これは完結すればかなりの良作になりそうだ、と大いに期待させてくれる一作目だった。シナリオにも、ゲームシステムにも、OPアニメーションなど演出にもかなり凝ったものを感じ、そのまま商業作品として出しても良いのではないかと思えるぐらいのクオリティだった。そして、終盤の展開はなかなかに燃えた。ただ、ボリュームからすると値段は高めであり、同人でここまでお金をかけて作り込む必要があるのか、と疑問に思わなくもなかったが、このクオリティで出してくるなら仕方ないのかな。声も主人公以外フルボイスであり、しっかりとしたプロの声優を使っているので外れがない。自分はそんなことは知らず声優陣もチェックしていなかったので、いきなり古河徹人ボイスが聞こえた時は驚いた。
ストーリーやゲームシステムについては、公式サイトや他の人の感想を見れば分かるので触れません。
この作品の特に印象的だった部分を挙げるなら、独特な個性を持ったキャラクターだろうか。主人公・勇とその家族、ヒロイン、主人公と協力するマツロワヌモノタチや東、南川といったキャラクター達は皆個性が強くて面白い。良い人達であることは確かだが、独自の価値観を持っていて、無条件で人助けをするようなお人好しではない。今作には序章と一章しか収録されていないのでまだまだ掘り下げは不十分だが、各自それぞれの思惑がありながらも事件の解決に向けて協力していくさまは非常に興味深かった。
ヒロインである千春も、ストーカーか、ヤンデレヒロインか、と思えるぐらいに勇に執着しているのだが、距離の取り方を弁えており、無理に接近しようとはしないので不快になることはない。この距離感が何ともたまらない。勇にも千春にもまだ明らかにされていない過去や設定が隠されているのは明らかなので、早く続きが読みたいところだ。
シナリオの終盤は予想外に熱かった。バトルがあるのはもちろんのことだが、とあるキャラの心の叫びにはグッとくるものがあった。そのキャラの背景や心情が余すことなく描かれるので、とても感情移入しやすかった。
そして、声も良いんだよなあ。批評空間の項目に声優含めクリエイターを追加したのは自分なので、最初に見た時は何もなかったし、公式サイトのキャラ紹介も一部しかチェックしていなかったので知らなかったが、調べてみると全員プロの声優が使われていたようだ。自分は声優には詳しくないので南川役の古河徹人ボイスが聞こえるまで気が付かなかったが、よく考えると聞き覚えがある声がいくらかあった。例えば他にも東の声は、自分が最近プレイした作品で言うならば、レイライン朝霧の失態さんこそアーリックの中の人が演じていた。まあ、別名義ではあったけれども。ただプロの声優を使っているだけではなくキャスティングも良く、キャラの個性がうまく出ていたと思う。
そんな感じで非常に先の期待ができる作品だった。今作だけでは残された謎が多く、物語の展開も限定的なので、自分の中では80点を付けるには至らなかった。けれども、今後推理パートも本格化していくようだし、二作目、三作目と続いていく中でどんどん評価が上がっていきそうな予感がする。このクオリティで出し続けるとなると完結するまで結構時間がかかるかもしれないが、長い目で見守っていきたいと思う。少なくとも、次回作はDL販売で出たらすぐ買うつもりでいる。間違っても「EDEN -最終戦争少女伝説-」みたいに失踪だけはしないでおくれ。