グランドルートの完成度の高さには圧倒させられた。「吸血鬼など何処にもいない」という主人公・トシローの信念は、クリアする前と後では大分重みが違って聞こえてくる。吸血鬼になれるものなら一度なってみたいなあ、なんてミーハーな思いを持ってプレイしていた自分は大いに反省させられた。そして、理想通りにはいかないことばかりの現実の中で、どのように前を向いて生きて行けば良いのかというメッセージ性に感じ入るものがあった。各ヒロインルートも、キャラの信念は不動でありながら、問題の解決方法がそれぞれ異なっているのが面白かった。全体としてはややエンターテイメント性に欠けるので取っ付きにくい部分もないではないが、最後までプレイした価値はあったと断言できる作品だった。
それにしてもアイザックがグランドルートのメインヒロインとはねえ。これが一番の驚きだった。プレイ前にアイザックの人気が高いことは調べて知ってはいたけど、トシローへの思い、憧れがこんなにも強いとは思っていなかった。決闘シーンもそうだけど、美影と並んでトシローに声を掛けるシーンとか、完全にヒロインの立ち位置でしょ。
この作品は、本当に完成度が高い。普通、気に入った作品は続きが読みたい、FDがプレイしたい等と思うものだが、本作に関してはこれだけで満足してもう他に望むものがない。もっとも、あまりにもチートキャラだったクラウスとか、出番はあるものの後半はお助けキャラ状態だったアルフライラとか、実際の強さを見せずにあっけなく死んでいった藍血貴3人とか、掘り下げる余地のあるキャラクターがいるのは確かである。しかし、メインであるトシローの物語が幕を下ろし、ヒロイン達(特にアンヌのケイトリンに対する語りが印象的)が悩みながらも前を向いて生きているのを見ると、これ以上この世界があれやこれやと動くのを見たいという気分が全く起こらないのだ。
そんな感じで非常に満足度の高い作品だった。作品としての重厚さ、規模の大きさではDies iraeの方が上だけど、自分の好みで言えば、この一作だけで十分すぎるほどまとまっている本作の方が上かな。このチームの作品はまたプレイしたいと思う。