自分は雪菜派という訳でもかずさ派という訳でもなく、どちらかと言えばキャラとしては雪菜の方が好きかもしれない。けれども、雪菜ルートがオーラスだ、これを最後に持ってくるべきだという意見には納得しかねる。雪菜の負け癖にハマってしまった自分はかずさルートを最後にするしかなかったし、ICから繋がる「WHITE ALBUM2」らしさ全開なかずさルートこそが最後に相応しいと感じた。あと、本作で最も台詞数の多いヒロインは雪菜だろうけど、中でも最も萌える声は、照れたときに思わず息を吸い込むあの声だと思う。
※最初からネタバレ全開につき注意
●全体的な印象 -主に雪菜について-
もう4年前の作品だし、発売当初からある程度情報を調べていたこともあり、codaの存在はプレイ前から知っていました。そのため、最初から攻略サイトをいくつか見ており、codaは雪菜ルートを最後にすることを勧めるというような文言が散見されたので、まあそんなものかと思ってプレイしていたのですが…
(この感想を書きながらいろいろ調べていると、必ずしも雪菜ルートを最後にするのが通説という訳ではないようでして…。そこは安心しました。)
しかし、いざプレイしてみると、どうしてもかずさルートを最後にせざるを得ませんでした。それは、雪菜は春希と付き合っている時より、振られた時の方が魅力的に感じられるからです。CC3ヒロインルートにおいて、春希に振られても決して春希を責めず、泣きながらも笑顔で送りだす雪菜は、(たとえ心の中は黒く煮えたぎっていたとしても)最高に美しい敗者で、何この天使、真顔で言いたくなるというぐらい魅力的でした。中でも小春ルートにおいて、春希を笑顔で送り出し、敵であるはずの小春をアシストし、それからやっと春希のアドレスを携帯から消去して泣くことができた雪菜の姿には、かなり惹かれるものがありました。
かといって、春希がしっかりと向き合ってくれればすんなり結ばれるという訳ではないんですよね。CC共通ルートのクリスマスイブの破局から既に表に出かけていましたが、いざ春希が手に入りそうになると、ただの天使ではいられなくなり、彼女の黒い部分、わがままで欲張りな部分を隠すことができなくなる。CC雪菜ルートでは柳原朋の荒療治によって歌を取り戻し、春希とも晴れて結ばれる訳ですが、それまでの過程のグダグダな所から若干テンションが下がりました。もちろん、そういう部分もあってこその雪菜だし、かずさへの想いが決して消えることのない春希の問題は無視できませんが、そんな春希を十分熟知したうえで他の男を一切相手にしないぐらいこだわっているのなら、あっさり結ばれてやれよと思ってしまう。
そんな感じで敗者としての雪菜により魅力を感じていた自分は、coda雪菜ルートを最後にする気にはなれず、雪菜ルートを先にプレイしました。自分の中ではこれは大正解でした。クリアした時感じたのは、確かに coda雪菜ルートは大団円ルートであり、最大多数の最大幸福が実現されたルートだけれども、ICからの流れを考慮すると、あまりに甘すぎるということ。こんな甘々な結末でこの「WHITE ALBUM2」という大傑作が終わってしまって良いのか、と非常に違和感が残りました。
雪菜ルートでは、春希の手に負えなくなってしまったかずさへの対処を雪菜が任されます。そして、かずさと本音でぶつかり合い、最終的に軽音楽同好会の3人を取り戻すという、春希にはどうやってもできない結果を導き出します。それだけにとどまらず、最後は今までほとんど表には出さなかった黒い感情を春希にぶつけて罵り、その上で春希のプロポーズを受け入れます。見た目的には紆余曲折がありながらも最後は至極真っ当な形に落ち着く、読後感の良い余韻を残すルートなのだけれども…
自分にはこのルートの雪菜はあまりにも強すぎるように映り、正直見ていられませんでした。天使どころかむしろ女神と言いたくなるぐらいの強さを誇る雪菜。かずさとの口喧嘩は表面上お互いの本音を戦わせる清々しい大喧嘩だけれども、客観的に見れば、振られて逃げて引きこもっているかずさにはどうやっても勝ち目はありません。これは、かずさのことを考えると物凄く辛かった。
このルートでは春希に対してだけではなくかずさに対しても、他ルートでは「春希君は悪くない」一辺倒でほとんど見せなかった、春希を貶める発言が印象的です。
「嘘だらけで汚くて卑怯な人」とか、「すごく真面目に考えて、思い悩んで、正しい結論に辿り着いた上で、自信満々に逆の選択をしてる」とか…
そして、かずさのことも「あなたが彼を5年も放っておいたからじゃない!」と糾弾し、それでもかずさのことが大好きと断言して取り込もうとする雪菜。
このルートの雪菜は自信満々なんでしょうね。春希は雪菜を選ぶのが正解であり、かつかずさも合わせて3人でいるのが一番なのだと。そして、自分ならそれが実現可能である、と。
確かに、雪菜からするとこれは正しいはずです。雪菜と春希にはCCとその後に2年間の重みがある訳ですから。やっとの思いで手にした春希を手放せるはずがない。
しかし、春希にとっての正解は、間違いなくかずさを選ぶことなのです。それは、「顔が好みだったからだよ!一目惚れだよ!」なんて浮気ルートで春希自身が語っているようにクソみたいな始まりかもしませんが、これがICから最後まで不変の真理なのです。このかずさへの想いは、雪菜を選ぶと決めたcoda雪菜ルートですら捨てきることはできませんでした。
ただ、この単純明快な正解を徹底的に選びにくくしているのが「WHITE ALBUM2」という作品の肝であり、春希には5年間で培った様々な人間関係、社会的立場がのしかかります。客観的に見れば、codaで雪菜にプロポーズするところまで行った直後に雪菜を捨て、かずさを取りに行く春希は、どうやっても擁護しようがない、クズ野郎です。けれども、逆に考えると、それだけの社会的・道義的責任を上乗せしなければ雪菜はかずさに対抗できないのです。
そう考えると、coda雪菜ルートは雪菜にとっての正しい結末を、雪菜の強さによって無理矢理にも実現させられるルートであり、どうにも気持ち悪さが残ります。タチが悪いのは、これが外面的なものだけにとどまらず、春希やかずさの内面にまで影響を及ぼしてしまったということです。春希も最後には雪菜を「選んで良かったって、心の底から、思えてしまった」と心の中で語っています。これを、かずさへの想いを完全に断ち切り、雪菜>かずさになったのだと読めれば素直に祝福できたかもしれませんが、自分が読む限り全然捨てられていません。雪菜を選んで良かったと思えてしまったのは、もはや人外レベルと言って良い雪菜の強さにやられてしまった、ただそれだけのことです。
雪菜が春希もかずさも何でも手に入れ、それだけに飽き足らず春希の母子問題にも介入しようとする、そんな雪菜大勝利のcoda雪菜ルートは、雪菜が主人公なら最高のTrueルートでしょう。しかし、「WHITE ALBUM2」という物語の主人公は、雪菜ではなく春希です。春希視点でしか見ることができない自分には、これがオーラスだとは決して認められませんでした。
雪菜は自分でも認めていますが、物凄く欲張りでプライドが高い人間です。自分が負けそうな時は望みそのものが小さいフリをするくせに、いざ手に入りそうになると欲張りな本性を丸出しにして、何もかも手に入れられなくては済まなくなってしまう。ICでは自分が春希に告白したのはどうしても春希と恋人になりたかったからじゃない、3人でいたかったからだなんて言っていますが、どう考えても嘘(あるいはそう思い込んでいる)ですよね。もちろん、ずっと3人でいたいという気持ちを持っているのも確かでしょうが、春希を自分のものにしたい気持ちはそれ以上に強いのです。ノベルの「Twinkle Snow ~夢想~」を読むと分かりますが、3人でいれても春希と恋人になれない結末に雪菜が耐えきることはできません。他ヒロインに負けそうになると「春希君は悪くない」を連呼したり、特にかずさ相手の場合は、春希への想いは「かずさほど…真剣じゃ、なかった」なんて負け惜しみを言ったりするのも、同様の嘘でしょう。
…とまあ、雪菜ルートや雪菜の批判ばかり書いていると、雪菜のことが嫌いみたいですが、決してそんなことはありません。嫌いなキャラのことをここまで語る気にはなりませんから。逆にかずさは普通に魅力的なヒロインだと思いますが、雪菜のようにあれやこれやと書く気にはなりませんでした。ICでは孤高を気取った憧れのヒロインだったのが、CCでは完全な忠犬と化す。言葉では春希と距離を置こうとしながらも、本能は全く抑えられていない。そんなところは春希と似たもの同士でお似合いのカップルだとは思いましたが。
当たり前のことですが、この作品は雪菜なくては成り立ちません。物語が動き出すきっかけを作ったのは春希とかずさのお互いに一方通行だった片思いかもしれませんが、その後はほとんど雪菜中心で物語が動いていきます。良い部分も悪い部分も合わせ、この作品で最も作り込まれているキャラが雪菜であり、雪菜ルートという大勝利エンドが用意されているのは優遇されていると言うべきかもしれません。しかし、春希の相手として見るならば、一度もメインヒロインになれなかったのではないでしょうか。
小春、千晶、麻理のCC3ヒロインルートを思い出すと、春希は今自分が一番好きな相手は誰か、今一番側にいて欲しい相手は誰かと真剣に考え、能動的にヒロインを攻略しに向かっていました。これらのヒロインを選ぶ時は、かずさと再会する将来を想定していない事情があるにせよ、その時その状況の中で一番好きだと心から思える相手を選んでいました。対かずさでは不戦勝というか、そもそも戦おうともしていませんが、春希にとってICのトラウマを呼び覚まさないCC3ヒロインが相手ではそれが可能だったのです(千晶ルートは違う形で抉ってきますが…)。もっとも、ED後かずさと再会したらどうなるのか、という問題もありますが、そこは作品の主題からは外れる訳だし、深入りするべきではないでしょう。
その反面、雪菜が一番になったことは一度も無かったように思います。春希が雪菜に向き合うと、春希の中で雪菜とかずさの激しいせめぎ合いが繰り広げられます。しかし、前述の通り、春希にとって正しい答えはかずさを選ぶことです。それでも雪菜を選ばざるを得ない春希の本心を考えてみると、ICでもCCでもcodaでもいつもこんな感じだったんじゃないでしょうか。
「雪菜は一番じゃないが、好きか嫌いかと問われると間違いなく好きだし、付き合う相手としてはレベルが高すぎて文句のつけようがない。これまでの積み重ね、周りからのプレッシャーもあるし、この状況で雪菜を選ばない訳にはいかない。」
こんな中途半端な気持ちで選ばれる雪菜はたまったもんじゃないですが、春希と雪菜の関係には、どうしてもかずさという高すぎる壁を避けて進むことができません。そんな、優遇されているのかされていないのか分からない、絶妙な立ち位置にいるのが、小木曽雪菜というキャラクターだと思います。
それでは、春希と雪菜が結ばれるためにはどういう形がスッキリするのかというとなかなか難しいのですが、作中で語られている中ではやはり浮気ルートでしょうか。浮気ルートの春希は、かずさに手を出したことをきっかけにかずさにどんどん溺れていき、現実と折り合いを付けられずに逃げることしか選択できず、精神にまで異常をきたしてしまいます。この春希は見ていて不快で作中一番のクズとなり下がっていましたが、「そんなぶっ壊れたお前が、本物の、あたしの春希でなんかあるもんか!」と春希の壊れっぷりを指摘し、自分といては春希が駄目になる、と別れを切り出すかずさは非常にカッコよかったですね。そして、それでも春希を見捨てない雪菜は最高の天使でした。
このルートは一度かずさを選ぶと決め、かずさとしっかり向き合ったうえで破綻している訳ですから、ICの結末とは全然違います。かずさへの想い自体に変わりはないかもしれませんが、一度ここまでの挫折を味わったことで、雪菜との関係も今までより一段上にランクアップしていくんじゃないかな、という予感を見せてくれました。CS版ではこの浮気ルートのEDとエピローグの間の話が追加されているとのことですが、春希が社会復帰していく中で、雪菜がどのような役割を果たしたか、雪菜との関係がどのように進展していったかが描かれているのでしょう。機会があれば読んでみたいと思います。
●codaかずさルート、春希という主人公について
…これでやっとかずさルートのことに話を持っていけます。かずさルートでは、春希がこれまでの5年間、あるいはそれより前から築き上げてきた人間関係、社会的立場をすべて捨て去り、かずさと共にウィーンに去ることになります。雪菜を、開桜社の先輩方を、依緒、武也ら友人達を、小木曽家の人々を、それぞれ裏切り失望させ、関係を断ち切っていく過程は読んでいて非常に辛かったです。けれども、それほどまでの選択をした分、一番好きなだけ人を守ると決めた春希の意志の強さも感じられました。
春希という人間は何か突出した能力がある訳ではありませんが、学業成績が良く真面目で、コミュニケーション能力が高く、仕事の出来も優秀で、多くの人から信頼される社会能力が非常に高い人間として描かれています。こんな奴、モテるに決まっているじゃないですか。正直、リアルにああいう人間が身近にいたら劣等感に苛まれそうで嫌ですね。ブラック企業(開桜社もかなりブラックっぽいですが)でも嬉々として働き、結果を残し、昇進していきそうな気がします。そのくせ恋愛になると、理性的な振りをしながら気持ち悪いほど本能に引きずられてしまいます。現実に折り合いを付けることがなかなかできません。
こういう人間にしたのは大分意図があってのことなのでしょう。普通に雪菜と結婚していれば、人並み以上に幸せな家庭を築いて順風満帆な人生を送れたはずなのに、そういう将来を全て捨て去ってしまう。ただ、ここにカタルシスがあるのです。他のルートでは選べなかった、あるいは選んでも破綻していた春希にとっての「正解」を、やっと正面から選ぶことができた。社会性を捨てて本能の赴くままに生きることも(浮気ルート)、現実と折り合いを付けて生きることもできなかった春希が、5年もかけてようやく自分の道を進むことができたのです。散々愛に満ちた罵倒をしたうえでかずさに告白するあのシーンは、雪菜との対比で考えても印象的でした。春希が雪菜から罵倒されることはあっても、雪菜を罵倒するなんて絶対無理ですからね。雪菜は決して「春希くんに『あいつ』と呼ばれる女の子」にはなれないのです。
客観的に考えると、雪菜を5年も振り回し、2年付き合いプロポーズまでしたというのに、たった数週間で完全に自分本位な理由でそれをぶち壊していく春希は、擁護しようがないクズです。でも、プレイしている時、そういう春希をカッコいいと思ってしまう自分がいました。極端な言い方ですが、ICからの5年間の積み重ねは、ここでぶち壊す時の痛みとカタルシスを与えるためのものだったのではないでしょうか。雪菜ルートの存在は否定しないし、あれはあれでプレイして良かったとは思いますが、この5年間の愛憎劇に決着を付けるなら、自分にはこのぐらいの痛みを伴うラストの方が相応しいと感じました。
とは言っても、かずさルートで断ち切った人間関係は二度と修復されることはないとか、修復されるべきではないとは思いません。確かにかずさを選んだ当時はそういう気持ちだったでしょうし、簡単に修復されては本末転倒ですが、春希もかずさもここが人生の終わりではなく、普通に生きればまだまだ倍以上の人生が残っています。時間で解決できない問題もありますが、時間で解決できる問題もあるはずです。エピローグを見る限り、日本に残された面々は春希ショックを克服できた部分もあれば克服できていない部分もある、という感じですが、将来的な関係修復を示唆したエンドだと自分は受け取りました(ビデオレターの中でドイツ語で語りかける雪菜は意味深ですが…)。もちろん、coda以前の関係には戻れるはずもありませんが、5年、10年と経っていけば、いずれ再会して当時の事を懐かしく語り合える時が来るのではないでしょうか。そのようなことを考えながらプレイしていたので、意外なほど読後感が良く、スッキリとした気持ちで終えることができました。
最後に、主人公である春希の評価についてですが、自分は「主人公がダメ!」のPOVではなく、あえて「主人公が素敵」のPOVに入力しました。確かに、春希はクズだとしか思えない行動を取ることが多々ありました。台詞にも酷いものがたくさんあり、中でもcoda雪菜ルートラストにおける、「俺を…罵って。怒って。責めて。叩いて」「そして最後には………俺を許して」という台詞はあまりにも気持ち悪くて身が震えました。それでも、その行動に至る心理は生々しく描かれており、理解は容易にできました。それに、そもそも「主人公がダメ!」のPOVは、説明を読むと主人公が駄目なせいで作品全体の評価を下げていると感じた作品に付けるものなんですよね。この作品の場合、主人公があの春希でなければ話が全く成り立ちませんし、主人公のせいで評価を下げる作品にはあたりません。作品全体を低評価している人なら問題ありませんが、高評価しながら「主人公がダメ!」のPOVを付けている人は、何か違うんじゃないかと思います。
また、「主人公が素敵」のPOVを付けた理由ですが、それは前述のようなスペックの高さに加え、ここまで恋愛に妥協せず理想を追い続ける春希に憧れる気持ちもあったからです。良くも悪くも、現実世界でここまでできる人間はなかなかいないでしょう。まあ、春希もフィクションの存在な訳ですから、こんな奴いるわけないと言ってしまえば終わりですが、いてもおかしくないと錯覚してしまうぐらい、説得力のある描き方をされていました。クズだけど、最高の主人公だと思います。
●評価、不満点について
この作品について、自分は100点を付けましたが、それは非の打ちどころのない作品だったから、という訳ではなく、100点以外付けようがなかったという感じです。4年も前の有名作で、議論も尽きたはずの作品に、自己満だって分かっているのにわざわざここまでの長文を書いてしまうぐらいハマってしまった作品ですからね。
自分は今まで恋愛そのものをメインテーマとして扱った作品にはあまり興味が持てず、評価が高くてもプレイを見送ることが多々ありました。この作品のことを知りながらもこれまでプレイしてこなかったのはそういう理由であり、いくら評価が高かろうがエロゲでドロドロの三角関係なんて嫌だ、と思っていたのですが、プレイしてみてこれが完全な間違いだったと分かりました。特殊な世界観や設定は何もない、“普通”の恋愛物語でしかないのに、最初から最後まで飽きることがない、実に面白い作品でした。
シナリオが高評価のために名作扱いされる作品というのは、美少女ゲームの範疇でのみ語られるべき作品ではない、と一般的な美少女ゲームから逸脱した要素を持つ作品が多いですが、この作品は美少女ゲームの枠を一切抜け出していません。“普通”の、ありきたりな題材を扱った作品なのに、ここまで心惹かれてしまう。これが、この作品の凄いところだと思います。
ただ、不満点がないのかというと、決してそんなことはなく、実は結構あります。全て書き連ねるつもりはありませんが、例えば、峰城大学付属学園の描き方が適当というか、薄っぺらいことが挙げられます。諏訪先生に代表されるように、この学園の教師は有力者(曜子)にへつらい、優等生(春希や小春)を過剰に持ち上げ、問題児(かずさ)を扱き下ろすような不快な描写ばかりです。しかし、実際進学校の先生がこんなクソ教師ばかりなのでしょうか。確かにこんな教師もいるのかもしれませんが、高校という場は生徒にとって人生の分岐点となり得る重要な場所です。むしろ、問題児こそ真剣に向き合って進路を考えてあげなければならないのに、こんな学校でまともな教育ができるのでしょうか。大いに疑問を感じます。また、小春ルートのいじめの描き方も酷かったです。あんな簡単に全部が敵になるものか、と。まあ、エロゲの学校描写にここまで突っ込みを入れること自体野暮なのかもしれませんが、それ以外が説得力のある描き方をしていただけに、どうしても気になりました。
あとは、感情的な面での不満になってしまうのですが、この作品の物語展開は所々恣意的というか技巧的というか、鼻に付く印象を受けます。うまく言葉で説明できないのですが、プレイしていて作者の存在を背後に感じることが度々ありました。例えば、CCでかずさとニアミスして会えないのも、プロポーズ直前にかずさと再会するのも、開桜社がやたらかずさ特集を推してくるのも、かずさの旧家で偶然会うのも、冬馬曜子が白血病で倒れるのも、全て春希を迷わせ、プレイヤーを翻弄するためのものですよね。一つ一つの要素を見ると、十分起こり得ることだけど、全部が起こるのは相当低い確率です。だからこそ、もしこの出来事が違う結果になっていたら、状況は変わっていたのか否か、といろいろ考えてしまいます。
また、codaで春希が「手が届かないくせに、ずっと近くにいろ」的な拷問をかずさに再び味わわせたり、かずさに対するやるせない感情を雪菜にぶつけて犯そうとしたりするのは、明らかにICをなぞっていますよね。見事に心揺さぶられました。
このように翻弄されていてなんですが、作者のことがどうも頭に浮かんできて気に食わないと感じる時がありました。自分はこの丸戸というシナリオライターの作品をプレイするのは初めてなのですが、作品自体は高評価できても、好きなシナリオライターにはならないかもしれないと感じました。
●音楽について
最後に、「WHITE ALBUM2」という作品は音楽なしでは成り立たないので、少しだけ書いておきます。この作品は音楽の使い方も上手いと思います。ICのOPから作中で何度も使われてきた「届かない恋」にはかなり洗脳されました。千晶バージョンやバレンタインライブバージョンもあり、一番の歌詞を勝手に覚えてしまったぐらいです。存在を知っていたとはいえ、codaのOPで2番が流れた時は唖然としました。また、「After All ~綴る想い~」や「Twinkle Snow」の印象も強いです。この2曲はICで強い印象を残しながら、CCではおそらく一度も流れなかったと思います。それがcodaで再び流れることで、ここでICからの因縁にやっと決着が付くのだということを感じさせてくれました。他にも良曲尽くしですが、「WHITE ALBUM2」を代表する曲は何かと問われれば、自分はこの3曲を推します。あと、この感想を書いている途中に知ったのですが、上原れなさん活動中止らしいですね。ちょうど興味を持ったところだったので残念です。
また、本作とは何の関係もないはずなのに、「Routes」のボーカル曲が全曲アレンジして使われていました。「君をのせて」は軽音楽同好会の前の団体の曲として演奏が使われ、「Routes」と「あなたを想いたい」はcodaで雪菜が出演したライブの中で、雪菜によってカバーされていました。制作者の中に「Routes」好きがいたのかもしれませんが、自分も「Routes」は曲、作品共に結構好きなので嬉しい驚きでした。
中でもOPの「Routes」は原曲よりも雪菜バージョンの方が好きになりました。雪菜バージョンを聞くまでは、こんな前向きで明るくて聞いていて気分が良くなる歌だとは思っていませんでした。PC版は途中で積んでしまっているので、またプレイしたい気になりました。
●書き忘れていたことメモ
ここにはこれまでに書くのを忘れていた感想、文脈的に入れられなかった感想メモを箇条書きで残します。
・千晶が付属の学園祭で演じ、レポートのネタしようとした劇が、実は「痕」の四姉妹のお話だったというのは面白い伏線だった。性格の全く異なる柏木四姉妹を演じ分けるなんて、瀬之内晶恐るべし。
・本作で一番恋愛描写が「可愛い」ヒロインは麻理さんだと思う。異論は認めない。けれども、あそこまで「高め」な麻理さんを可愛くさせることができるのは、同じく「高め」な春希だからこそだよね。平凡な我々からすると到底及びつく人種ではありません。そこを勘違いしないようにしないと。
・小木曽孝宏は大学で亜子と付き合うっぽいけど、小春と結ばれる道があっても良かったと思う。攻略ヒロインだから抵抗感を持つ人も多いかもしれないが、そのぐらい報われてやっても良い。孝宏はメインキャラではないというのもあるけど、雪菜みたいな黒さは感じないし、普通に良い奴だ。彼の相手に、キャラは薄いし小春の危機に何もできなかった亜子しかいないのはもったいない。
・小春ルートの友達四人組には最初から特別な仲の良さを感じなかったのはマイナスポイント。あれって小春がまとめていたからこそ何とかやってこれた四人組だよね。小春ルートはいじめ描写の酷さといい、最後のご都合主義的仲直りといい、一番粗さが目立つルートかもしれない。春希と結ばれるまでの過程は一番丁寧だし好きなんだけど。
・依緒と武也の具体的な過去は結局描かれなかったが、10年もこじらせている時点で病みっぷりは春希以上。CCで依緒ルート(もちろん相手は春希)があって掘り下げてくれたらもっとドロドロに盛り上がったかも。春希×依緒なんてどうやったら実現するんだって話ですけど、もしできたらならcodaかずさルート以上に友情崩壊するだろうね。激しい胃痛がすること間違いなし。
・CC本編には名前どころか存在を仄めかすことも回想で出てくることもなかった友近(ノベル「歌を忘れた偶像(アイドル)」に登場)。雪菜はもちろんのこと、春希にとってもそんなどうでもいい存在だったんですね(まあ、絶交してるし)。春希も含め、あんなレベルの高すぎる連中からすると、ただの苦学生が舞台に上がることなんて到底無理だったか。哀れ友近、君のことは忘れない。
……これで感想は終わりですが、一つ書き忘れていたことがありました。一言感想の最後に書いたアレです。まあ、どうでもいいことなんですけど、こんな長文感想の中に書いても誰も読まないだろうと思ったので、あえて一言感想に書きました。なぜだかわかりませんが、自分はあの照れた時に思わず息を吸い込む声にやられました。わあ天使だ、と。雪菜の魅力、天使のようなヒロイン像の演出にはあの声の力は非常に大きかったと思います。自分としては初めて聞く声でしたが、ベストな配役でしたね。
こんなに長々と感想を書いてきましたが、実は一番書きたかったことはこれだったかもしれません(笑)。