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yotoさんのCLANNADの長文感想

ユーザー
yoto
ゲーム
CLANNAD
ブランド
Key
得点
90
参照数
235

一言コメント

KEYの作品で初めてテーマを褒めたいと思った.都合が良い展開など所々に不満はあるが,最大の不満はこういった粗があまりにも多く,満点をつけられなかったこと.

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私の意見を解りやすくするため,先にこの作品の構造の私なりの見解を書いておきます.

KEYの作品はテーマが主体であるが,その伝え方がいずれも感覚的である.そして,この作品では,その媒体の大部分がキャラクタであったと思う.より具体的に書くと,シナリオ自体は,おおよその方向性を決めるテーマの枠組み(最低限の論理構成)だけで,その中身はプレイヤがキャラクタの行動や心理を想像することで補完されていく手法だったと思う.(行間を読むというレベルではなく,妄想の域)

実際,アフターストーリーにて「秋生がバスジャックに遭遇」「祖母に父親の過去を聞かされる」「杏や風子,公子と出逢う」,これら3つのシーンは上記の手法が顕著に現れている.特に前の2つは,その段階におけるテーマの主張に関しては最も重要な面であり,想像させることを前提としている.(具体的に解るようには描かれていない)

もっとも,この手法を実現するには,キャラクタの心情を想像ができるだけの環境を整える必要がある.これに大きな貢献をしていたのが,各キャラのシナリオであり,これらで作中の世界を確立させることで,基盤を作っていたように思う.具体的には,1つのシナリオで多くのキャラクタを登場させていたことが挙げられる.つまり,各キャラのシナリオは,1つ1つのシナリオを完成させるというよりも,それぞれのキャラクタの関係,個性を確立させ,心情を想像できる状況を作りだすことが目的であったように思う.

(他にも,始めからテーマが「家族」であると判らせることで,作品の見方に先入観を与え,想像の方向を縛ったことも少しは影響していると思う)


この作品のメインテーマは「家族(人の絆)」であるが,これが上記のように,プレイヤが想像することで構成されているならば,実質的にはテーマはプレイヤ内部から出ていることになる.(このような見方を前提としている意見だが)私は,この作品の最も良い部分はこのことだと思う.

プレイヤ内部から出てきたテーマというのは,その人にとって,ほぼ100%意味のあることだろう.そして,特筆すべきは,こうして出た各プレイヤ異なるテーマをエンディングで纏めたことである.(「家族は素晴らしい」「人の絆は大事だ」といった結論は,当たり前である分,幅広いテーマを収束させる効力があると思う.)

確かに,よくある当たり前のテーマではあるが,当たり前でありながら意味のあるものにしたこと,そして,それに対し結論を出していることは,高く評価できると思う.

[補足]:便宜上テーマを「家族」や「人の絆」と書いたが,実際には,この作品のテーマは簡単に一言で表せる内容ではないと思う.各プレイヤから発せられるテーマは,ストーリーにも依存するが,極端な言い方をすれば,どんな見方も出来る無限の広がりを持つ.そして,この作品のストーリーには学生時代の「友情」「恋愛」,卒業後の「仕事」「子育て」「出産」といったように,主題になり得る素材を幅広く取り入れている.そのため,一言で表現するのは困難であると思う.

最初に妄想と書いたように,的確にシナリオのみを見つめた場合は,安易な展開が続くだけの中身のないシナリオだろう.だが,作品を好意的に受け入れれば,質も量も大きく変化すると思う.惜しいのは,今までの作品と似たようなネタを使うことや描写不足などが原因で,アフターストーリー以外に,単体で(KEYの水準を考えると)満足のいくシナリオが無いことである.また,アフターストーリーにしても幻想世界を放置し過ぎであることや,出演キャラクタ数の少なさが気になる.(幻想世界に関してはテーマの軸が日常にあることを考えると仕方が無いようにも思う.)

個人的には短所は多いが,それ以上に長所が多い作品という印象だった.