描いた作品になっていましたね。Dr.Flowerを結成せず、音楽への道、花井是清の呪いから逃避する弥子ルートは、最初にプレイするのか、Dr.Flowerの結末をすべて見てからプレイするのかで大きく印象が変わってくる気がします。そういうところも興味深かったです。時間を置いて、またキラ☆キラから通してプレイしたいと思います。

少し自分のことを書かせていただくと…ここしばらくエロゲー含めノベルゲーをあまりプレイしなくなっていて、たまにプレイしても感想を書く気力は湧かない…そんな状態になっていたんですが、この作品ばかりはクラウドファンディングで支援してたし、作品自体もなかなか心に響くものがあって、何かしら書かないではいられない、と久しぶりにそんな気分になりました。
ただ、整然とした感想や考察等は書けないので、以下作中で気になったことの一部を羅列します。

・本作は登場人物が多くて、主人公・馨と一緒に音楽活動を行うメンバーも次々に変わっていく。そこはキラ☆キラやDEARDROPSと一線を画していて良いと思うのだが、掘り下げが足らない部分も気になる。
例えば、田崎さんや風雅はもう少しイベントを絡めて掘り下げても良かったのではないか。また、プテラノドンの怜さんも就職してから登場しなくなるが、公式サイトに載っているキャラだし、個別ルートのどこかで出て欲しかったなと思う。

・三日月ルートはすごく綺麗な終わり方ではあるものの、結局のところ三日月の問題は馨が相手してあげることで大体解決するし、硫酸事件から解決までの流れは唐突で、安易な展開だなと感じた。Hシーンは他ヒロイン1回に対し2回あり、シナリオ分量も多くメインルートらしい作りにはなっているが、三日月の顔に一生消えない傷を残すのはどこか後味が悪い。
(最終作なのでもうないはずだが、)仮にこの世界観の新作が出るとして、三日月ルートをベースにするのはやや違和感がある。好意的に見れば、そういう意味(この世界観の作品は本作が最後であり、Trueルートは存在しないことを示す)も含めてこのような展開にしたとも考えられるが果たして…。

・本作はボーカル曲が17曲もあるが、全部必要だったのだろうか。Dr.Flowerの曲で、物語中でどのような曲かしっかり語られていたのは、「はじまりのウタ」、「Calling」、「Dearly LOVE」ぐらいである。めぐるルートEDの「ココロの行き先」、三日月ルートEDの「Magic Hour」は良いとして、残りの「Ready,Steady,Go!」、「Pandora」、「バスに乗って」は作中で流れました?セットリストで名前だけ出てきた印象しかない。
椎野きらりの「Everlasting」、DEARDROPSの「HOME sweet HOME」も、物語には一切関わらない(一応、「Everlasting」はめぐるルートの仙台からのライブ帰り、「HOME sweet HOME」は花鳥風月のライブ同行の際に車のラジオで流れるのは発見した)。
物語に関わらない曲をたくさん作るぐらいなら、他のシステム部分や演出等のクオリティアップに力を入れるべきではなかっただろうか。ゲーム外の曲は後から別で作ってCD売れば良い話だしね。

・本作にはOPムービーがない。どういう理由でそうなったのか把握してないが、クラウドファンディングで事前にお金を集めてあるから、販促のための動画はいらないということだろうか。ただ、OPムービーというのは、販促の意味だけではなく、作品の印象を付けるのにも重要なのではないか。OPムービーがあることで、この作品にはこの曲、と強く印象付けられるし、クリア後も余韻に浸れるのである。EDムービーに力を入れるのは結構なことだが、だからといって、なくして良いものではなかったと思う。

・花井是清の残した音源であり、その扱い方で三日月ルートと澄ルートを分ける一つのポイントとなっている「Calling」。めぐるルートではこの曲が物語中に登場しないが、最後のライブシーンでセットリストの2曲目として、突然曲名だけが出てくる。これは、めぐるルートでは深く考えず、あっさりDr.Flowerの曲として採用したと解釈すべきなのだろうか。
しかし、どのルートに進もうと馨にとって花井是清の存在は大きいはずであり、この曲を前座として使うのは違和感がある。めぐるルートでは「Calling」の話はなかったことにして別の曲名にすれば無難だったのに、なぜ「Calling」にしたのか。少し理解に苦しむところである。

・定時制高校の担任は、序盤のシーンによると本庄先生という名前である。しかし、Dr.Flower結成ルートに進み、退学手続きをする際は石動先生となっている。いつの間に担任が変わったのか。
石動先生とはキラ☆キラのヒロインの一人、石動千絵のことであり、声も同じであることから、キラ☆キラをプレイした人にはすぐ気づくはずだ。おそらく、制作当初はこういうネタを入れる予定がなく、何らかの事情変更や思いつきだったのだろう。仮に最初から石動先生が担任だったのなら(担任じゃなくても先生の一人としていたら)、弥子ルートのNIGHT SCHOOLERSにも何かしら関わってきそうなものだが、全然出てこない。こういうファンサービスは嬉しいものだが、入れた故に矛盾を生じさせてしまったのは非常に残念だなと思う。