雰囲気も良いし,キャラクタも魅力的ではあった.そして,何よりも考えることが面白かった.多少,人を選ぶ作品であると思うが,解釈を楽しみたいと思う人ならば楽しめると思う.
この作品の世界(舞台設定)は多くの人が持っているだろう世界の認識とは大きく異なっており,容易に世界(設定)を説明することはできないものであった.しかし,シナリオは世界(設定)という土台があり,その上で組み立てられていくため,どのような世界であるかを解るように描写しない多くのシナリオは,ご都合主義,もしくは支離滅裂で説明不足のものとなる.
そのため,このシナリオにおいても何処かで世界の説明が必要となると思うが,一方で,世界の仕組みを世界の中の存在(キャラクタ)が全てを説明することは非常に不自然とも言える.そこで,この作品では,各キャラクタの主観による言動,及び主人公の体験で世界の仕組みを垣間見せていた.この構造がこの作品の短所にもなり,長所にもなっていると思う.
まずは,長所から述べる.
この作品は,本来は謎解きの前提となる世界の仕組み(設定)を完全に理解することが困難であるため,世界の仕組み(設定)も謎の1つとなる.これは言い換えると,問題(謎)と前提(世界)が混同していると言え,解釈の作業の際には問題→前提の解明→答えという手順が必要となると思う.
また,上記のように,世界の仕組み(謎)の説明はシナリオ内に分散されているため,解釈への取っ掛かりが無数となり,解釈の一歩目から千差万別で考えることの自由が非常に大きかったように思える.また,解釈が問題→前提の解明→答えのように二段階必要ということは,謎1つに対し解明することも多くするため,考える要素を増やすことになるなり,解釈を楽しむことに関しては非常に良い作りだったと思う.
次に,短所を述べる.
このシナリオでは,解釈抜きに読むと山場と感じる箇所が非常に少なかったように思う.そのため,プレイヤに対し解釈を行うモチベーションをあまり与えられず,積極的に考察を試みなければ,考える前に説明不足と受け取られやすく,好意的に見なければこの構造は短所になると思う.実際,私も解釈し始める前は,説明不足というイメージが強かった.
ここまで長所,短所について述べたが,この作品で最も良かった所は,キャラクタが世界の中の存在であることを認識し,不自然なまでに説明していないことだと思う.説明過多であれば自己満足のシナリオとなり,逆に,説明が足りなくてはご都合主義のシナリオとなるだろう.私が高評価した最大の要因は,考えることが面白いということだが,この長所が作れたのは,このような世界の仕組みを用いたことの他に,キャラクタの扱い方も大きな要因だと思う.
自ら好意を持って解釈をし始めるかにより,長所になるか短所になるかが変わると思うが,長所として捉え,考え始めると楽しめる要素が非常に多い作品だと思う.