専用ソフトを作って描き出された美しい星空、随所に使われていた臨場感のあるバイノーラル録音音声、天文部という一見地味な活動に目を輝かせて情熱を燃やすキャラクター等によって描き出される、至高の雰囲気ゲー。こういう作品をプレイすると、文章だけではないノベルゲーの良さを痛感させられます。シナリオは起伏に乏しく、突っ込み所もありますが、盛り上がるべき所は盛り上がるし、何より雰囲気が良いのであまり気になりません。前作のようなごく限られたコミュニティでの話ではなく、他の地域や社会との関わりを見せてくれるのも良かったです。読み応えのあるシナリオを求めるには向きませんが、プレイしていて癒される、敷居の低い良作でした。
前作『この大空に、翼をひろげて』をプレイした時に自分が感じた主な不満は、
・ごく限られたコミュニティの話であること
・コミュニティ外の友人や大人(男)の魅力が全くないこと
というものでしたが、本作はこれが大分改善されていたと思います。
むつらぼしの会自体6つの学校の天文部の集まりであり、ある程度広がりのあるコミュニティでしたが、プロジェクト・スターライトでは地域の人はもちろん、他の学校、そして日本全国を巻き込んだ大規模な話になりました。男キャラに関しても、前作の柾次は存在意義に乏しく、飛岡先生は何の魅力もない悪役、という残念な感じでした。しかし、本作の武一は天文部外ながら時々活動にも参加(鳴枝ちゃん目当て?)し、他にもころなの兄としての役割などで存在感はあったし、プラネタリウム館長の森田さんはいい感じで大人の壁を演出してくれていました。まあ、その他男天文部員も合わせ掘り下げが薄いとは感じますが、そこは美少女ゲームなので仕方ないでしょう(余談だけど、女キャラながら最後までひかりの影に隠れて地味だった加納さんはやや残念)。
また、本作は何にも増して演出・グラフィックのレベルの高さが際立っています。前作もクオリティは高かったですが、本作は当然のことながらさらに上回っています。専用ソフトによる星空の美しさは素晴らしく、子供のころに天体望遠鏡やプラネタリウムで見た星空の光景を思い出しました。音声においても、随所に使われていたバイノーラル録音による臨場感は凄まじいものでした。そもそもバイノーラル録音という存在も知らずにプレイしたので、最初に聞いたときは、「何だこれは、ヘッドホンの端子を付け忘れたのか」と思わずヘッドホンを外して確認してしまう程の衝撃でした。自分は基本旧作ゲーマーで絵の良し悪し等はあまり評価に影響させないのですが、本作に限ってはこの演出力で確実に点数が上がりました。こういう作品をプレイしてしまうと、10年前の作品にはなかなか戻れなくなりますね。
ただ、いくら演出力に圧倒されようが、シナリオにおける残念なポイントはどうしてもある程度は気になってしまうものでして、例えば本作においてころなというヒロインはいろいろと割を食ってしまったキャラクターだと感じました。彼女は無邪気な妹系ヒロインでありながら、勉強が得意で集中力もある才女という設定ですが、その頭の良さに反して精神面の幼さが目立ちます。その最たるものが沙夜に対する態度であり、客観的に見てどう考えても善良な人間である沙夜を悪として敵視し続けるのは、頭の良い人間のすることとは思えません。頭(理性)では分かっていても感情面ではどうしても受け入れられない(ひかりルートや沙夜ルートではご都合主義的にそんな感じになっているが…)、というなら分かりますが、ころなルートで「魔女め!」などと言って憎悪しているのを見ると、本気で理解していないというのが見て取れます。そのくせ、真相を知ったらすぐに和解して仲良くなるというのは不可解で、それなら最初からそんな一方的な悪意を持つことはなかっただろうと思ってしまいます。ころなルートは他にも付き合いだしたことの沙夜への報告が適当に流されていたり(丁寧に描かれていた織姫ルートと対照的)、ひかり/沙夜ルートの肝である手紙の問題をあっさりネタバレしてしまったり、と本作の悪い部分を一手に引き受けたような印象でした。シナリオの本筋で言うならば、電波観測という共通ルートや他ヒロインルートとは一味違ったテーマを持ってきたのは面白いと思いましたが(これはシナリオの本筋が駄目だった前作のあげはルートとは違う)。
さらにもう一つ、Hシーンがシナリオ上ほとんど意味を成さないことも気になりました。本作は1ヒロインあたり4~5回で尺も長め、と比較的Hシーンは多めですが、シナリオ上Hをしたということ以上にほとんど意味がありません。すべてカットしてもシナリオに何の問題もないでしょう。コンシューマ化を考えてそうなったのかどうかは分かりませんが、非抜きゲーとしてプレイする以上、ある程度はシナリオ的な必然性が欲しいんですよね。まあ、これはエロゲで抜こうとか一切考えていない(基本Hシーンは雰囲気だけ味わってスキップ)自分だからそう思うのかもしれませんが、数だけ入れれば良いでしょ、という風に感じてしまいました。
…これ以上欠点を論うのはやめておきます。
いずれにせよ、本作は前作のような動きのあるキャッチーな題材ではないのにも関わらず、生き生きとしたキャラクター達の雰囲気と、演出力の高さによって、全然遜色のない作品になっていました。好みは分かれるでしょうが、自分は本作の方が好きですね。メインのひかり/沙夜ルートにおける三角関係は、三人でずっと一緒にいようなんて言い出すのでWA2を思い出してヒヤリとしましたが、深刻になりすぎることはなく、それでいて三角関係の面倒くさい心の動きはしっかりと描かれていたのでとても良かったと思います。このシリーズ、次があるのか分かりませんが、出るのなら是非チェックしておきたいですね。本作のように、シナリオに不満があったとしても、全体的には満足させてくれるような作品を期待したいです。