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ysm0624さんの結婚主義国家の長文感想

ユーザー
ysm0624
ゲーム
結婚主義国家
ブランド
ウォーターフェニックス
得点
83
参照数
661

一言コメント

少子高齢化対策で18歳になっても結婚できなかった者は死刑という、極端な世界に生きる男女の短編連作ノベル。荒唐無稽な設定ではあるが、それが故に結婚への切迫感が演出され、キャラクターごとの結婚観の違いが如実に表れるのが興味深い。各短編はそれぞれ雰囲気が異なるが、どの作品も程度の差はあれども何らかの仕掛けが用意されていて、一筋縄では終わらないようになっている。そして、最後まで読めばこの物語の真の意味が分かるようになり、バラバラだったはずの短編が完全に一つの物語としてつながっていく。全体を通すとボリュームは結構あり、720円というのは安い。ノベルゲーム好きなら、是非とも体験してみて欲しい作品の一つ。長文感想は最後以外ネタバレなし。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品はDMMで見かけて以来気になってはいたのですが、『結婚主義国家』なんてタイトル、設定からしてイロモノっぽい作品だなあ、強烈な設定だけで押し通す作品じゃないかなあ、と思って敬遠していました。実際、プレイしてみても設定はあまり緻密ではなく、現代日本がモデルでありながら、結婚主義国家になった経緯は少子高齢化対策でそうなったというぐらいしか説明がありません。しかし、18歳までに結婚を義務化し、結婚できないと死刑にするなんてどう考えてもあり得ません。人道的とかそんな話以前に、18歳は若すぎるし、男女で結婚開始年齢に差(現代日本と同様男18歳、女16歳)があるのは不均衡にも程があるし、そもそも生まれてくる男女の数は半々ではないのだから必ず男が余るがそれで良いのか、等々。この作品全体を通して存在感を示すチート的なキャラも存在し、世界設定、キャラ設定に対する説得力は弱いです。ただ、この作品の場合、そんな些細なことはどうでも良いと、思わせられるだけの熱量がありました。

この作品は8つの短編+αから成る訳ですが、それぞれ男女のペアがメインとなり進行します。全て結婚をどうするかという問題が関わってきますが、各短編で雰囲気が大きく異なります。例えば最初にプレイできる『独身監獄』は閉鎖空間モノでデスゲーム作品に近い雰囲気があったので、そういう系統の作品かと思ったのですが、それは最初だけでした。ただ、どの話もプレイしながら何らかの違和感、引っ掛かりを感じるように作られていて、最後には予想の斜め上を行くような結末が待っています。とはいっても、短編ごとに読後感は違っていて、衝撃の結末にショックを受け、「そうきたか」と唸ることもあれば、「あれ、こんなものか」とあっさりとした感じで終わったり、「どこか納得いかないなあ」と消化不良な感覚が残ったりするものもありました。しかし、それは各短編のキャラの結婚観の違いによるものでもあって、その違いを味わうのもこの作品の醍醐味ではないかと思います。

各短編は一応独立した話ではありますが、全て同じ地域での出来事であり、他の短編のヒロインが登場することもしばしばあります。その点においては、エロゲで言うと『サナララ』にプレイ感覚が近いでしょうか。ただ、本作は『サナララ』よりも各短編の関連性が強く、一つの短編だけではその物語の真の意味が分からないようになっています。各短編はあくまでその話の主人公視点からしか見ることができません。どれも物語としては綺麗に終わりますが、「あのキャラは結局何だったんだ」という謎のままで終わるキャラが存在するなど、全てがスッキリする訳ではありません。

それを解決するのが+αの部分となります。正直、8つの短編をクリアした段階では、確かに面白いが70点台かな、と思っていましたが、その後の熱量に押されて点数を上げざるを得ませんでした。そこで何が描かれるのか、というのはネタバレになるので書けませんが、全体を通した真の主人公が明かされ、各短編が完全に一つの物語としてまとまっていく様は圧巻でした。ボリュームも多く用意されていて、8つの短編は前座でしかなかったという印象になっていきました。全体を通してのボリュームは、はっきりとしたことは分かりませんが、20時間近くあったような気がします。最初に書いた通り、ご都合主義的な部分や世界設定の甘さからすると突っ込みどころはたくさんありましたが、そんなことはどうでも良いと思える熱さがありました。最後には様々な個性・結婚観を持つ登場キャラを全員応援したいような気分になりました。

個人的なことですが、自分はここしばらくエロゲ含めてもまともに感想を書いてなかったのですが、本作は久しぶりに感想を書きたい衝動に駆られた作品になりました。ノベルゲーム好きの人には是非触れてみて欲しい作品です。今のところネット上の感想もあまり見当たりませんが、この作品についてはもっといろんな方の感想を見てみたいと感じます。スマホ版だと最初の4つの短編を無料でプレイできますし、この感想をここまで読んだ方は一度体験してみることをお勧めします。

以下、ネタバレ全開の雑文




















雅文が真の主人公であったこと、それがこの作品で一番の驚きでした。確かに雅文は他の短編に絡むことがなかったので、言われてみれば納得でしたが。『単独結婚』の物語は、利用するつもりで近づいたはずなのにいつの間にか惹かれていた、という王道パターンの物語かと思いきや、最後まで雅文の心は変わらず、沙羅の方から契約として結婚することを申し出るという衝撃的なものでした。そして、エピローグで沙羅のしたたかさが非常に印象に残りました。ただ、それまでの過程をひっくり返す結末は、今までの話は何だったのだろうと感じてしまう部分もあり、結婚生活の中身も見たかったという思いもありました。それが『愛情試験』とショートストーリーで完全に補完されました。

雅文という人間は、孤独を好み、結婚したらすぐ死んでほしいと女性に言ってしまうような自己中の酷い奴です。そういう雅文が、その本質は不変でありながら、娘・桜との関係に悩み、最後には心から娘を愛し、世界を変えるべき行動を起こす。その心の揺れ動きにはなかなか心を打たれるものがありました。かくいう自分も雅文程ではありませんが、基本的に群れるのが嫌いな一人行動派ということもあって、共感できる部分も結構ありました。

また、この作品はキャラ、カップルの個性が強いのも良いですね。死の直前に手紙を残し、死んでなお強い影響力を及ぼす桔梗はさすがにチート過ぎないかという気もしますが、彼女の貫いた信念が、6年後やっと日の目を見るシーンは感慨深かったです。他にも皆良いキャラをしているので、人気投票(個人でもカップルでも)をしたら面白いんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。ちなみに、自分の中でのベストカップルは聖也×椿ですね。一見聖也が一方的にアタックしているようでありながら、聖也にベタ惚れの椿が微笑ましいです。そして、ショートストーリー最後の『開花した日』ではちゃっかり「聖也さん」と名前で呼ぶようになっているのは見過ごせません。また、キャラで一番気になるのはガーベラです。彼女は最後に出てくるうえ他キャラとの絡みが薄いので出番は少ないですが、出たときは奇妙な言動で強烈な印象を残してくれました。基本的にこの作品はショートストーリーまで読むと、描くべきところは全て描かれていて、これ以上望むものはないのですが、ガーベラに関してだけはもう少し掘り下げてみても良さそうです。明との夫婦生活は今後どうなるのでしょうか。仮面を付けたままでの夫婦生活ではいずれ持たなくなるでしょうから、いずれは仮面を外して明と向き合うことができるようになるのでしょうか。想像するだけで面白そうです。