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yotoさんのsense off ~a sacred story in the wind~の長文感想

ユーザー
yoto
ゲーム
sense off ~a sacred story in the wind~
ブランド
otherwise
得点
90
参照数
461

一言コメント

シナリオを受動的にしか読めなかったため,最初はあまり面白さは感じなかった.だが,テーマが判ったときに構造の良さに気付き,180度評価が変わった.エンターテインメントという一点でのみ考えるならばあまり評価は出来ないが,それを考慮しても高評価したいと思った.

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオは自身のみで存在することは困難であると思う.
シナリオの世界,人物に纏わる法則をシナリオ内で全て語ることは実質不可能である.そのため,シナリオ内でされた説明以外に,現実世界といった何らかの前提となる世界が存在すると思う.そして,シナリオはその世界の法則を踏まえて読むため,シナリオ内で描かれていないことでも行間を読むという形で理解可能となるように思う.この前提となる世界のうち,最も容易に扱えるのは現実世界であり,実際,多くの作品は現実世界が前提だと思う.事実,作中のある人物の挙動に対し心情理解を試みたとき,多くは自分の現実世界での経験を踏まえる.このため,多くのシナリオにおいては次のことが言えると思う.

シナリオは現実世界に対し二次的である.

これは同時にシナリオの限界も示していると思う.シナリオの創造は自由といっても,現実を頼らざるを得ない(それ単体で存在できない)「不完全」なもので,現実世界を超えられないと思う.

この作品の場合,前提法則というものはライターの思考の中にあったように思う.

当然のことながら,ライターの思考は読み手には理解することはできないため,説明を必要とする.しかし,このシナリオは論理的な進行であったため,説明を必要とする部分は論理の前段階と目的であった.そして,この役割を担うのがおまけシナリオである依子と慧子シナリオで,前段階が依子,目的が慧子となっていたと思う.(つまり,依子シナリオでこの作品を書く理由,慧子シナリオで目的が与えられていたと思う)

これによって,ライターの思考が前提にあるにも関わらずシナリオを成立させられ,一次的(それ自体で完全)なシナリオが出来ていたように思えた.

ただ,それ故に,受動的になる箇所が多く,エンターテインメントとしてはあまり良くないようにも思えた.だが,テーマを主体とした作品で,ライター自身の思考をシナリオにそのまま反映させることが出来ているというのは,非常に優れた構造だと思い,高く評価した.