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ysm0624さんの穢翼のユースティア ~新装版~の長文感想

ユーザー
ysm0624
ゲーム
穢翼のユースティア ~新装版~
ブランド
AUGUST
得点
92
参照数
2723

一言コメント

どうしようもなく救いのない絶望的な世界において、最後まで自分の「生きる意味」を追求し続けた人々の物語。進めば進むほど、もう後には引けず、前に進むしかないという悲壮感が強まっていき、クリア後の虚無感・喪失感はかなりのものがあった。各章が実質ヒロインルートになっているため、一本の物語として見るとやや不自然・ご都合主義な感があるのがマイナスではあるが、オーガストらしい優等生的な雰囲気も残しつつ、ダークファンタジーの世界を描き切ったのは素晴らしいと思う。そして、エリスとコレットという、ヒロインとしては面倒くさい女を2章連続で持ってきたのも、なかなかの挑戦ではなかったかと感じた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※最初からネタバレ全開につき注意










物語中盤におけるメルトの崩落は本当に衝撃的でした。
カイムをはじめ主要キャラクターの拠点的存在であったヴィノレタの消滅は、物語の不可逆性を強く意識させます。
実際3章から牢獄がメインではなくなり、上層へと変わりますしね。
そこからカイムも牢獄の代弁者というアイデンティティを喪失し、「自分」というものを持たなくてはならなくなっていきます。

また、エリスとコレットという正直人気が低そうな(実際人気投票ではヒロイン下位だった)ヒロインも印象的でした。
エリスは、カイムが未だ兄の幻影に取りつかれていることを知らしめます。
コレットは、カイムは牢獄民とは言っても最上位の生活を送っており、抜けようと思えばいつでも抜けられそうな立ち位置にいながら、牢獄民の代弁者として振舞っている(実際「牢獄なら~」とか「牢獄では~」とか作中で何回言っていたのやら)ことを指摘します。
2人共ヒロインとしては不人気かもしれませんが、物語の中で良い役割を果たしていたと思います。
まあ、エリスに関しては、2章でルートに入る以外の道は詰みのような状態になっておきながら、ラストはすっかり悟ってしまって独り立ちしていくというのはご都合主義に感じてしまいましたが…。

さらに、ダークファンタジーの世界観でありながら、フィオネとの距離の詰め方や、リシアを諭していくさまには王道的、優等生的なオーガストらしさ(と言いつつ、自分はオーガスト作品は『夜明け前より瑠璃色な』しか知らないのだが…)も残っていたように思います。

オーガストが本気を出せばこうなるのだなと感じました。
BGMも良くサントラを買って何度もリピートしてしまいますし、評価が高いのも納得です。
売れ筋はあまり良くないのか、描き足せる余地はまだたくさんあるというのにFDが出てないのは残念ですね。