エロゲーやギャルゲーによく見られるキャラクタの記号化を利用した作品.「Sense Off」と同様にエンターテインメントとしては評価できないが,それでも評価したい良さを持つ.
エロゲーやギャルゲーの作品でよくキャラクタを記号化する.これはおそらく,作品の性質上キャラクタの魅力が必要となる作品で,より簡単に個性を出させる手段として用いられるのだと思う.だが,一方で,感情を簡単化することは難しいため,記号化することによりキャラクタは人間性を失うとも言える.そのため,極端な記号化により人間から大きく外れることを避けるため,これらのキャラクタの造形の多くでは(製作者がそれほど考えていなくとも)現実世界を意識したものとなっていると思う.
つまり,これらの作品は,記号化という現実と対極に位置する場所に向かおうとする手法を用いつつも,現実との距離をある一定以内には保とうとしているように思う.
この作品では,このことを逆に利用し,極端な記号化を行っていた.そして,これにより現実との鎖を断ち,キャラクタにライター自身が利用目的を与えることで,ライターが持つものをシナリオの世界に反映させていたように思う.
要は,「Sense Off」ではライターの思考の中にある目的をシナリオの目的としてプレイヤに与えることで,一次的な(ライターの思考をそのまま反映させている)シナリオを創るのに成功していたのに対し,「未来にキスを」ではキャラクタに役割を与えることで,一次的なシナリオを創っているように思えた.
しかし,この作品は「Sense Off」と異なり,一次的なシナリオを完璧には作れていなかったように思う.その原因は主人公の存在で,このキャラクタだけはシナリオ内で十分な役割が与えられていなかったように思う.(主人公に対するシナリオ内での言及が少なすぎる)そのため,主人公の立場に疑問が残り,ライター自身が持つ考えを十分に描けていなかったように思える.
この作品の私の評価としては,「Sense Off」と同様,ライター自身の思考をシナリオで多分に反映させられている優れたシナリオというものだが,主人公の分だけ説得力に欠けたと思い,減点した.