これは素晴らしい鬱ゲーだ。ギャグも皆無で淡々と進む部分が多いのにダレることもほとんどなかった。ただ分かってはいたが、三章は夕奈の異常性があまりに強烈すぎて全体から浮いている気がしたのがちょっと残念。
一つ一つの話は割と単純なものであるし、どうせ鬱になるんだろうと分かっていても不思議と引き込まれてしまう作品だった。
一章は最初から死亡フラグ全開の二人なのに、どうにかして救われてほしいといつの間にか感情移入してしまい、最後は泣けてしまった。
二章は割と明るく、ここからどう鬱になるんだと思ったところで、人柱の穴を見た瞬間の衝撃は計り知れない。単純な自己犠牲モノなのにこれもまた…
四章は過去と現在がシンクロしつつ、銀糸の制作背景が描写されていく演出が良かった。
錆は銀糸にまつわる様々な時代や人々の物語が一つにつながり、あやめの花が咲くさまは、感動せずにはいられない。
そして石切編、これは完全版で追加されたようですが、各章の間に挿入されておりプレイを続ける動機づけにもなったし、理解を深める為にもあって良かったと思う。
ただ三章はどうも合わなかった。
銀糸を乱用したあげく、夕奈と結び付けようとした志朗を逆に好きになってしまう。それなのに夕奈の事をずっと好きでいようと自分は身を引こうとする。そのくせ自分を卑下して、無意識にか、志朗に媚びを売っていい子じみた言動を取る。このような朝奈に悲劇の原因があるというのは確かなのだけれど、夕奈の変わりっぷりがあまりに急なうえにひどすぎるので、置いて行かれる感じがしてしまった。夕奈は朝奈が裏切った、裏切ったとしつこく攻めるけど、夕奈がヤンデレ化しなければ夕奈に対して純粋な好意を持つ朝奈は自らの恋は諦めてバックアップに回り、夕奈が志朗と結ばれた可能性は決して低くはなかったはず。もちろん、そのまま夕奈と結ばれてハッピーエンドとするわけにはいかないが、一旦夕奈と結ばれた後からでもドロドロの三角関係にすることはできたと思う。また、朝奈に死ねとまで言うようになった夕奈には、実は志朗と知り合う前から密かに朝奈への恨みを積み重ねていた、というような事情があるのかもしれないと思ったが、そこまでのものはなさそうだった。普通、仲良かった姉妹がたった一つの問題で死ねとまで言うようになるだろうか。まあ、夕奈にとっては志朗は初めて意識した異性であったし、人間の心理、特に恋愛感情においては論理的な価値判断の通りにはならないというのはよく分かるのだけど、あまりに夕奈の異常性が目立ちすぎて、物語としては残念に思えてしまった。あと、三章の主人公である志朗。彼の主観で描かれる部分が少ないので掘り下げはほとんどないし、クライマックスのシーンでは朝奈を絞めようとする夕奈に何もできず立往生するうえに最後は銀糸を刃物と間違える始末。何やってるんだ、この主人公。このあたりも評価を下げる点になってしまった。
そして英語版。これを評価している人はほとんどいないようだけど、自分は評価したい。英語版はまだ一部しかやってないけど、割と平易な英語で書かれているし、ある程度の英語力があれば二週目に最適だと思う。少なくともTOEIC600程度の自分には問題なく読めそう。おそらくもっと英語力が下の人でも大丈夫でしょう。ボイスはちゃんと日本語の音声がそのまま流れるので、多少分からない部分があってもガイドになってくれる。日本語のセリフがどのような英語になってるかを確かめるもの一興。無印版では英語ボイスもあったようですが、日本人声優の微妙な英語を聞くよりも、読む方に特化してこっちの方が良いんじゃないでしょうか。まあ、英語そのものはネイティヴからすると違和感を覚える書き方だ、というのをどこかで見た気がするし、英語の勉強としては微妙かもしれませんが。